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異世界ワンターンキル姉さん ~姉同伴の異世界生活はじめました~  作者: このえ
朝陽、駆け出し冒険者の面倒をみる
135/180

隙が多すぎる

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~7巻発売中です。

現在アニメ化企画進行中!

「アサヒくんとジーク先生ってどっちが強いの?」


 ロイが何気なく発したその疑問は、突如として俺を窮地に立たせた。

 それ、禁止カードなんだけど!


 新進気鋭のゴーレム級と、一線を退いたドラゴン級……

 なるほど、字面では互角に思えるかもしれない。ロイの疑問も興味も分かる。


 だがしかし悲しいかな、俺の経歴は詐称!

 マヤ姉の手柄が何故か俺のものになって出世しただけで、実際は強くないのだ。

 一度は魔王軍討伐の任務も課せられたことがあるジークさんに勝てるわけがない。


「それは僕も興味深いねぇ……」

 木刀を握るジークさん。

 いかん、この人やる気出しちゃってる!


「どうだ、アサヒ君。ロイ君にお手本を見せる意味でも、ひとつ僕と仕合ってみないか」

「マ、マジすか…!?」


 ロイを見ると、瞳を輝かせながら俺のことを見ている。

 期待の眼差し向けちゃってまあ……いかん、逃げ場ないんですけど。


 やるしかないか……俺は意を決して剣を構えた。

 いざとなったらお腹が痛いとか、実は高熱出してましたってことにしてしまおう。そうしよう。





 どういうことだ。


 朝陽と対峙したジークフリートは、そう感じていた。

 軍場朝陽という少年は異例のスピードで出世した若手冒険者のホープだ。

 若干十五にしてすでにゴーレム級……自分がそのランクに達した年齢より十近くは早い。

 いわゆる神童だ。


 なのに、構え方が隙だらけなのである。


(隙が多い……多すぎる。下段、中段、上段…どこに打ち込んでも決まりそうだ)


 先ほどまで稽古を付けていた年少のロイの方が、まだ隙がないまである。

 これが天才冒険者として名を馳せている者の構えかと、ジークは率直にそう思っていた。


 しかしその疑問を、自らで否定する。


(いや、違う! アサヒ君はあえて隙を見せているんだ! どう攻撃しても後の先を取る自信があると……そういう構えだ、あれは!)


 気圧されるジーク。

 今の彼には、朝陽が実際より数倍大きく見えていた。


(打ち込んでいないのに……すでに打ち込まされているんだ、僕は! アサヒ君はすでに達人の域に達している……!?)


 ジークの頬からしたたり落ちる汗。

 イメージで何度も斬りかかるも、その都度何度もカウンターを浴びる……ジークはコンマ数秒で、幾度も想像の中の朝陽と戦っていた。そして肥大化する朝陽の偶像。





「……なんでジークさん、かかってこないんだ?」


 俺は不思議に思った。

 ジークさん、険しい表情をしたままぴくりとも動かない。

 なのに、額には汗が浮かんでいる。

 なんだろう、腹でも痛いのかな?


「くっ……やるね、アサヒ君……!」

「は?」

 何もしてないんですけど。


「それでも……僕にもドラゴン級としてのプライドがある! 後進にやすやすと道を譲りはしないよ!」

 ジークさんは意を決したかのように斬りかかってきた。

「キター!」

 さすがにマヤ姉やキルマリアほどではないけれど、それでも人間界では最強クラスの戦士だ。

 万に一つも勝ち目はないだろう。


 さあ、どうしよう……そう思った、そのときだった。


「コラー! ロイ!」


「わああ!?」


 俺とジークさんの動きが双方ピタリと止まる。

 ロイの方を見ると、その後ろに彼の姉……ターニャが立っていた。

 耳元で大声を出されたのだろう、ロイは涙目になりながら驚いている様子だ。


「勝手に外出ちゃダメって言ったでしょ!? モンスターもいて危ないんだから!」

「い、いや、でもだって…」

「だってじゃない! もう、悪い子なんだから! お姉ちゃん、ロイが郊外に出てったって聞いて、仕事中なのにすっ飛んできたんだよ!?」

 見ると、確かにターニャはギルド受付嬢の制服を着たままである。


「お、おねえちゃんはどうやってここまで?」

「護衛の人を頼んだんだよ。ね、マヤ姉さん?」

「マヤ姉さん? ハッ!」

 ゾッと、背後に気配を感じる。

 俺が振り返るより早く、背後のそれは俺に襲いかかってきた。


「こっちのお姉ちゃんもいるぞー!」

「だああ! マヤ姉ぇぇぇ!」

 抱きつかれる俺。

「さあ、らぶチュッチュの続きをしようか!」

「そういえば今朝方そんなことになってましたねぇー!」

 そこからエスケープで逃れて、俺は男三人で出掛けることになったんだった。


 急にハシゴを外されたジークさんは、ただただポカンとしていた。

 その顔がみるみる青くなる。

「!?」

「ジークさん? どうしたんです?」

「さ、寒気が……こ、この気配は以前も……!?」


 ジークさんが振り返ると、そこには街娘姿に変化したキルマリアの姿があった。

「カッカッカ! わらわもおるぞ、アサヒ!」

「キルマリア!? そうか、二人してターニャの護衛を……」

 世界最強のボディガードが二人だ、ターニャも安心してここまで来られたことだろう。


「あ、あなたは……!」

「ん?」

 引きつった表情でキルマリアを見るジークさん。

 この二人、前も一回顔を合わせてたっけ。

 それにしてもジークさん、なんでそんなに冷や汗を……?


 すると、ジークさんの腹が突然ぐるぐるぎゅるぎゅると鳴り始めた。

「うっ!? きゅ、急に腹が下って……な、なぜ……!?」

「大丈夫か、おぬし。ゴロゴロ腹が鳴っとるが」

「い、いやその……ちょ、ちょっと僕、トイレに!」


 ジークさんは猛ダッシュで茂みの奥へと駆けだしていった。

「ジークさんの方が腹壊してたのか…?」

「人の顔見てもよおすとは、失礼な男じゃの。確か初対面よな?」

 いや、一回会ってるはずなんだけれど……キルマリアのことだ、すっかり忘れているのだろう。

 それにしてもなんでジークさんはキルマリアが近付いたら体調が悪くなったのだろう。不思議だ。


「帰るよ、ロイ! お家に帰ったらおしおきだよ!」

「ご、ごめんよう、おねえちゃーん!」

「ようし! こっちのお姉ちゃんも弟におしおきだー!」

「何言ってんの!? マヤ姉ー!」

「カッカッカ! どこの姉も過保護じゃのう!」


 男三人、皆それぞれ女性陣には敵わないようであった。

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