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喚くなよ、酔っ払い

3/6より、電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』にてコミカライズが始まります。

「ん? なんだ?」


 冒険者ギルドへ向かう道中、屋台が連なる市場にて、またも騒ぎを聞きつける。

 今度の騒ぎは先程の壮行式のような華やかなものではない、荒事と思しき喧騒だ。


「なにがドラゴン級だ! なにが竜狩りジークフリートだ! 生意気なガキが……チヤホヤされていい気になりやがって!」


 身の丈2メートルはあろうかという巨体に不格好な鎧を纏い、脚元には手入れの行き届いていない大斧、サンタかと言うほどの毛量のヒゲを蓄えた小汚いならず者が、酒瓶片手に騒いでいた。

 脳裏に”さんぞくがあらわれた”というテロップが流れる。

 そう、一言で言えば山賊めいた男だ。


「お、お客様……もうそのへんで……」

 酒を提供している屋台の店主が、恐る恐る止めに入る。

 その行為に激昂する男。

「オーガ級の俺様に指図するか! 貴様!」

 大斧を振るい、屋台を両断する。店主は腰が抜けてしまったのか、ひええと叫んでその場にへたり込んだ。


「お、お父さん!」

 店主の娘らしき女の子が、父の身を案じている。

「ガハハ! 酒だ、酒持って来い!」

 傍若無人、やりたい放題である。絶対関わり合いになりたくないタイプの輩だ。


 周囲にある他の屋台の店主や、町民らがならず者を遠巻きに見ながら、口々に文句を吐いている。

「くっ……自分より上のランクの冒険者が居なくなった途端、偉ぶりやがって……!」

「デリヴンめ……何十年もナイト級とオーガ級を行ったり来たりしてる、たいした腕でもない分際で…」

「毎度毎度、あいつの横暴にはウンザリー…ん?」

 町民の視線が一斉に俺に注がれる。


「へ?」


「オーガ級のアサヒだ!」

「おお、あのたったひと月でオーガ級にまでなった天才少年か!」

「デリヴン、お前の悪逆もここまでだ!」

 いきなり担ぎ上げられるオーガ級のアサヒこと、この俺。


(ちょっとぉぉぉ!? なに俺に期待してくれちゃってるのぉぉぉ!?)

 ダラダラと噴き出る汗。

 確かに俺はオーガ級だけれど、その中身はゴリゴリのラビット級……クソザコ冒険者なのだ。

 その秘密を守り通さねばならない事情があるのに、公然の場でこんな山賊もどきとやり合えと?


「お父さんの仇を取って下さい!」

 先ほど屋台を壊された店主の娘が、涙ながらに訴えてくる。

 これはもう逃げ場無しというヤツですか、そうですか。


「こんなチビがオーガ級!? 俺を叩きのめす!? がはは、冗談きついぜ!」

 デリヴンと呼ばれた悪漢が、ちんまい俺を見て居丈高に笑う。

 その言葉に真っ先に反応したのがマヤ姉であった。背後から怖気を感じるほどの圧を察し、ビクッとする俺。


「朝陽をチビと罵ったな……?」


 (弟の悪口言ったヤツぶっ殺すマンだぁー!!)

 かつて同じ台詞を吐いたオーク三兄弟の次兄は、見るも無惨、最大火力で粉々になった。その威力の魔法を生身の人間相手に放ったらどうなるか。

「うっ……!」

 頭の中にスプラッター映像が流れ、すかさずモザイクが入る。

 R18指定で規制無しの洋ゲー並の凄惨な現場が想像できた。できてしまった。

 まあ厳密にいうと俺は15歳なので、R18指定のゲームやっちゃダメなんですが。


 俺はマヤ姉を制止しようと試みる。

「ま、待った! マヤ姉が人間相手に本気出したら、とんでもないことに……」

「安心しろ、朝陽。私にも良識と常識はある。ギリギリ死なない程度に魔法を叩き込み、いっそ死んだ方がマシだったと病床で嘆く程度に留めておいてやろう」

「良識も常識もねえじゃねーか!!」

 この姉、怖すぎる。


 そもそも俺の弱さもバレちゃまずいが、マヤ姉の強さもバレてはいけないのだ。オーガ級の功績がマヤ姉のものだったという真実が露呈しかねないから。なんとか戦わずにして、相手を追い払う方法があればいいのだが。

「ハッ! そうだ!」

 俺はあることを思い付くと、マヤ姉の耳元に口を近づけ、言った。


「マヤ姉! ゴショゴショゴショ……」

「……なに? そんな面倒な真似をするより、直接ぶちのめした方が早くないか?」

「いいから! あとで何でも言うこと聞くから!」

「ん? 今、何でもって……」

 取り返しの付かない言質を取られた気がしないでもないが、今はそれどころではない。


 デリヴンが叫ぶ。

「ガキ共ぉ! 俺を無視して何をコソコソ話してやがる!?」

 俺はくるりと反転すると、ならず者と対峙した。

「ふっ……喚くなよ、酔っ払い」

 口元に笑みを浮かべながら、余裕の表情を見せる。

 マヤ姉に提案した作戦を実行するには、俺は強者感を漂わせないといけないのだ。ハッタリだ、この佇まいは。


「見たところ50歳くらいか。何十年も冒険者やってても中堅止まり……若い才能にどんどん抜かれて、いじけて酒浸りになったクチかな? みっともないぜ、オッサン」

 挑発されてカッとなったデリヴンは、「このガキィ!」と喚きながら、俺に大斧を振るってきた。


「フッ!」

 俺は右腕を横に振る。

 次の瞬間、右側にそびえ立っていた石壁が轟音と共に爆散する。


「ひ、ひえええ!?」

 あまりの威力に、その場で腰を抜かすデリヴン。

「……食らいたいか? その身で、この威力を」

 俺がニヤリとあざけ笑うと、デリヴンは情けない声を上げながら走り去っていった。

 見るからに小悪党の去り際である。


「おお、すげぇ!」

「デリヴンの野郎を追い払った! スカッとしたぜ!」

 その光景を見ていた町民らから、喝采を浴びる俺。

「フッ…………」


 う、上手くいったー!

 クールな表情とは裏腹に、実は心臓バックバクであった。

『マヤ姉! 俺が手を振ったら、その先にある石壁にコッソリ魔法をぶっ放して! 俺の仕業とあの悪漢に思わせて、ビビらせるんだ!』

 俺は先ほど、マヤ姉にこう耳打ちしていたのだ。

 おかげで、俺の弱さもマヤ姉の強さもバレず、悪漢は五体満足で帰ることができた……万々歳、誰も損しないハッピーエンドだ。

 

 そう思って満足げにしていると、マヤ姉が俺の肩をポンと叩いてくる。

 労ってくれるのかな?


「では約束通り、”何でも”をさせてもらおうか」

 マヤ姉は淫靡な笑みを浮かべながら、両手をわきわきと動かし始めた。

「はい?」

 血の気が引く俺を、いつものように押し倒してくる我が姉。


「何でも言うこと聞くと言ったろう!? 朝陽の身体を隅々まで堪能させてくれー!」

「だぁぁぁ! バッドエンドルート入っちまったー!?」

 ハッピーエンドとは何だったのか。





 魔王軍討伐へ乗り出したジークフリート一行。

 長きに渡る予定だった彼らの旅路は、しかし5日目に突如終わりを迎える。


 岸壁に叩きつけられ昏倒している大男。

 同じく意識を失い、地面に横たわる魔法使い。

 美しかった金髪が血で赤く染まっているエルフ。

 

 一人辛うじて立っている騎士の青年、ジークフリートも瀕死の状態である。

「バ、バカな……俺たちが……クラン”バルムンク”が、こんな……あっけなく……!?」

 その視線の先には、謎の黒い影。

「俺たちはドラゴンをも倒したことがあるパーティーだぞ…!? それが……急に現れた訳の分からない魔族に翻弄されるなど……!」


 黒い影が口を開く。

「カッカッカ! 簡単な話じゃ。わらわがドラゴンより遥かに強い存在というだけよ」

 影は楽しげに笑っている。


「お、おのれぇぇぇ!」

 せめて一太刀をと剣を振りかぶるジークフリート。

「ふん」

 影は右手から灼熱の波動を放つと、ジークフリートを事も無げに吹き飛ばした。

「かはっ! こんなはずでは……ぐっ……!」

 意識を失い、倒れるジークフリート。

 4人とも死んではいない様子だが、完全なる敗北である。


「なんじゃ、つまらん。どいつもこいつも一撃で沈む……」

 影は退屈至極といった感じに、ふうっと溜息を漏らす。

 影に光が差す。


 その影は女性であった。

 長い黒髪が風に揺れている。

 仙姿玉質、明眸皓歯、傾城傾国。

 凹凸の際立ったプロポーションで、一言でいえば妖艶な魔女といった容姿をしている。

 その側頭部には、魔族の証でもある角が2本生えていた。


魔王六将まおうろくしょうが一人、キルマリア……わらわを楽しませてくれる強者はおらんのかのう」


 魔女は空を眺めながら、まだ見ぬ宿敵に思いを馳せた。

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