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赤銅の四戦士

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~7巻発売中です。

現在アニメ化企画進行中、もうすぐPVやキャスト発表がなされると思いますのでお楽しみに〜

「つーかーれーたー! もう歩けないのだわ!」


 テンペスト山への登山を開始し、中腹に差し掛かったところ、案の定と言うべきかユイシスが愚図りだした。

「おいおい、まだ半分だぞ」

「そうですわよ、ユイシス。この程度で音を上げていては立派な冒険者になれませんわよ?」

 俺とグローリアがハッパをかける。


 ただユイシスの場合は新人で、しかも道中ここまでモンスターとの戦いも幾度もあった。

 旅慣れていないんだから仕方がないところもある。


「ふむ……私が山頂まで投げ飛ばそうか?」

 マヤ姉が俺の耳元でそう提案する。

「ユイシス死んじゃうからそれ! ダメ!」

 俺も小声で返す。

 今回の件の原因とも言えるギガノトと同じ要領で、ジャイアントスイングする気かこの姉。


「私にお任せください! 『ヒール』!」

 ソフィがユイシスにヒールをかける。

「体力が全快していくのだわ……!」 

「さ、これで動けますね! ブー垂れてないでキリキリ動いてください!」

「あんた、なんか手厳しくない!?」

 すいませんお嬢さま、そのヒーラー根がドSなんですよ。


 さらに歩を進める。

 そこまで標高のある山ではないので、もう30分ほども歩けば山頂に着くだろう。


 先ほどから震度1程度の微弱な地震も頻発している。

 なるほど、ターニャが言っていたように本当にここが震源地のようだ。

 山頂に何か原因があるのだろうか?


「どうした朝陽。疲れたのか?」

 マヤ姉が俺を慮る。

「あ、いや。平気」

「疲れたのなら言え。お姉ちゃんがおんぶしてやるからな! いや、おんぶさせてくれ!」

「結構です! みんながいる前でそんな恥ずかしい真似できるかぁ!」

「ほう、見ていない場所ではいいということか……言質取った」

「SNS上での揚げ足取りみたいなことしないでくれる!?」


 この姉、やはりアカン……と思い、反対側を見ると、ソフィも何やら思案顔だ。

「ソフィ? どうした、そっちこそ疲れた?」

「あ、いえ、勇者さま。えっと…子供の頃、ノエルママから聞かされていたおとぎ話があるんです」

「ノエルさんから?」

「遠い昔にこの地で暴れていた巨人を、赤銅の四戦士と呼ばれる人たちが封じたって……」

「巨人!? 赤銅の四戦士!?」

 オタク的には心躍るワードではあるが、それが本当なら縁起でもないのだが。

「でもただのおとぎ話ですから」

「そ、そうか…」


 マヤ姉の表情が急に険しくなる。

「……そうでもないようだぞ。散れ、みんな!」


 空から無数の魔法めいた矢が飛んでくる。


「うわあああ!?」

「きゃあああ!」

「な、なんですの!?」


 俺たちは四方に散開し、それぞれその矢を避ける。

 着弾した場所の地面がえぐれる。ゾッとする威力だ。


「な、なに!? なんなの!?」

 突然の先制攻撃に困惑しているユイシスの頭上に、剣を振りかぶった男の姿が見えた。

「ユイシス! 危ない!」

「ひゃあ!」


 しかし間一髪グローリアが間に入り、その攻撃を大剣で弾く。

「ユイシスに手は出させませんわ!」


 襲ってきた連中の姿を改めて確認し、俺たちは驚いた。

 剣を持ったウォリアー。

 杖を構えたウィザード。

 弓矢を持ったアーチャー。

 槍を持ったランサー。


 4人はそれぞれ無色透明で身体が透けていたのだ。

 言うなればその姿は、まるで”霊体”のようであった。


『巨人ノ封印ヲ解コウトスル者……例外ナク討伐スル……!』


「な、なんだこいつら!? 霊体!?」

「四体……ソフィが言っていた”赤銅の四戦士”とやらか?」

 全員が泡食っている中で、さすがマヤ姉だけは冷静だ。


「ノエルママのおとぎ話で聞いた、四戦士の姿形、あと武器と一致しています!」

「封印を解こうとする者を倒す……霊体になってなお、この地を守っているのでしょうか」

 クオンがそう分析する。

 だとしたら誤解もいいところなんだけど。


「ま、待ってくれ! 俺たちは封印を解こうなんて思ってなくて……いやそもそも封印とか巨人とかも今さっき知ったばかりで何が何やら……」

 こちらの言い分になど耳も貸さず、襲いかかってくる四戦士。


 ウォリアーの攻撃をグローリアが防ぐ。

 その隙にクオンが攻撃しようとするも、ランサーの介入がそうはさせない。

 先ほど無数の矢を撃ったであろうアーチャーが再び矢を放つ。

 その矢を、俺が投石で叩き落とす。

 ソフィが全員に物理防御上昇魔法プロテクトをかけて補助する。

 一進一退の攻防である。


 敵のウィザードが何やら特大魔法を放とうとしている。

「うわ、これヤバいんじゃ…!」

 しかしこちらにも特大魔法の使い手はいる。マヤ姉ではない、ウチの新人冒険者だ。


「一方的に攻撃してきて! 封印なんて知らないのだわ! 『ヴォルテクスフロウ』!」


 空中で二つの魔力がぶつかり合い、大爆発と共に相殺する。

 伝承に残るレベルのウィザードと五分の魔法を放つとは、ユイシスのロマン砲すごい。

 ただし持っていた杖は粉々に砕け散ったけれど。

 今の杖、たぶん数千マニーはするよな……本当コスパだけは最悪だ。


 戦っているさなかにも、どんどん地震が強まっていく。

「この揺れ……その巨人とやらが今まさに目覚めようとしているのでは?」

 クオンがランサーと剣戟を繰り広げながらそう言う。


「クソ! こんなところで足止め食らってる場合じゃないのに……!」

 マヤ姉が本気を出せば秒殺できそうだが、我が姉の真の力はいまだクランメンバーには秘密にしているのだ。


「アサヒ! アンタとお姉さんは先に行きなさい! ここはあたしたちに任せるのだわ!」


 ユイシスが居丈高にそう言う。

「ユイシス!?」

「わかった。行こう、朝陽」

「え、でも……」

 いや、マヤ姉がこの場を任せるのだ。「できる」と判断してのことなのだろう。

 クランメンバーたちを信用するしかない。


「無理はすんなよ、みんな!」

 俺と真夜は振り返ることなく、山道を駆け上がっていった。



「ふふっ。言いますわね、ユイシス」

「何か勝算があるんです?」

「ふふーん……」

 ユイシスはニヤリと笑った。


「”ここは俺たちに任せて先に行け”ってやつ、一度言ってみたかったの!」

 

 ずっこけるグローリアとソフィ。ただただ冷視を向けるクオン。

「おばか!」

「そんなことだろうと思っていました」


 四人は見落としていた。

 四戦士の内の一人、アーチャーだけがその先頭を離脱していたことを。


☆ 


「はあ、はあ!」

「頑張れ、朝陽! もうすぐ山頂だぞ!」


 すると、頭上から再び無数の魔法の矢が、眼下の俺たちに向けて放たれた。

「うわあ!?」

「矢による攻撃だと?」

 上を見るとそこにはアーチャーがいた。


「アーチャー!? 一人だけ追いかけてきていたのか!」


 アーチャーが再び矢を放とうとしたその瞬間、後方から轟音と共に火炎放射のような魔法が放たれた。

 その炎に、俺とマヤ姉は見覚えがあった。


 火炎魔法が直撃したアーチャーであったが、しかしまだ倒れることなく、迎撃せんと後方に向けて矢を構え始めた。

「ほう、一撃で沈まぬか。生前はさぞ名のある戦士だったのじゃろうな。じゃが……」


 無慈悲な威力の炎魔法が何発も発射される。

 その攻撃は人間の身にはキャパオーバーだ。

 哀れ、アーチャーの霊体は爆散した。


「相手が悪かったのう。魔王六将、壊乱のキルマリアと遭遇した不運を嘆くがいい!」


 現れたのは毎度お馴染み、キルマリアであった。

 今朝まで一緒に家にいたし、もう全然意外性もないんだけれど。


「カッカッカ! 大きな災厄の元には必ずおぬしらがおるのう。マヤ、アサヒ」

「キルマリア!」

「なぜここに。家でグースカ寝ていたはずだろう」

「これだけ強大なオーラを出されてはの、血が騒ぐってもんじゃ」

「まったく、無類の戦闘好きだなぁ」

 そのサガが俺たちを助けてくれたわけだけど。


「詳しくは知らんが、察するにこの強大なオーラの主はギガノトがこの山を崩したせいで目覚めたんじゃろ? あやつはバカじゃから、ここに眠る巨悪の存在など知らなかったんじゃろうが……同じ魔王六将の尻ぬぐいはしてやらんとな」



 俺たち三人は山頂に着いた。

 火口……いや、火山ではないからクレーターと言うべきか?

 そこにいたのはおとぎ話と思われていた、しかし伝承通り存在した巨人であった。

 それまで地中に封印されていたのが、ギガノトが土砂崩れを起こしたせいで出現したのだろう。


「コイツは……!?」

「デカいな」

 下半身がクレーターに埋まったままだが、上半身だけでも異様なデカさである。

 わかりやすい大きさで例えるなら、正しく東京ドーム一個分だ。


「知っておるぞ、こやつ……」

 キルマリアが口を開く。


「遥か昔に、人も魔族も恐怖した存在……”タイタン”じゃ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 朝陽が「マヤねぇに俺の身体を(物理的に)貸すぞ」でこの国の統治が始まる
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