表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/180

姿形を変えたくらいじゃ

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~8巻発売中です。

2023年のTVアニメ化に伴い、アニメ公式サイトと公式Twitterが開設されました。

よろしくお願いします。

 しかし店主たちの口から出た言葉は意外なものだった。


「兄ちゃんだけかい!? マリアさんはどこ行ったんだ!?」

「くっ、一人で逃げやがったか」

「綺麗な顔して逃げ足はえーんだ……あの人」


 なるほど。

 今、俺の隣にいる幼女がキルマリアとは気付いていないんだ。

 そりゃそうか、大人が急に子どもに戻るとか普通は常識の外だ。

 

 するとこの状況に面白さを見出したのか、キルマリアが俺の腕に抱きついてきた。

「お兄ちゃん! あたちこわーい!」

「はあ!?」

 キルマリアは口元に笑みを浮かべている。

 正体を知っていると「きっつ…!」と感じる演技である。

 

 しかし店主たちへの効果は抜群だ。

「おっと。おどかしてゴメンよ、お嬢ちゃん。飴ちゃんいる?」

「可愛いねぇ。将来飲んだくれの大人になっちゃいかんよ?」

「そうそう、その上ツケを踏み倒すような大人にはね」


 キルマリアと小声で会話する。

「耳が痛いな?」

「やかましいわい」


 店主たちはぞろぞろと引き上げていった。

「カッカッカ! まんまとこの姿に騙されよったわ、店主ども」

「さすがに子どもの姿になってたら気付くのは無理だって」

「飴玉もくれたな。人間の大人は子どもに優しいのう」

 ヒョイッと口に飴玉を放り込む。

「子どもだもん、そりゃ甘やかすさ」

 キルマリアがポンと手を叩く。

「そうじゃ、良いこと思いついた! 市場へ行くぞ、アサヒ!」

「市場? イヤな予感…」



「わあ! これおいしそうー! 食べたいなぁー!」


「やだやだぁー! お兄ちゃんこれ買って買って買ってー!」


「ひもじいよう…もう3日も何も食べてないよう…」


「えっへへー! 今日はお兄ちゃんとお買いものだー! 楽しいー♪」


 喜怒哀楽の感情を巧みに使い、市場でタダで食事をもらいまくる。

 一往復する頃には両手に抱えきれないほどの食べ物を抱えていた。


「カーッカッカッカ! 大漁じゃ大漁じゃー!」

「幼女の姿で市場歩いただけで、こんなにタダ飯を……」

 俺も食べ物を両手いっぱいに抱えている。

 うーん、詐欺の片棒担がされた気分。


「これだけアテがあれば進むわい」

「進む?」

「酒じゃ!」

 そう言うとキルマリアはふところから酒瓶を取り出した。

 俺はブッと吹き出す。

 幼女の姿で酒はコンプライアンス的にアウトー!


「ダメだー! 子どもの姿で酒瓶持つなー!」

 俺は酒瓶を奪った。

「中身は成人どころか、そもそも法の外の魔族なんじゃがのう」


「やあやあ! そこの少年よ!」

 

 往来で急に呼び止められ、そちらを振り向く。

 そこにいたのは甲冑姿に身を包んだ衛兵であった。

 王宮騎士団の格好をしている……いや、それよりこの顔、見覚えがあるぞ。


「私は王国騎士団第八師団副団長ワイマールであーる!」

「ワイマール……あ、この人……!」

 魔剣ブラッディー騒動を起こしたとき、俺を捕縛しようとした衛兵だ。

 ソフィの母、ノエルさんの魔法で宙に浮かされた人でもある。

 普段は城勤めのはずだが、なぜ街へ降りてきたのだろう。


「とある指名手配犯を追って街へやってきたのだが……なにやら身寄りのない幼女を利用して食べ物を奪っている男がいるとの通報! 貴様だな!?」

「えええええー!? 俺がやらせたことになってるのー!?」

 児童虐待の容疑をかけられてしまった!


「こら! 逃げるなであーる!」

 俺とキルマリアは必死に逃げた。

「面倒なことになったのう」

「誰のせいだ、誰のー!」


「ひい、ひい、待つのであーる……!」

 甲冑姿でのダッシュは実に大変そうだ。

 狭い通りをジグザグに進み、ワイマールの追撃を振り切る。

 地の利があるこちらの勝利だ。


「よし、撒いたの」

「撒くって言い方がもう盗っ人のそれ……って、キルマリア! 前!」

「む?」

 路地裏から音もなく現れた黒装束の男に、キルマリアは襟元を掴まれ、宙に持ち上げられる。

 そして続けざまにその喉元にダガーが突き付けられた。

「なんじゃ?」

「キルマリア! 誰だ、お前!?」

 

「くっくっく……誰かって?」

 その人物は目深に被っていたフードをあげた。

 顔に無数の切り傷の跡があるスキンヘッドの男。

 見るからに凶悪そうである。

「俺は切り裂きジョニー! 巷じゃあちったあ知られた賞金首よ!」

「しょ、賞金首……!?」

 さきほどワイマールが言っていた指名手配犯とはコイツのことだろうか。


「おっと、動くな兄ちゃん。何人もの生き血を吸ってきたこのレッドダガー……このガキもその餌食になっちまうぜ?」

「や、やめろ!」

「くっくっく…それがイヤなら道を空けな! このガキを人質に逃げ切ってやるぜ!」

「やめろ、キルマリア!」

 俺は賞金首ではなく、キルマリアの方に静止を呼びかけた。


「あん? どっちに言ってんだ?」

「ほう、これがその得物かえ」

 キルマリアがレッドダガーの刃を指で掴む。

「おいガキ! 指を切り落とす…ぞ…!? あちぃ!? あっつ!」


 指で掴んだ部分が高熱を帯び、刃が熱でドロドロにひしゃげる。

 炎の魔女とも言えるキルマリアならではの技だ。

「もう吸えんのう、血」

「ひ、ひえ……な、何者だこのガキ!?」


 キルマリアは切り裂きジョニーなる男の拘束から逃れると、蹴りを見舞った。

「ふごわああ!?」

 おおよそ幼女から繰り出されたとは思えぬ強烈な一撃で、切り裂きジョニーは10メートルほど吹っ飛び昏倒した。


「だからやめろって言ったのに……」

「安心せい、手加減して生かしとるわ」

 キルマリアは二カッと笑った。



 程経て、俺とキルマリアは帰路についていた。

「カッカッカ! あの賞金首、ちょうど2万マニーとはの!」

「おかげで酒場の店主たちに借金全額返せたなぁ」

「ワイマールとか言ったか? アサヒの児童虐待容疑もわらわの弁明で無罪放免! 万事解決じゃのう!」

「全部キルマリアが招いたことで、俺は被害者でしかないんだけど……まあ一件落着だな」

 都合がよすぎて怖いくらいだ。


 家に着く。

 中ではマヤ姉が夕飯の準備をしてくれているはずだ。

「家に着いたし、そろそろ認識阻害解いて元の姿に戻ったら?」

 そう、ここまで依然、キルマリアは幼女姿のままなのである。


「のう、アサヒ。この姿を利用して、マヤを驚かせてはみんか?」

 そう言ってニヒッと笑うキルマリア。

「マヤ姉にドッキリか……前もこういうのあったな。いいね、乗った!」

「前回はオーラでバレたが、今度は完全に消して挑むぞい」


 ドアを開け、中に入る。

「ただいま、マヤ姉ー」

「おかえり、朝陽。夕飯の支度は済んでいるぞ。それと……」

 マヤ姉の視線が、俺の隣にいる幼女に注がれる。


「こんにちは、おねえちゃん! あたちは……」


「キルマリアも帰ったか。夕食前に手を洗えよ」


「!?」

 俺とキルマリアは頬をくっつけ合って驚いた。

 マヤ姉が瞬時にキルマリアのことを見抜いたからだ。

 そんな俺たちの表情を見て、事も無げに答えるマヤ姉。


「どれだけ一緒に居ると思っているんだ。姿形を変えたくらいじゃ私の目はごまかせない」


 その言葉に感銘を受けたのか、キルマリアは顔を真っ赤にして照れている。

「はは……て、照れることを言うでないわ」

 指をパチンと鳴らし、元の魔族の姿に戻る。


「前、人形になった俺にも気付いたくらいだもんな……さすがマヤ姉」

 ウートポスに人形にされたときのことを思い出す。

「はは、あったなそんなこと」


 しかし……とマヤ姉がおどけてみせる。

「元の姿より、幼女の姿の方がまだ目の毒にならないな。変わってくれないか?」

「ほーう……? そういうことをぬかすか、マヤ…!?」

「はーい、はいはい。ケンカじゃなくて夕飯にしようぜー」

 

 この二人の仲裁もすっかり慣れたものである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ