つくづく奇縁に好かれる子
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~8巻発売中です。
2023年のTVアニメ化に伴い、アニメ公式サイトと公式Twitterが開設されました。
よろしくお願いします。
「海竜のウロコを削って作られたペンダント! コイツを装備すれば物理耐性も魔法耐性も急上昇の一品!」
ホアンさんが得意げな表情でペンダントを掲げた。
琥珀色の宝石のようなものが輝いている。
「ん? それ…」
スマホに夢中になっていたウーが、一瞬こちらを見る。
「どうした、ウー?」
「いや、何でもあらへんよ。続けてー」
ウーは再びスマホの視線を戻った。
電源が入っていないスマホなんて見て楽しいのだろうか。
いや、素材自体この世界ではお目にかかれないオーバーテクノロジーの塊だ。
興味を引かれるのも当然か。
改めてペンダントを観察する。
ユイシスも俺の隣でまじまじと見ている。
「海竜のウロコ? これが?」
「海竜ってつまりリヴァイアサンみたいな? どうやってそいつの鱗を剥いだんだ?」
海の中にいるんだろうに。
「パチモンじゃない? 実はリザードマンのウロコでしたとか」
俺とユイシスは訝しんでいる。
なにせホアンさんの店で取り扱っている珍品だ。
慎重すぎるくらいがちょうどいいだろう。
「お嬢ちゃんにはこっちだ。かまど神の杖!」
無骨な形状だが、魔法使いの素養がない俺でもわかるほどの魔力を感じる杖だ。
ホアンさんが持ってきたその杖に、ユイシスは瞳を輝かせている。
「へえ、炎属性の杖かしら! いいじゃない、いいじゃない!」
「ミストルテイン家のご令嬢さんのお眼鏡に叶うなんて、アタシャ嬉しいよう」
「ふふ、気分がいいのだわ! そっちのペンダントも一緒に頂戴!」
「ありがとさん。2万マニーになります」
貧乏人がひっくり返りそうな高値であった。
というか、俺がもうひっくり返っている。
「たっか! ユイシスが金持ちだからボッタくってません!?」
「いんやぁ、適正価格だよー」
俺は見逃さなかった…獲物を狩る野生の狼のようなホアンさんのその目を。
俺とウーとユイシスは店を出て、街を歩く。
ホアンさんの店は街の外れにあるため、この道は人通りが少ない。
ユイシスは意気揚々と杖を振りながら歩き、ウーは歩きスマホ(電源は入っていないのでディスプレイ真っ暗だけど)をしているが、通行人とぶつかる心配もない。
「良い買い物をしたのだわ! ジル抜きでも買い物くらい一人で出来るんだから!」
ジルさんはユイシス付きのメイドだ。
常にグローリアにべったりのクオンと違い、ジルさんは滅多に姿を見せない放任主義だが。
いや、もしかしたらどこかで偵察しているのかも……
はじめてのおつかいのテレビスタッフさながら。
「ウーはもうよかったのか?」
「うん。ボクにはスマホで十分やし……それに急いで出な、あの店が焼き払われると思てね」
「え」
次の瞬間、ユイシスが持っていたかまど神の杖から、どデカい火球が出現した。
その火球には顔が付いており、その表情は怒りに満ち満ちている。
例えて言うなら、男梅みたいな感じである。
「ユイシス、なに魔法使ってんの!?」
「あ、あたしじゃないのだわ! 勝手に出てきたの! あたしの魔力を勝手に使ってコイツが!」
「その鉄の杖、この世を憂えた鍛冶職人が自ら炉に飛び込んで出来た鉄で作られとるみたいよ」
サラッとウーがとんでもないことを言った。
「めちゃくちゃいわく付きだったー!!」
それ、さっきの店で言ってくれない!?
「この世が憎い…憎い…焦土にせねば……」
「しゃ、喋ったのだわ!?」
男梅、もとい生命を持った火球がいきなり喋り始めた。
炉に飛び込んだ鍛治職人の魂が乗り移っているのだろうか。
セリフがまた物騒すぎる。
火球が口を膨らませて、痰を吐くように幾つもの火の玉を俺とウー目掛けて放ってくる。
ファイアーボールだ、食らったらタダでは済まない。
「あっちむいて……」
以前アグニ戦でやった、攻撃の指向性を変える技をやろうとするウー。
「指向性を変えるだけじゃダメだ、ウー! 街のどっかに落ちちまう!」
「あ、そか」
街が火事になってしまう。
とはいえ、この場で避けても後方にある住宅街が火事になる。
どうすればいいのだろう。
「なら、けんけんぱ!」
ウーがそう叫んで両腕を上下に広げると、空間にけんけんぱの足場のような間隔で次元の穴が開いた。
ファイアーボールが次々その穴に吸い込まれ、消えていく。
「す、すげえ…!」
ナイス亜空間。
「アサヒ、アサヒー!」
ユイシスが大声で俺を呼んでいる。
あっちこっちで忙しい。
「どうした、ユイシス!」
「コイツ、最期の力を振り絞って自爆しようとしてるー!!」
見ると、確かに火球がプルプル震えながら今まさに爆発しようとしていた。
「自爆するタイプだったのー!?」
男梅じゃなく、ファイナ○ファン○ジーのボムだった!
「アサヒくん! さっきのペンダントを投げるんや!」
「え!? お、おう!」
ウーに言われるがまま、投石スキルでペンダントを投げる。
するとそのペンダントの効力なのか、水の膜が張られ、ユイシスの頭上にあった自爆寸前の火球を包み込んだ。
その水の膜……水球のバリアと言うべきだろうか、それが自爆を完全に封じ、猛り狂っていた炎も完全に鎮火した。
ユイシスが持っていたかまど神の杖は粉々になった。
俺はすぐにユイシスに駆け寄った。
「大丈夫か、ユイシス! 身体は何ともないか!?」
「う、うん、平気だけれど……なにが起こったの!?」
俺は地面に落ちていたペンダントを拾う。特に壊れもしていない。
「海竜のウロコ……今の、それの効果ってことか?」
ウートポスを見ると、小さくうなづいた。
「せやね。本物や、それ」
「こんな小さなウロコの欠片に、あんな力が……海竜って凄いんだな」
「ま、魔力を使い切らされてぐったりだわ……アサヒぃ、おんぶぅ…」
「ったく、しょうがないお嬢さまだな」
俺は苦笑いを浮かべた。
そんな二人を見ながら、ウートポスは袖で口元を隠してあはっと笑う。
「あはっ。つくづく奇縁に好かれる子やねぇ、アサヒくんは」
⭐︎
ルペルカーリア海、海上。
一隻の大きな船が海を渡っていた。
「なんだありゃ!?」
「ひ、ひい!」
「せ、船長ぉ! 水中にデカい影がぁ!」
「海の男がみっともなく騒ぐんじゃねぇ! どうせクジラか何かだろ!」
船長が海を覗く。
すると船の下を、船の10倍はありそうな魚影が過ぎ去っていく。
「な、なんだコイツは…ま、まさか伝承の海竜……!?」
その巨大な影に船長は恐れ慄いたが、しかし魚影は船に何をするでもなく通り過ぎていった。
(感じた……”私”をほのかに感じた……)
巨大な魚影がそのまま大陸へ向かっていく。
(魔王六将……”蒼海”のエスメラルダ……行く……!)