聖剣デュランダル
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~8巻発売中です。
2023年のTVアニメ化に伴い、アニメ公式サイトと公式Twitterが開設されました。
よろしくお願いします。
俺の名前は軍場朝陽。
異世界に召喚され、今は剣一本で食っている冒険者だ
侵入者を排除せんと、ダンジョンをさまよう動く鎧騎士とだって渡り合っていける。
「てえええい!」
ガキンと勢いよく弾かれる、我がブロードソード。
「剣一本で全然食えてません! 見栄張っちゃいましたー!」
動く鎧が無手となった俺に襲いかかる。
しかし剣はなくとも、俺には異世界最強の見守り役がいる。
「『姉アーマーブレイク』!」
そう、マヤ姉だ。
魔法が使えぬダンジョン内でも、彼女は触れる物全てを滅殺する格闘術も備えている。
動く鎧は一撃で粉々になった。
鎧を動かしていたであろう悪霊も、同時に霧散する。
「大丈夫か。はい、朝陽の剣」
動く鎧に弾かれたブロードソードを拾ってくれる。
「助かったよ、マヤ姉」
「だが安心するのはまだ早いようだ」
ガシャン、ガシャンという音が鳴り響く。
ダンジョンの奥から動く鎧が大勢やって来たのだ。
「行く手を妨げる鎧だけの亡霊か……このダンジョンの噂が真実めいてきたな」
マヤ姉がそう言う。
「ああ、きっと守ってるんだと思う……聖剣デュランダルを!」
☆
時は遡ること数日前。街の一角。
俺はターニャと一緒に、剣の稽古をするジークさんとロイを見守っていた。
「てい! ていやあ!」
「いい打ち込みだ。もっと上段と下段を振り分ける意識を持って!」
「は、はい!」
ジークさん、すっかりロイの良い師匠だ。
「信じられないっす。ロイに冒険者の才能があるかもなんて…」
ターニャが目を丸くして驚いている。
「あの若さで剣技スキルを身に付けたくらいだもん、ロイは素質あると思うよ」
たぶん俺より…という言葉は飲み込んだ。
ハリボテとは言えゴーレム級としての矜持である。
ターニャはギルドの制服姿である。
「いいの? 仕事中だろ?」
「今は休憩中っす、だいじょぶ」
休憩の合間にこうして弟の稽古を見に来るとは、出来た姉である。
まあウチの姉もそうだし、姉とは基本過保護なものなのかもしれない。
「ロイ君、今日の稽古はここまでにしよう」
「は、はひ……あ、ありがとうございましたぁ……!」
ジークさんはさすが汗ひとつかいていないが、ロイはもうヘロヘロだ。
「ほら、ロイ。汗ふいたげる」
「い、いいようお姉ちゃん! 自分でふくから!」
「なーに照れてるの。反抗期にはまだ早いよー」
微笑ましい光景だ。
「ジークさんもお疲れ様です」
「なに。まだまだ余力たっぷりさ。そうだ、アサヒくん仕合ってみるかい? ほら、この間は中断しちゃったし」
冗談ではない。
「い、いや大丈夫っす! そ、それに今日は剣の調子が悪いんで!」
斬新な言い訳である。
いやほら、道具にも魂が宿るって言うじゃないですか。
付喪神だったっけ?
「そういえば……」
ターニャが不思議そうな顔で俺に尋ねてきた。
「アサヒくんはずっと同じ剣っすね」
「え? ああ、うん」
「買い換えないんすか? それ一番安いブロードソードでしょ?」
うっ、と一瞬言葉に詰まる。
軽くて使いやすいから。
買い換える金が無いから。
マヤ姉がワンターンで戦闘終わらせるから剣強くする必要がないから。
一番下の理由が何より大きいのだが、俺は咄嗟にこう答えた。
「一流冒険者は使う武器を選ばないってね…!」
「ヒュー! さすアサっす!」
ターニャが単純…もとい、素直な子で助かった。事なきを得た。
ジークさんが「でも……そうだな、アサヒくんなら……」と何やら思案している。
「ジークさん?」
「アサヒくん、キミの信念は素晴らしいけど、でも聖剣ってヤツに興味はないかい?」
「聖剣!?」
めちゃくちゃ興味あります!
☆
場面は今現在に戻る。
俺とマヤ姉は長い螺旋階段を下っていた。
「……それで、その聖剣デュランダルとやらがここ、地下街フォルトファーレンに眠っている…と」
「らしいよ」
「ジークフリートはそれを知っていたのに聖剣を手に入れなかったのか?」
「ジークさんも前にバルムンク一行で訪れたことがあるらしいんだけど、聖剣は持って帰れなかったって。キミも挑戦してみたらどうって教えてもらったんだ」
「見つからなかったではなく、持って帰れなかった……か」
その含みのある言い方に、マヤ姉は疑念を抱いているようだ。
確かに「持って帰れなかった」ってどういうことだろう。
謎を抱えながらも、俺とマヤ姉は地下へ地下へと潜っていった。