俺の相棒だもん
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~8巻発売中です。
2023年のTVアニメ化に伴い、アニメ公式サイトと公式Twitterが開設されました。
よろしくお願いします。
ジークさんが言っていた聖剣を求め、ダンジョン”地下街フォルトファーレン”を進む俺とマヤ姉。
行く手を遮る亡霊騎士やトラップをくぐり抜け、最深部の手前らしい場所へと辿り着いた。
そんなアッサリ?と思うかも知れないが、いやだって殆どの敵と罠、異世界最強のボディガードでもあるマヤ姉が全部無効化してしまうんだもの。
本来は難関ダンジョンだったのだろうけど、俺は普通に歩いているだけで踏破できてしまった。
だがしかし、最深部への扉の前には二体の石像があった。
翼の生えた鬼めいた異形……ガーゴイルだろうか。
それが大きなハルバードを構えている石像。
「ずいぶん奥まで来たな。あの先がゴールか?」
「たぶん。でも……ゲームだと、このいかにもなガーゴイルの石像が襲ってきたりするんだよなぁ」
そう言いながら、石像をペタペタと触る。
無機質。どこからどう見ても石だ。
杞憂民出ちゃったかな?
そう思った次の瞬間だった。
二体のガーゴイルの目に生気が宿り、石像がゴゴゴと音を立てながら動き出した。
「む。敵だったか」
「やっぱりねー!」
ジークさん、以前ここ潜ってたんなら倒しておいてくださいよ!
倒して石に戻しても、時限式で復活するタイプなのかもしれないけど!
二体のガーゴイルがそれぞれ俺たちに襲いかかってくる。
ハルバード、実に命を刈り取る形をしている。
「ゆ、勇気の前ローリング!」
ダーク○ウルやエルデン○ングで学んだ、敵の脚元にローリングして死中に活を見出す回避を試みる。
ガーゴイルの攻撃が大振りだったのもあり、俺は股下をくぐり抜けてなんとか回避することが出来た。
「マヤ姉は!?」
転がりながらマヤ姉の安否を確かめる。
「遅い。それでは私の命は刈り取れないぞ?」
マヤ姉は、敵が降ったハルバードの上に乗っていた。
漫画やアニメでたまに見る、めちゃくちゃ格好いい回避のやつだ……
「命とはこうやって刈り取るのだ!」
マヤ姉はガーゴイルの頭上にジャンプすると、空中でクルクルと旋回する。
その勢いのままガーゴイルの首元に水平チョップを食らわせる。
「『姉デスサイズ』!」
死神の大鎌よろしく、その水平チョップはガーゴイルの首から上をキレイに切り落とした。
ガーゴイルは完全に沈黙し、瓦解した。
「ひ、ひえぇぇ……俺の身内に死神がいるんですけど……!」
華麗な姉の美技に、酔うどころか震える俺。
しかしよそ見をしている場合では無かった。
「朝陽! 前から来ているぞ!」
「ハッ!」
もう一体のガーゴイルが、俺めがけて攻撃してきた。
俺は咄嗟にブロードソードを構え、ガーゴイルの攻撃をガード。
「いだっ! だっ!」
後方に吹っ飛んでしこたま頭を打つも、何とか事なきを得た。
「いたた……へへ、サンキュー相棒」
ずいぶん長いこと一緒に苦楽を共にしてきたブロードソードに礼を言う。
安物とは言え、存外丈夫なのだ、この剣。
俺に刃を向けたガーゴイルは、顔を上げたときにはすでにマヤ姉の姉デスサイズで命を刈り取られていた。
最深部への扉を守っていたガーゴイル二騎を倒した俺たちは、いよいよ聖剣と相見えることとなった。
聖剣デュランダルは、小さな小部屋の中央に鎮座する騎士の石像が、その両腕で抱えていた。
「あった! 聖剣だ!」
「気を付けろよ、朝陽。どんな罠があるかも分からない」
「そうだね……」
俺は慎重に聖剣を手に取った。
古ぼけてはいるが、精緻な装飾が施された芸術品のような剣。
なるほど、聖剣と呼ぶにふさわしい見た目をしている。
「特に罠もないか……持った感触はどうだ、朝陽。とてつもないパワーを感じたりは?」
「ど、どうだろ……」
正直、聖剣と言われる割には今ひとつ凄みを感じない。
「重さ自体はブロードソードと変わらないから、使いやすそうではあるけど」
「ほう。大仰な見た目の割には軽いんだな」
「うん。何か特殊な素材ででき……ん? 何の音だ?」
ゴゴゴと、何かしらの罠が作動するような音が聞こえる。
ガゴン!という大きな音を立てて、出口がぶ厚い石壁で遮られてしまった。
「出口が塞がった!?」
「なるほど……ジークフリートが言っていたという”持って帰れなかった”とはこういうことか。剣を取ると出口を塞ぐ罠が作動するんだな」
一旦剣を戻すと、再びゴゴゴという音が鳴って石壁が上がっていく。
「なるほど、重みで作動するギミックなんだな。うーん、どうしたもんか……あ」
俺はもしかして…とあることを閃いた。
聖剣デュランダルを再び取り、替わりにブロードソードを石像に置いてみる。
すると罠は作動しなかった。
「ブロードソードで罠が作動しなかった!?」
マヤ姉は目を丸くしている。
「はは、やっぱり。とあるゾンビゲーで似たような仕様があったんだよ。同じ重量の替わりを置けば大丈夫かなって」
バイ○ハザードのショットガン、有名なギミックだ。
「ジークフリートたちは気付かなかったんだろうか」
「バルムンクのメンバーなら、エルフのシューレインさんとかは叡智に長けてそうだから気付きそうだけど……」
壮行会で見かけたバルムンクたちの得物を思い出す。
ジークさんやタンクのゴードンさんは大きな両手剣を抱えていた。
ミモザさんは杖、シューレインさんは弓矢だ。
「デュランダルの重量が、実はブロードソードと一緒だった……ってのがそもそもの罠だったんだろうね。この地に足を踏み入れる人が、初期装備のブロードソードなんて持ってくるわけ無いしっていう」
「なるほどな。良く出来ている」
「何はともあれ、聖剣はゲット!」
「ブロードソードはこのまま置いていくのか?」
マヤ姉がそんなことを聞いてくる。
そりゃまあ、替わりに置いていかないと出られないし、どうせ安物だし……
しかし、石像に置かれたままのブロードソードを眺めていると、今までの思い出が蘇ってきた。
異世界に来てから、あの剣とはずっと一緒だったもんな。
それこそ、マヤ姉より長くずっと。
安物とは言え、俺の相棒だったんだ。
…………
置いていけないよな、こんな暗くて寂しい場所に。
俺はブロードソードを手に取った。
「置いてはいけない……か」
全てを察したかのように、マヤ姉が優しく微笑む。
「俺の相棒だもん。もったいないけど、聖剣は諦め……」
マヤ姉が出口付近へおもむろに歩いて行く。
すると、出口を封じるはずだったぶ厚い石壁を、まるでシャッターを開けるかのように軽々と上へ持ち上げた。
「じゃあ両方持って帰ろう!」
「感傷に浸ってた今の時間返して!?」
☆
地上に出てきた。新鮮な空気うまし。
俺はブロードソードと聖剣デュランダルを二本構えた。
男子みんなの憧れ、二刀流というヤツだ。
「へへ! 二刀流ってのも悪かないね!」
「格好いいぞ、朝陽!」
でも……なんだろう。
先ほどから思っていたのだが、デュランダルに今ひとつ凄みを感じない。
なんならブロードソードと攻撃力も大差ないようにすら感じる。
「装備してるんだけど、効果がイマイチ感じない……ハッ! まさか! 『ステータス!』」
俺は何かを察すると、ステータス画面を開いた。
すると、装備欄の項目に確かにデュランダルの名があるのだが、その文字は他の”ブロードソード”や”旅人の服”などと比べ、うすーく半透明であった。
「む? デュランダルの文字が薄くないか? なんだこれ」
マヤ姉が首を傾げる。
「て……て……」
「て?」
「適性ステータスが足りてなかったー!!」
武器を装備し、その効力を最大限発揮するためには、武器それぞれに適性ステータスが存在するのだ。
例えば装備可能レベル、例えば必須ジョブ、例えば必要STR値。
さすが聖剣と言うべきか、デュランダルが求めるそれはいずれも高いもので、俺はその適性ステータスにまったく届いていなかった。
なので装備はできていても、その強さはブロードソードとさほど差違ない程度にしか発揮できていないのだ。
「こ、こんな罠がまだ待っていようとは……!」
「よく分からないが、使いようがないなら家に飾っておこうか」
「聖剣を、部屋を彩るオブジェに!?」
せっかくいい武器を手に入れても、猫に小判、ブタに真珠、宝の持ち腐れ……
装備できるその日が来るまで、この聖剣にはタンスの肥やしになってもらおう。