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異世界ワンターンキル姉さん ~姉同伴の異世界生活はじめました~  作者: このえ
朝陽、駆け出し冒険者の面倒をみる
131/180

先輩冒険者としての務めですわ

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~7巻発売中です。

現在アニメ化企画進行中!

「『ゲート・オブ・ダークネス』!!」


 ユイシスがそう唱えると、住宅街の上空に黒い渦が出現した。

 名前からも闇属性だと察することが出来る。

「上空に黒い渦が……!?」

「ユ、ユイシスにこれほどの魔力が……驚きですわ!」

 クオンとグローリアが驚いている。


「え? え? な、なに? これなに?」

 しかし一番驚いているのは魔法を出した本人、ユイシスだった。

 当人がビックリしてるんかーい。


「ホアンさんが売る道具はいわく付きのが多いんだよ! 早くあの渦を閉じろ! 街に被害が出るぞ!」


 そのときだった。

 クオンが持っていた買い物袋がフワリと浮き、黒い渦に吸い込まれていく。

「あっ…買い物袋が…!」


 それだけではなかった。

 街の露店の商品、植木鉢、樽、椅子、テーブル、周囲に置いてあった色んなものが黒い渦に吸い込まれていく。

 その異様な光景に、街の人々も驚き、叫声を上げている。


「な、なんなんですの!?」

「おいおい…あの渦、ブラックホールみたいなもんか!?」

 だとしたら吸い込まれたが最後、どうなるか分かったものではない。

 なんつー魔法を街中で展開してくれてんだ!?


「お嬢! アサヒ氏! 飛来物にご注意を!」

 飛んできた植木鉢をダガー二刀流で真っ二つにしながら、そう警告するクオン。

「てやぁ!」

「あっぶねー!」

 グローリアは大剣で樽を破壊。俺は飛んできた椅子をすんでのところで交わす。


「ユイシス! 早く魔法を止めるんだ!」

「閉じ方わかんない! 杖も手から離れないぃぃぃ!」

 ユイシスがブンブンと手を振るも、杖は右手にガッチリ固着されている。

「魔剣ブラッディーと同じじゃん!? やっぱり呪われた武器じゃねえか、ホアンさーん!」

 あの人、王国騎士団かどこかに一回突き出した方がいいんではなかろうか。


「うわあああ!」

「きゃあああ!」

 恐れていた最悪の事態が起こる。

 黒い渦の近くに居た住民二人の身体が浮き、黒い渦に吸い込まれてしまう。

「ああ! 住民たちが!」


「ウソ! やだぁ!」

 ユイシスが顔面蒼白になり、涙を浮かべる。


「ちぃぃ!」

 いの一番に駆けだしたのは、ユイシスのメイドであるジルさんであった。

 彼女はその高い身体能力で跳躍すると、住民二人を両手で抱える。

「ジルさん! ナイス!」


 やったと思ったそのときだった。飛来してきたレンガがジルさんの頭に直撃する。

 舞う血しぶき。

「ジルー!」

 ユイシスが叫ぶ。

 しかしジルさんは二人を離さなかった。

 地面に着地すると、血だらけになりながらも不敵に笑って見せた。

「ハッ! 離すかよぉ!」


 ジルさんだけに頼ってはいられない。

 俺たちも各々出来ることをやらねば。

「クオン! スキル『鷹の目』を使って周囲のクリアリングを! グローリアは住民たちの安全確保と避難誘導を頼む!」

「了解です」

「分かりましたわ!」

 素早く散開する二人。さすが場慣れしている、頼りになる二人だ。


「あ、あの…あたしにも何かできること、ない…?」

 おずおずと、そう俺に尋ねるユイシス。

 先ほどまでの威勢はどこへやら、捨てられた子犬のように弱々しい。

 罪の意識があるのだろう。

「ユイシス……そうだな、ソフィの所へ連れて行けば、その杖の呪いを解除してくれるかも…」

「解除できるの!? なら早く……え?」


 ユイシスの小さな身体が浮く。

「きゃあああああ!」

「ユイシス!」

 なんてことだ、ユイシスまでもが黒い渦に吸い込まれていく。


 反応したのはグローリアであった。

「ユイシス! これに掴まって!」

 咄嗟に差し出された”それ”を、空いている左手で何とか掴むユイシス。


 それは大剣の柄の部分であった。


 え。


 それはつまり、グローリアは刀身の部分を素手で持っていることに他ならなかった。

 グローリアの手には血がにじんでいる。


「つう…!」

「グ、グローリア! あんた、手から血が!!」

「いいから…! ユイシスはしっかり柄を掴んでいなさい…!」

「なんでミストルテイン家のために、そんな…」

「家のことなど知りませんわ……あなたは幼少期から知るわたくしの友達。守るのは当然。それに……」

 グローリアはフッと笑う。


「駆け出し冒険者を助けるのは、先輩冒険者としての務めですわ!」


「グローリア…!」


 ユイシスはボロボロと涙を流している。

「そうでしょう、アサヒ?」

 俺に目配せするグローリア。

 ああ、そうだな。

 俺は大きく振りかぶって、それを放った。


「『投石』レベル2!」


 石はユイシスが右手に持っていた杖の先端、コアであろう宝石に直撃し、それを粉々にした。

 魔力の供給源を失っては呪いの魔道具も無力。

 無事、上空の黒い渦は消失した。


「あいた!」

 浮遊が解け、ユイシスはそのままどすーんと地面に落下した。

「ふふ、さすがの機転ですわアサヒ!」

「呪いのアイテムだから、ムリヤリ壊すのは装備者におかしな作用起こしそうで怖かったけど……ふう、手段を選んじゃいられなかったよ。でも無事で良かった」

 俺は安堵した。



 程経て。

 街の混乱は収まり、一件落着かと思われたがしかし。


「ごべんなさいいぃぃぃ! ごんなごどになるなんでぇぇぇ!」


 ユイシスが正座しながら、びえええんと号泣謝罪をしている。

 悪いのはもちろんこの子なんだが、ここまで子どもみたいに泣きじゃくられると可哀想に思えてくる。


「街の修繕費や住民への補償はミストルテイン家から出させるよ。わりぃね、迷惑かけて」

「お嬢がけしかけた面もあるので、ブリガンダイン家からも半分出させて下さい」」

 クオンがジルさんの頭に包帯を巻いて介抱している。

 この二人のメイドも大変だなぁ……主がトラブルメーカーで。


「さて……ユイシスのことはどうする? グローリア?」

 俺はあえてグローリアにその判断を委ねることにした。


 グローリアは泣きじゃくるユイシスの前でしゃがんだ。

「家同士には確執があったけど……わたくし、ずっと貴女と遊んでいたかったんですの」

「ふえ…?」

 グローリアは優しげな笑顔を浮かべた。


「わたくしたちのクランに来ませんこと?」


「ぐす…いいの…?」

「ま、危なっかしい後輩を見守るのも先輩の役目だもんな」

「アサヒ……!」

 当然だな。

 グローリアが言わなきゃ、俺が言っていたところだった。

 ウチのクランに来ないかって。

 

 それはそうと。

「あ、今初めてアサヒって名前で呼ばれた! 今まで平民呼びだったのに」

「あっ! い、いや、これは…!」

「ははっ! ユイシス様、顔真っ赤にしてらぁ」

「まあ! アサヒにそんな失礼を? いけませんわよ、ユイシス!」

「……それを言ったら、お嬢は初対面でいきなりアサヒ氏に斬りかかりましたが」


 なんだかんだ、丸く収まって良かった。

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