エルフはファンタジーの花形
とある日の軍場邸。
俺はいつものように、ブラコン姉さんからの熱い求愛行動を受けていた。
正確に言うと、羽交い締めにされたまま床に転がされていた。
「朝陽ー! 今日も愛くるしいフォルムだなぁ! 抱き心地サイコー!!」
「だー! 過度なスキンシップやめーい!!」
「キルマリアー! 助けてくれー!」
天井を見ながら助けを請う。
二階ではキルマリアが居候しているのだ。
「あはは、無駄無駄! ヤツはゆうべ深酒して、今もグースカ寝ている」
「つかえねー魔王六将!!」
家賃も食費も払わないしで、引きこもり……いや、こもりびとの子を持った気分。
助け船は思わぬ所からやってきた。
コンコンとドアをノックする音が聞こえてくる。
「ほら、客! 誰か来たよ、出なきゃ!」
「ちっ」
舌打ちしないでもろて。
ドアを開けると、そこには意外な人物がいた。
「ふふ…こんにちは。アサヒちゃんにマヤちゃん」
「ノエルさん!?」
テーブルに三人で座る。
ノエルさんは出された紅茶を一口飲み、言った。
「突然の来訪……びっくりしたでしょう?」
「いや、あ、はい。そうですね」
実際、意外でビックリした。
ノエル・ピースフル。
ソフィのお母さんであり、20年前に魔王を倒したらしい勇者一行の一人。
4人しかいない冒険者ランク・ゴッド級のハイプリースト。
伝説の人だ、それは恐縮もする。
しかし恐縮する理由はそれだけではない。
俺は隣に座るマヤ姉にアイコンタクトを送る。
(俺たち姉弟が異なる世界から来たことも勘づいているフシあるし……怖いね、ちょっと)
(何の用で来たのかは分からないけど、警戒しよう)
瞳でそう会話する。
さすが姉弟といった意思疎通である。
そんな俺たちの様子に気付いたのか、ノエルさんが微笑む。
「アサヒちゃん、そんなに緊張しなくてもいいのよ?」
「い、いやいや、緊張なんて。あ、でもゴッド級ですからやっぱり緊張はしてるかも…」
「堂々としていればいいのよ。それとも何か悪いことをしちゃってる覚えでも?」
「そんなのは全然ないん……です……け…ど…」
脳裏に数々の記憶が蘇り、サーッと顔を青くなる。
そういえば俺、ランク詐称してるんだった!
マヤ姉の尋常じゃない力も隠してるし!
魔王六将とも懇意にしてる!
そのうちの一人はウチに住んでて、現在進行形で二階で寝てる!
むしろ悪いことをしている覚えしか無いまである。
どれがバレても斬首刑モノ……俺、絶体絶命!?
「私が来た理由は……」
俺はゴクリと生唾を飲んだ。
「アサヒちゃんにおつかいを頼みたくって!」
不穏な空気から一点、パアアッと明るく用向きを言うノエルさん。
「お……おつかい?」
「そう、おつかい」
ノエルさんは一枚の手紙を取り出す。
「これは薬の発注書なんだけれど……とある賢者にこれを作ってもらうよう頼んで来て欲しいの」
「は、はあ…?」
「郵便屋さんに頼めばいいのでは? もしくは娘のソフィになど」
「届け先がほんの少し危ない場所だから、力ある信頼できる人に頼みたいのですよ」
怪訝な表情で尋ねるマヤ姉。
ノエルさんは微笑みを崩さずに、そう答えた。
俺とマヤ姉は再びアイコンタクトを図る。
(仲間の身内ではあるが、この人は油断ならないぞ)
(う、うん。怪しさ満点だし断ろう……!)
「す、すいませんノエルさん。俺たち今、忙しくって……」
「そう? それは残念」
おや、存外アッサリ引き下がったぞ?
「行き先はエルフの里なのだけれど」
「エルフ!?」
テンションが上がり、勢いよくテーブルから立ち上がる。
豹変した弟の姿を見て、マヤ姉が目を丸くしている。
「ど、どうした、朝陽。エルフとはなんだ」
「エルフはファンタジーの花形キャラクター! 北欧神話を起源とした妖精の総称で、異世界作品になくてはならない存在なんだ! 耳が長くて、色白で、淡く明るい髪色で……あと人間よりはるかに長寿なんだよ! 数百歳とかザラ! 魔術が得意で、あと手先が器用だからクラフト技術にも優れてて……あ! あと弓の扱いにも長けていて……」
早口オタクと化した俺であった。
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