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海竜のウロコ

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~8巻発売中です。

2023年のTVアニメ化に伴い、アニメ公式サイトと公式Twitterが開設されました。

よろしくお願いします。

 扉を開けると、いつものように埃臭い匂いが漂ってきた。

 店主曰く「これが味」らしいが、たまには掃除をしたらどうだろう。


「ごめんください、ホアンさーん」


「アサヒくん、息災かね?」

 新聞片手に丸メガネを光らせながら、老齢の店主が挨拶をしてくる。


 ここはホアンさんが営む質屋。

 俺が異世界に来て、最初にお世話になった場所でもある。

 スマホを質に入れて、今の装備を調えたのだ。


「おや? 今日は友達連れかい、珍しいねぇ」

「ええ、まあ…」

 ホアンさんは視線を落とし、俺の隣にいる人物を見た。


「あはっ! お邪魔させてもらうわぁ」


 丈の余った袖を振りながら、ウーが挨拶をする。

 そう、今日はウーも一緒なのだ。

「可愛らしい子だねぇ。自由に見て回って」

「あは、照れるなぁ。そうさせてもらうわ」


 俺とウーは店内を見て回る。

「暇だからって俺についてきたのはいいけど……ウーが興味を引くようなものもないと思うけど」

「いやいや、面白い品揃えやわ」

 ウーは瞳を輝かせている。

「面白い?」

「ボクは鑑定スキルをデフォで持っとるからね」

「へえ、そうなんだ」

 それは便利だ。


 ウーは右手にツボを、左手にランタンを掲げた。

「こっちは蛇神ニーズヘッグを封じ込めてる壷。割ったが最後、街中パニック間違いなしやね。そんでこっちは殺人鬼ブギーマンが使っとったランタン。火を灯すと持ち主が死ぬまでブギーマンの亡霊が付きまとう仕様みたい」

 笑顔でそんな説明をしてきた。

「なにそのおっかねーアイテム!? 絶対呪われてるだろ! 戻せ戻せー!!」


 かつてホアンさんの質屋で手に入れた、数々の呪いの道具を回想する。


 遊戯帝ウィジャボードが封じ込められた瓶。

 持ち主の身体を奪う魔剣ブラッディー。

 ユイシスが使った亜空間を呼び出す闇の杖。


 ホアンさんの店、呪いのアイテム多すぎない!?


「ほんま面白い店やわぁ」

 ウーが楽しげに見て回る。

 なるほど、混沌を好むウーなら気に入るのも無理はない。


 ホアンさんに尋ねてみる。

「こ、この店、なんでこんな危ない物ばっか売ってるんです?」

「うん? 危ないのかい? アタシャ分からないけど……」

 でも、と続ける。

「正規の店では買い手がつかない”いわく”付きの品を引き取るのがアタシの趣味でね。だって可哀想じゃないか、品物が」

 ホアンさんが優しげな表情でしみじみと語る。

 道具屋としての矜持だろうか、少し見直した。


「道具にも魂が宿る……付喪神の発想やね」

 ウーが髑髏のパズルを持ちながらそう言う。

 それも絶対呪われてるだろ。

「そう! 若いのに分かっているじゃないかい、この子!」

 付喪神って日本の言い伝えでは……と俺は内心でツッコんだ。


「アサヒくんから預かった”コレ”だってそうさ。正規の店では怪しい一品だってんで、買い手が付かなかったんだろう?」


「あ! 俺のスマホ!」


 ホアンさんは俺のスマホを取り出した。

 まだあったんだ。


 現実世界では常に肌身離さず持っていた生活必需品のスマホだけれど、こちらの世界ではまったく不要なので今日まで気にしてもいなかった。

 コレもある種、スマホ断ちによるデジタルデトックス効果だろうか。


「なんやこれ!? アーティファクトやわぁ!」


 ウーがスマホを手に取って興奮している。

 電源は入っていないが、ガワや材質だけでも未知のアイテムなのだろう。

「ゲームも出来るし、ウーには良いアイテムかもね。バッテリーはなくなってそうだけど」

「アサヒくん! これ買い戻さへん!?」

「そうね、今は資金にも余裕あるし……いいです? ホアンさん」

「いいよー」


 そのとき、玄関のドアが勢いよく開け放たれる。

 現れたのは意外な人物だった。


「お邪魔するのだわ! 店主、掘り出し物の杖はある!?」


「ユイシス!?」


 それは我がクランの魔法使いにして、良家の令嬢ユイシス・ミストルテインであった。


「おや、ミストルテイン家のお嬢ちゃんじゃないかい」

「ごきげんよう……って、あれ? アサヒじゃない、奇遇だわね」

「ユイシス、なんでホアンさんの店に……え、杖買いに来たって言った!?」

 以前この店で買った闇の杖によって巻き起こった災厄を思い出す。


「ここで買った呪いの杖で酷い目に遭ったってのに、懲りないヤツだなぁ……って、何度も来店して何度も酷い目遭ってる俺が言えたセリフでもないか……」

 なんだかんだでこの店、正規店にはないレア物が多いから惹かれるんだよなぁ。

「ふふーん! 赤銅の四戦士との戦いを経て、いっぱいレベルアップしたんだから! 今ならどんな杖も使いこなせるはずなのだわ!」

 ユイシスが自信満々にそう言う。


 赤銅の四戦士は、タイタンへの道中で遭った伝承の戦士たちだ。

 グローリアが言うには、ユイシスの特大魔法のおかげで勝てたとのこと。

 元のレベルが低かった駆け出し冒険者がいきなり中ボス格を倒したんだ、そりゃあレベルも一気に上がったことだろう。

 ……ヘタすれば、俺よりレベル高いんじゃない?

 確認するの怖いからしないけど。


 ユイシスがウーの存在に気付く。

 ウーはこちらの騒ぎなど意に介さず、俺のスマホを楽しげにジロジロと眺めている。

「アサヒ、あっちの子どもは知り合い?」

「ああ、まあそんなこと」

「ふーん……ちっこい子だわね」

「身長的にはユイシスと同じくらいじゃね?」

 どちらも140cmちょっとしかない。


「そうそう! アサヒくんにオススメの品があったんだ。掘り出し物!」

 ホアンさんが店の奥から小さな箱を取り出す。

「……それ、安全です?」

 一番大事なことをまず聞く。

「安全安全。むしろ安全を保証してくれるものだよー」


 ホアンさんは箱を開けた。

 中に入っていたのは、琥珀色に輝く石のペンダントであった。


「海竜のウロコを削って作られたペンダントだ!」

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