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壊乱のキルマリア

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズを開始しました。

https://www.sunday-webry.com/detail.php?title_id=1021

 窮地を救ってくれた女性に、俺は改めて礼を言った。


「た、助けてくれてありがとう」


 老人口調の麗人はニカッと笑う。

「腕試しにクマ公退治に来たのじゃが、仕損じた生き残りに標的にされてしまったようじゃの。災難だったな、少年」

 熊殺しの美女は腕をグルグルと回しながら、そう言った。


 仕損じた生き残り……?

 そういえばあの熊は手負いだった。

 この人の仕業だったのだろうか。


「十三体……十三体ダ……! ヨクモ我ガ配下タチヲ……許サヌ……!」


 地の底から唸り声が聞こえる。それと同時に地面が揺れる。

「な、なんだ……!?」

 何事かと怯える俺をよそに、女性は待ってましたと言わんばかりにほくそ笑んだ。

「んふ♪ 親玉のお出ましじゃな!」


 ゴゴゴという轟音と共に大地が裂け、その割れ目から巨大なモンスターが現れる。

 それは身の丈5メートルほどの巨大な熊であった。


「許サヌゾ、キルマリア!!」


 突如出現した人語を喋る巨大な熊に、腰が抜けそうになる俺。いや、実はもう抜けている。

「で、でで、でけぇ!! しかも服着て言葉も喋ってる!?」

 その熊は鎧や装飾品も纏っていた。先ほどまでの野性味溢れるただの熊と違い、種の長のような風格を醸し出している。

「クローディオ森林の主、カイザーベア! カッカッカ! 熊狩りしていれば、いずれ現れると思っておったぞ!」

 キルマリアと呼ばれた女性は、その巨躯を前にしても全く怯むことはなかった。むしろ悠然としている。


 カイザーベアと呼ばれた森の主が口を開く。

「同ジ魔族ヲモ腕試シデ狩ル戦闘狂……噂通リノ狂人メ……!」

「ハッ! 戦闘狂とは褒め言葉じゃな!」


 いきなり目の前で繰り広げられようとしている、カイザーベアVS魔女めいた女性の対決。


 何この状況!?

 キノコ狩りに来たはずなのに、いきなりレイドボス討伐イベント始まったんですけど!?


「燃エ尽キロ! キルマリア!!」

 カイザーベアがガパァッと大きく口を開く。

「! 少年!」

 キルマリアが、側にいた俺を片手で引き込み、抱きしめる。

「わぷっ! な、何をす……」

 次の瞬間、カイザーベアがファイヤーブレスを吐いてきた。凄まじい威力だ、周囲が一瞬で焼け野原になる。


 しかしキルマリアは、俺を抱き留めているのとは反対の腕を前方に掲げ、眼前にバリアを発動。ファイヤーブレスを防いでみせた。

「ヌウ!? 防ギオッタ!?」

 驚くカイザーベア。驚いたのは俺も同じだ。


「お、俺を助けてくれたのか!?」


「”姉”と呼ばれたからには、”弟”は助けんとのう?」


 飄々とした様子で、そんなセリフを吐くキルマリア。


「今度はこっちのターンじゃの! 本物の炎を見せてやろう!」

 キルマリアはカイザーベアに向かって疾走。

 大地を蹴り天高く舞い上がると、眼下の標的に向かって呪文を詠唱した。


「地獄の業火に抱かれて消えい! 『クリムゾン・ブレイズ』!!」


 地面から何本もの火柱が立ち、カイザーベアを焼き尽くす。

「ギャオアアアアア!!」

 この森林帯の主であったらしいカイザーベアは、一撃で消滅した。


 地面に着地するキルマリア。焦土と化した地面を見ながら、彼女は退屈そうにふうっと溜息をついた。

「熊の王ならばわらわを満足させてくれると思ったのじゃが……また一撃で終わったか。つまらんのう」

 なんて強さだ。俺は驚嘆した。

 マヤ姉の暴虐的な強さを常日頃目の当たりにしている俺でも、このキルマリアという女性の強さには驚きを隠せなかった。


「ケガはないか、少年」

 キルマリアが俺の安否を確かめてくる。

 先ほどから脳内で気安く「キルマリア、キルマリア」と連呼しているが、この人は一体何者なんだ。名うての冒険者か何かだろうか。


「あ、ああ。平気。あの、アンタは一体……?」

 思い切って正体を尋ねる。

 彼女は居丈高にカッカッカと笑うと、こちらの目をジッと見据え、こう言った。


「わらわは魔王軍幹部、魔王六将まおうろくしょうが一人、壊乱かいらんのキルマリア」


 …………


 俺は一瞬、感情が無になった。


 は? となった。


 魔王六将と言いましたか、この人。


 なにそのパワーワード。

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