海竜のあとしまつ
エスメラルダが去ったあとがまた大変だった。
海竜のあとしまつ……水害に遭った港町ブエナベントゥーラの復旧作業である。
現地の住民や自治体、王国からの災害派遣隊、ギルドから依頼されてやってきた冒険者らによって、急ピッチで後片付けがなされ、数日掛けて街は元通りになった。
俺たちスーパー朝陽軍団も総動員で復旧作業を手伝った。
休暇中ではあったが、グローリアとも縁のある街だ。当然、放ってはおけない。
流れ着いた樹木やゴミ、泥を掻き出す作業に尽力した。
まあマヤ姉やグローリアが重機さながらそれらを撤去している端で、俺は泥に浸かった家を掃除してただけだけど。
☆
そして無事にあとしまつが終わったら……バカンスの時間である!
「海だー!」
水着姿のターニャがはしゃぎながら、我先にと海へ飛び込む。
「こ、こんなに肌が出る服装……恥ずかしいけど、せっかくだから羽を伸ばします!」
ソフィも海へ入っていく。
小麦色の健康的なターニャの肌に、普段は教会内で過ごしているソフィの色白の肌……
そのコントラストが海と青空に映える。
「ほら、ソフィ!」
「もう! ターニャ!」
二人で水を掛け合っている。微笑ましい光景だ。
「あんなにはしゃいで……ふふん、市民だわね。海はもっとハイソに楽しむものなのだわ」
そんなことを言いながら、ユイシスが浮き輪でプカプカ浮かんでいる。
ハイソと言うより、あれはただの泳げない子供の姿と言えよう。
「ふう…優雅なひとときですわぁ……」
パラソルを広げ、折りたたみの簡易ベッドに寝転びながら、フリル付きの派手な水着に身を包んだグローリアがトロピカルジュースを啜る。
その脇では、機能性のみを追求したようなシンプルな水着を来たクオンが、デカい葉っぱでグローリアを仰いでいた。
まるでお嬢さまとそのメイド……まるでじゃない。
ズバリそういう関係性だった。
女子たちがプライベートビーチで戯れているそんな様子を、俺は砂浜の隅っこで眺めていた。
何というか、出るに出られないというか、気恥ずかしいというか。
「アサヒ氏。覗き見など趣味が悪いですよ」
俺の気配に気付いていたクオンが、そう指摘する。
「の、覗き見じゃねーっての!」
「あら、アサヒも着替え終わってましたの?」
「ああ、まあ……でも海なんて小学生の時以来だから、なんか水着になるのハズくて…」
俺が砂浜に現れると、みんなの視線が俺の身体に集まった。
「おお!」
やめろやめろ!
高校一年生の帰宅部相応でしかない薄っぺらい中肉中背、見る価値なんてない!
まあ異世界生活を送ってきたことで、少しは筋肉も付いてはいるけど、それでも人に見せられるほどのもんじゃない。腹筋だって別に割れてないし。
だが、周りの反応は意外にも好印象であった。
「勇者さま! 精悍なお姿です!」
「アサヒくん、肌キレイっすねー!」
「ふーん、アサヒにしては悪くない体つきしてるじゃない」
「半裸のアサヒですわー! 眼福ッ!!」
「お嬢、言い方」
褒められると、それはそれで恥ずかしい。
俺は自然と胸元を隠した。乙女か。
「わたくし、ボディには少し自信がありますの……この水着姿でアサヒを悩殺ですわ!」
「グローリアはちょっと筋肉がつきすぎです。私くらいプニプニしてる方がちょうどいいんです」
「アサヒくん、ちょいちょいあたしのこと黒ギャルって呼ぶけど……もしかして褐色が好みかも?」
「ふん! あんたたちは無駄肉が付きすぎなのだわ!」
女性陣が何やらワイワイと賑わっている。
「む…」
クオンだけが何かに気付く。
砂浜に新たに人がやって来たのだ。
「皆様方……その自信とやら、あのお二方の前でも出せますか?」
「「「「お二方?」」」」
グローリア、ソフィ、ターニャ、ユイシスの声がハモる。
クオンが指差す方を見ると、二人のナイスバディな女性がやってきた。
マヤ姉とキルマリアである。
「朝陽、海に入る前に準備運動だぞ。どれ、お姉ちゃんが手取り足取り手伝ってやろう」
「カッカッカ! このような薄着で海に浸かるなど、人間はおかしな遊びをする生き物……っと。人間口調にせんとな」
マヤ姉は大胆な黒ビキニを着用し、その上から水着のショートパンツを穿いている。
露出度で言えば普段と変わらないのだが、開放的な海というロケーションも手伝ってか、より魅力的に映る。
キルマリアはパレオ付きのエレガントな水着を着ている。
もちろん魔族ではなく町娘の姿であり、あの水着も認識阻害の術でそう見せているだけだろう。
いずれにせよ、二人ともダイナマイトボディである。
クオンが言っていた”お二方”を前にし、グローリアたちは意気消沈してしまった。
「あ、あれには勝てませんわ……!」
「さすがお姉さまです……!」
「相手が悪かったですね。そもそもアサヒ氏、色仕掛けが通用するタイプでもないでしょう」
クオンが淡々と言う。
みんな、俺のことを何だと思っているんだろう。
何はともあれ、俺たちはゆっくり海を満喫することにした。
浸水した街、水棲モンスターやクラーケンの襲撃、対エスメラルダ、街の復旧作業……
この数日は働きづめで疲れた。
今日くらいはのんびり羽を休めよう。
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~8巻発売中です。
2023年のTVアニメ化に伴い、アニメ公式サイトと公式Twitterが開設されました。
よろしくお願いします。
10/24にソフィ、グローリア、クオン、ターニャ、ジークフリートなどのキャストも
発表となるようなので、お楽しみに〜