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アサヒが魔王か

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~8巻発売中です。

9巻が来週発売となります、よろしくお願いします!

「チャージからの……二倍攻撃!」


「キャウン!」


 王都から少し離れた草原にて、ウルフ相手にレベル上げをする俺。

 しかしどうにも気が乗らない。


「気もそぞろ……そんな感じだな。レベル上げの最中も」

「マヤ姉」

 後方腕組み見守り姉さんことマヤ姉が、木にもたれ掛かりながらそう指摘する。

 俺には不相応な敵がやって来たら、マヤ姉が瞬殺する……いわば用心棒である。


「キルマリアのこと、どうして叫んでいるんだ?」

「や、やっぱり分かる?」


 前回の件からどうもキルマリアとギクシャクしてしまい、彼女が俺を呼び止めたりちょっかいかけたりしてきても、無視するようになってしまったのだ。

 そのたび、キルマリアは「むむむぅ…」とむくれていた。


「いやさ、魔王って言われて浮かれてたけど、よくよく考えたら色々と疑惑が生まれちゃってさ……」

「今までのキルマリアの行動も裏があったんじゃないか……と?」

「う、うん。そう思ったら、どう接していいか分かんなくなって……」

 これまで長いこと同じ時間を過ごしてきた仲だと言うのに、情けない話である。


 マヤ姉が自分の拳を見つめながら言う。

「……キルマリアとは何十回とケンカした」

「へ? ああ、まあ。そのたび地形変えてきたよね、ホント」

 きょとんとしてから、呆れ顔になる。

 この二人がバトると、山のひとつやふたつ普通になくなるからね。 


 マヤ姉の握りこぶしに力が入る。

「拳を交えてきたから分かる。あの女は……キルマリアはバカだ。単純だ。裏表なんて作れるタイプじゃない」


「!……」

「それはお前だって分かっているだろう、朝陽?」

「う、うん……ん?」

 姉弟の会話を遮るように、ドスンドスンと大きな足音が地響きと共に近付いてきた。

 なんだ、この恐竜でも迫ってきているかのような足音は……


 襲ってきたのは、本当に恐竜であった。


「ティティティ、ティラノサウルスぅぅぅ!?」


 映画で見たことあるヤツが俺めがけて襲ってきたのである。

 ジュラシッ○パーク始まった!?


「止まれ、恐竜!」


 マヤ姉が恐竜の尻尾を掴み、突進攻撃を止める。

 いや普通に考えたらこれもおかしいけれど。

 恐竜って人間の膂力でどうにかなるものではない。


 だが恐竜は突進を止められながらも、首だけ動かし俺に襲いかかってきた。

「うわあああ!」

「伏せろ、アサヒ!」

「ハッ!」


 空から見慣れたフォルムの女性がやってきた。

 キルマリアだ。


「『フレイムランス』!」


 巨大な炎の槍を放ち、空から垂直に恐竜を串刺しにする。

 魔王六将の必殺は、それはもう文字通り必殺……恐竜は一撃で昏倒した。


 キルマリアは地面に着地すると、ズカズカとこちらへ歩み寄ってきた。

「アサヒ、無事じゃったか!」

「サ、サンキュー、キルマリア……!」

 キルマリアが俺の両頬を左右から掴み、グッと顔を引き寄せた。

 近い近い、顔が近い。


「やーっとわらわを見たな! ここ最近、ずっと無視しよってー! 寂しかったんじゃぞー!」


 顔を上気させながら、そう詰め寄るキルマリア。

「ほ、ほへん……(ご、ごめん)」

 俺は目を丸くしながらも、その勢いに圧されつい謝った。


「な? 裏など作れる女ではないだろう?」

 マヤ姉が肩をすくめる。


 そうだな、バカだな、俺。

 ”姉”を疑うなんてさ。


「姉弟二人だけの秘密…というのも”オツ”だったんだがな。いいじゃないか、キルマリアにも知ってもらおう」

「マヤ? なんじゃ?」

「……うん、そうだね」

「むむ? 何の話じゃ?」

 キルマリアはキョトンとしている。



 かくかくしかじか。

 …………

 …………

 …………



「アサヒが魔王の生まれ変わりじゃとぉー!?」


 ツバをいっぱい飛ばして驚くキルマリア。

 そのツバ、全部俺にかかっているんですけど。


「ユージーン……20年前の魔王討伐メンバーが言うにはな。激闘の末に肉体は滅ぼせても、魂までは消し去れず……」

「で、巡り巡って、俺の中にあるんだって。知らないけど」

 改めて説明しても、当人がまったくピンと来ていない。

 末尾に知らんけどを付けずにはいられない。


「でも魔王って別に今いるんだよね。六将がこうして健在だし、王国サイドだって今なお魔王討伐軍出してるんだし」

「わらわは一度しか謁見したことないんじゃよ。声も姿も知らんのじゃ」

「そうなの?」

「参謀……そいつも魔王六将の一人なんじゃが、その参謀越しでしか会話したことはない。幕に隠れて、シルエットだけは薄ら見えていたがの」

 なるほど、大魔王○ーン様パターンね。


「ほう、空位ではないんだな」

「やっぱりいるんだ……。じゃあ俺が魔王なんて何かの間違いだよなぁ。ジョブ画面には魔王って確かにあったけど、これももしかしたら他の冒険者にもあって、”人は誰しもが魔王になる可能性を秘めている”的な単なる一ジョブかもしんないし。はは、そもそも魔王ってジョブなんかよっつー話だし」


「ううむ……」

 キルマリアは顔を伏せて、なにかを考え込んでいる様子だ。

 魔王六将のこの態度、やっぱり俺が魔王の生まれ変わりなんてあり得ないと思っているんだろう。

 実際今の俺、よわよわだしなぁ。


「はは。キルマリアもこんな荒唐無稽な話、信じないよね。ごめん、忘れ……」


「カッカッカ! アサヒが魔王か! 面白い!」

 大笑いしながら被せ気味でキルマリアは言い放った。


「えっ」

「いや合点がいったわ! 魔王の姉じゃ、マヤも強いわけじゃ!」

「カンタンに信じたな」

「いやいや! 俺自身、全然自覚ないんだぜ!? 大体今いるんだろ、魔王!? 自分で言ってたじゃん!」


「シルエットでしか見たことない怪しいヤツじゃぞ? 一緒に生活してきたおぬしら姉弟の方が万倍信用に足るわ」

 そう言って、キルマリアは二カッと笑った。


 ホント……気持ちいいくらい自分に素直な姉さんだ。


「…………そっか。はは、そっか」

 俺は笑った。


 そんな俺に、キルマリアが腕を絡めてくる。

「なんじゃ、アサヒが素っ気なかったのはこれが理由かえ! ったく、嫌われたんじゃないかと焦ったぞい!」

「ごめんごめ…うっ、苦し…!」

「こら、キルマリア。近いぞ」

 マヤ姉がキルマリアをはがす。


「そうじゃ! 今は弱くとも、いずれ魔王として覚醒するポテンシャルがアサヒにはある……ということかえ?」

「まあ多分……レベルやジョブ進化考えると、遠い遠い道のりって感じだけどね」

 魔王は一日にして成らず、ということだろう。


「戦いたい」

「は?」


「わらわ、魔王となったアサヒと戦いたいぞー!」


 瞳を輝かせながらそう叫ぶキルマリア。

「はぁー!?」

 俺、宣戦布告されちゃってます!?

「臣下がさっそくクーデター起こそうとしてるな」

 マヤ姉が淡々とツッコむ。

 あ、そうか。

 俺が魔王なら、キルマリアは本来は臣下の立場かーって、納得してる場合じゃない。


「そのためにどんどん実ってもらわんとなぁ! カッカッカ!」

「まったく、無類の戦闘マニアめ」

「やべぇ! 実ったら実ったで狩られちまうー!!」


 未来の魔王とその姉と魔王の臣下……不思議なトリオがここに誕生した。

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