この無礼者
「あった……ジョブ画面の最果てに”魔王”……!」
とある日。
俺は自宅のリビングでコーヒー片手にステータス画面を開いていた。
魔王の生まれ変わりなどとという設定を聞かされても、いまだ半信半疑。
ならばステータス画面に何かヒントはないかと確認してみたら、あったのだ、魔王というジョブが。
「何スクロールも先だったから今まで気付かなかった……それにロックされてるから半透明だし」
オープンワールドのゲームのスキルツリーでも、解放できる範囲は確認するけど、一番果てまでは確認しないだろう。それと同じだ。
「アンロックには相当なレベルと、前段階のジョブ進化が必要そうだけど、俺って本当に魔王になれるんだ……!」
ちなみに魔王の前には”イビルプリースト”とか”ダークプロフェッサー”とか”バーサーカー”とか”邪神騎士”とかのジョブが並んでいる。うーん、光感がまるで無い。闇だ、闇属性だ。
けれど……と、俺はほくそ笑む。
今まで村人に毛が生えたような強さだったのだ。
異世界召喚されたけれど、俺ツエーできない不遇な立場。
それが実は魔王の生まれ変わりでした?
少年漫画で、雑草血統の叩き上げ主人公かと思ったら実は伝説級の戦士の血筋でした……と後出し設定で言われたような気分である。人も馬もやはり血統……血統がすべてを解決する。
「ふっ……まるで一夜で世界が変わったみたいだ……俺は魔王だった。すなわち、スペシャルな存ざ」
「アッサヒー! 退屈じゃ、わらわと遊べー!」
「ぶっほ!?」
キルマリアが豊満な胸ごと俺にのしかかってきた。
思わず口に含んでいたコーヒーを吐く。
「えええい! この無礼者!」
そう言って、キルマリアをひっぺ返す。
「なんじゃ無礼者って。王様じゃあるまいし」
カッカッカと笑うキルマリア。その言葉を聞いて、俺はちっちっちと指を振る。
「ふふっ、王様みたいなもんなんだよなぁ。聞いて驚け、実は俺はまお……」
いや、待て。
そういえばキルマリアは魔王六将……魔王軍の大幹部だ。
魔王の側近だ、つまり。
でも、今まで魔王について何かを喋った記憶は無い。
あったら、興味津々で俺から質問攻めにしていたはずだ。
まさか……俺が魔王だとずっと前から気付いていた?
気付いていて……それで何か目的があって接触してきていた?
さらに疑念が募る。
あれ、待てよ?
20年前に魔王は討伐されたことになってるんだよな。
ノエルさんやユージーンさんらによって。
でも今なお、魔王討伐の目標は掲げられている。
実際、ジークさんのバルムンクがそうやって送り出されたわけだし。
空位じゃない?
いるのか、俺以外の魔王が今現在……?
もしかしてキルマリアはそいつの指示で俺を監視して……
「難しい顔してどうしたんじゃー?」
キルマリアが俺の首に腕を回して抱き寄せてくる。
ぞくっ。
俺は反射的に、キルマリアを突き飛ばしていた。
「ととっ……! な、なんじゃ?」
キルマリアは目を丸くしている。
「あ、いや、今のは反射的に……」
そこに、洗濯を終えたマヤ姉がドアを開けてやって来た。
ただならぬ雰囲気の俺たちを見て、首を傾げている。
「どうした、朝陽。キルマリア。ケンカか?」
「い、いや、ちがくって……」
俺は返答に詰まった。
「どうせキルマリアがまた余計なちょっかいをかけたのだろう」
「違うんじゃって! ママー!」
「誰がママだ」
マヤ姉の腰に飛びつくも、相手にされず引きずられている。
「…………」
どうしよう。
キルマリアとどう接したらいいか分からなくなってきた。
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