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姉であり、母であり、父でもある

 バレた、と思った。


 それは軍場家のいつもの朝食風景。

 テーブルには俺、マヤ姉、キルマリアの三人が座っている。

 今更ツッコむ気も失せたけど、完全に住み着いてますね、この魔王六将。


 何がバレたかというと、野菜の食べ残しだ。

 マヤ姉が俺の皿を持ちながら、詰め寄ってくる。

「朝陽。また野菜を残してるじゃないか」


「いやぁ、ちょっとそれ苦手でさぁ…」

 好きじゃないんだよね、ブロッコリーの青っぽさ。あとニンジンの付け合わせ。

「なんだと、あのなぁ…」

 マヤ姉が眉をしかめる。

「カッカッカ! わらわもよくピーマンの食べ残しで折檻されたからのう……アサヒも覚悟するといい」

 キルマリアが楽しげに行く末を見守っている。


 分かってないな、キルマリア。

 マヤ姉ならこういうとき、どう動くかを。


「ならお姉ちゃんが朝陽の食べ残し、いただいちゃうぞー!」


 喜色満面。

 マヤ姉は一口で俺の食べ残しを頬張ったのであった。


「怒らんのかーい!」

 キルマリアがテーブルを叩いてツッコむ。

 その隣で俺は余裕の表情。

「わらわが野菜残すのは断固許さんというのに、なんというダブスタ姉じゃ、こやつ」

「マヤ姉は俺に甘々だからねぇ。俺の食べさしに目がない性格も見越した策さ!」

 自信満々に語ることでも無いが。


「!」

 口の中で俺の食べ残しを咀嚼していたマヤ姉の瞳がギラリと光る。

「いや、育つのか? こんなことで朝陽は……健康的に……」

「マヤ姉?」

 何だ、イヤな予感がする。


「否! この異世界において私は姉であり、母であり、父でもある!」

 いつにも増しておかしな事を言いだしたぞ、この姉。

「無理にでも野菜は食べさせた方がいい! 甘やかしてはいけない!」

 先ほどまでと真逆の思想を持ち始めた。

 これはまずいですよ。


「い、いや、野菜を食べなくても、今どき野菜の栄養素ならサプリで摂れ…」

「サプリってなんじゃ?」

「あ、ないんだった……いやここ異世界だからさ! 不健康になってもヒールとかポーションで何とかなるんじゃない!?」

「カカ…おぬしもわらわの苦しみを受けるがいい」

 キルマリアの瞳が怪しく光る。


「マヤ」

「何だ、キルマリア?」

「クローディオ森林の北東に、魔術や錬金術にも使われるという幻の野菜が生えとるそうじゃ。栄養価も抜群に高いとか…そいつをアサヒに食べさせたらどうじゃ? きっと健康になるぞぉ」

「ちょっ、何言って…」


 マヤ姉が俺を小脇に抱える。

 そして猛然と家を飛び出す。

「それは良い情報だ! 行くぞ朝陽、産地直送の取れたてを食わせてやる!」

「キルマリアー! 余計なことをー!!」

「カカッ! 行ってらっしゃーい」



 クローディオ森林へやってきた俺たち。

 ここは熊に襲われたり、キルマリアと初めて出会ったり、モンスター飯を食わされたりした森である。

 うーん、縁起でもない場所。


「こんなところまで連れてこられるなんて……俺さっきまで朗らかに朝飯食ってたはずだよな…?」

 周囲は鬱蒼とした木々で囲まれている。

 朝だからか霧も薄ら立ちこめており、怪しげな雰囲気を醸し出している。


「しまった」

 マヤ姉が神妙な顔で呟く。

「な、なにが?」

「その野菜とやら、形も名前も分からないんだが。探しようがない」

 俺はギャグ漫画みたいにずっこけた。

「そりゃそうだ! もっと早く気付いてくんない!?」

 そもそもキルマリアのウソの可能性もあるだろうに。


「けぇぇぇ……れぇぇぇ……けぇぇぇ……れぇぇぇ……」


 そのとき、森の奥から何かが聞こえてきた。

 けれ? けれってなんだ?

「な、なあマヤ姉。なんか不気味な鳴き声しない…?」

「行ってみるか」

「い、いや、モンスターかもしれないよ」

「そのときは私が瞬殺するさ」

 頼もしい。

 俺たちは茂みを掻き分け、森の奥へと進んだ。


「助けてけれー……!!」


 するとそこには、巨大な食虫植物に上半身をスッポリ飲み込まれている冒険者がいた。

「人がウツボカズラに食われてるー!?」

 けれというのは、助けてけれと言っていたのか。


「フッ!」

「きゃあ!?」

 マヤ姉がウツボカズラを殴りつけると、たまらず冒険者を吐き出した。

「た、助かったじゃぁ……!」

 冒険者は女性であった。

 登山家のような格好で、背には大きなリュックを背負っている。

「だ、大丈夫? えっとキミは?」


「あだすはナムル。クラン『モンストル・マルシェ』の冒険者だべ! 助けてくれてありがとがんす!」


 女性は二カッと笑った。

 訛りがとても特徴的だ。

 いや、それよりモンストル・マルシェだって?

 そのクラン名には聞き覚えがあった。


「モンストル・マルシェと言うと……」

「シモフリさんの美食クランだ!」

 グルメハンターを名乗るシモフリさんと出会ったのも、ここクローディオ森林であった。

 イノシシの怪物、ボアキングを倒したときにその肉を譲ったのだ。

 代わりにモンスターグルメのレシピ本をもらい、恩を仇で返されたわけだが……


「あんただち、もしかしてイクサバ姉弟!?」

 ナムルが目を見開く。

「シモフリさんから聞いてるべ! たまげだ冒険者だって!」

 たまげだ……凄いと言うことだろうか。


「い、いやぁそれほどでも。ナムルは何でこの森に?」

「幻の野菜さ採りに来たんだども、ビッグ・ウツボカズラさ近付いてしまって……本当、ありがとがんす」

 先ほどの食虫植物はビッグ・ウツボカズラという名らしい。

 食虫というか、サイズ的にはもはや食人植物だったけれど。


 俺とマヤ姉は顔を見合う。

「幻の野菜? ホントにあるんだ」

「私たちもそれを探していたんだ。でも形が分からなくて困っていたところでな」

「ちょうどよかった! んだば一緒に探すべ!」


 俺たちはナムルを同行者に加え、クローディオ森林をさらに進むのであった。

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~8巻発売中です。

2023年のTVアニメ化に伴い、アニメ公式サイトと公式Twitterが開設されました。

よろしくお願いします。

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