壊乱のキルマリア
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窮地を救ってくれた女性に、俺は改めて礼を言った。
「た、助けてくれてありがとう」
老人口調の麗人はニカッと笑う。
「腕試しにクマ公退治に来たのじゃが、仕損じた生き残りに標的にされてしまったようじゃの。災難だったな、少年」
熊殺しの美女は腕をグルグルと回しながら、そう言った。
仕損じた生き残り……?
そういえばあの熊は手負いだった。
この人の仕業だったのだろうか。
「十三体……十三体ダ……! ヨクモ我ガ配下タチヲ……許サヌ……!」
地の底から唸り声が聞こえる。それと同時に地面が揺れる。
「な、なんだ……!?」
何事かと怯える俺をよそに、女性は待ってましたと言わんばかりにほくそ笑んだ。
「んふ♪ 親玉のお出ましじゃな!」
ゴゴゴという轟音と共に大地が裂け、その割れ目から巨大なモンスターが現れる。
それは身の丈5メートルほどの巨大な熊であった。
「許サヌゾ、キルマリア!!」
突如出現した人語を喋る巨大な熊に、腰が抜けそうになる俺。いや、実はもう抜けている。
「で、でで、でけぇ!! しかも服着て言葉も喋ってる!?」
その熊は鎧や装飾品も纏っていた。先ほどまでの野性味溢れるただの熊と違い、種の長のような風格を醸し出している。
「クローディオ森林の主、カイザーベア! カッカッカ! 熊狩りしていれば、いずれ現れると思っておったぞ!」
キルマリアと呼ばれた女性は、その巨躯を前にしても全く怯むことはなかった。むしろ悠然としている。
カイザーベアと呼ばれた森の主が口を開く。
「同ジ魔族ヲモ腕試シデ狩ル戦闘狂……噂通リノ狂人メ……!」
「ハッ! 戦闘狂とは褒め言葉じゃな!」
いきなり目の前で繰り広げられようとしている、カイザーベアVS魔女めいた女性の対決。
何この状況!?
キノコ狩りに来たはずなのに、いきなりレイドボス討伐イベント始まったんですけど!?
「燃エ尽キロ! キルマリア!!」
カイザーベアがガパァッと大きく口を開く。
「! 少年!」
キルマリアが、側にいた俺を片手で引き込み、抱きしめる。
「わぷっ! な、何をす……」
次の瞬間、カイザーベアがファイヤーブレスを吐いてきた。凄まじい威力だ、周囲が一瞬で焼け野原になる。
しかしキルマリアは、俺を抱き留めているのとは反対の腕を前方に掲げ、眼前にバリアを発動。ファイヤーブレスを防いでみせた。
「ヌウ!? 防ギオッタ!?」
驚くカイザーベア。驚いたのは俺も同じだ。
「お、俺を助けてくれたのか!?」
「”姉”と呼ばれたからには、”弟”は助けんとのう?」
飄々とした様子で、そんなセリフを吐くキルマリア。
「今度はこっちのターンじゃの! 本物の炎を見せてやろう!」
キルマリアはカイザーベアに向かって疾走。
大地を蹴り天高く舞い上がると、眼下の標的に向かって呪文を詠唱した。
「地獄の業火に抱かれて消えい! 『クリムゾン・ブレイズ』!!」
地面から何本もの火柱が立ち、カイザーベアを焼き尽くす。
「ギャオアアアアア!!」
この森林帯の主であったらしいカイザーベアは、一撃で消滅した。
地面に着地するキルマリア。焦土と化した地面を見ながら、彼女は退屈そうにふうっと溜息をついた。
「熊の王ならばわらわを満足させてくれると思ったのじゃが……また一撃で終わったか。つまらんのう」
なんて強さだ。俺は驚嘆した。
マヤ姉の暴虐的な強さを常日頃目の当たりにしている俺でも、このキルマリアという女性の強さには驚きを隠せなかった。
「ケガはないか、少年」
キルマリアが俺の安否を確かめてくる。
先ほどから脳内で気安く「キルマリア、キルマリア」と連呼しているが、この人は一体何者なんだ。名うての冒険者か何かだろうか。
「あ、ああ。平気。あの、アンタは一体……?」
思い切って正体を尋ねる。
彼女は居丈高にカッカッカと笑うと、こちらの目をジッと見据え、こう言った。
「わらわは魔王軍幹部、魔王六将が一人、壊乱のキルマリア」
…………
俺は一瞬、感情が無になった。
は? となった。
魔王六将と言いましたか、この人。
なにそのパワーワード。