ブリガンダイン家とミストルテイン家
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~7巻発売中です。
現在アニメ化企画進行中!
街の広場で対峙する二人の令嬢。
グローリア・ブリガンダインとユイシス・ミストルテイン。
二人には一体どんな因縁があるのだろう。
「ふふーん! 口に出さずとも、その目が! 表情が! 雄弁に語っているのだわ!」
最初に口を開いたのはユイシスの方だ。
声量がバグっている。
周囲の人たちも驚いて振り返っているじゃないか。
「“貴女も冒険者になったのか”でしょう? ブリガンダイン家の人間に可能だったんだもの、ミストルテイン家のあたしになれない道理はないんだから!」
そう言って、居丈高な様子でグローリアを指差す。
右隣にいるクオンに話しかける。
「クオン、あの二人知り合いなの?」
「ブリガンダイン家とミストルテイン家は、昔から家同士に確執があるのです」
左隣にやってきた、ユイシス付きのメイドのジルさんが続ける。
「ギルドや一般市民に与するブリガンダイン家と、上流階級の貴族らにのみ与するミストルテイン家……思想からしてウマが合わねえのよ」
「なるほど」
グローリアは市井に降り、”無辜の民を救わねば”と一般市民にも手厚いが、ユイシスは”平民”呼ばわりだもんな。
そういうところも家柄の教育の差が出ているのだろう。
「それで令嬢同士にもライバル意識が芽生えてるんだな」
「いやぁ同士っつーか……なあクオンちゃん」
「……ですね」
ジルがケケケと笑い、クオンが静かに頷いている。
なんだろう、この反応。
「悔しい? グローリア・ブリガンダイン! そうよね、だって……」
ユイシスにずかずか迫っていくグローリア。
殴りかかる気か!?
一瞬そう思ったが、しかし。
グローリアはユイシスの腋の下を持って、満面の笑みで持ち上げた。
所謂、”高い高い”である。
「ユイシスも冒険者になったのですわね! 嬉しい!」
「ひゃあ!? ちょ、ちょっと下ろしなさーい!」
ユイシスは顔を赤らめながら怒っている。
「あれ?」
俺は目を丸くした。
ライバル感、全然ないんですけど。
「あの二人、ユイシス様が一方的にライバル視してるだけでよう…」
「お嬢は彼女のことを幼なじみの親友、もしくは妹みたいに思っているのです」
ユイシスは敵視しているが、グローリアはそんな眼差しなどどこ吹く風、彼女のことを可愛がっているらしい。
なるほど、ユイシスの一方通行だったか。
「グローリア・ブリガンダイン! あんた、昔からそうね! 家同士の仲が悪いこと、自覚してる!?」
高い高いされながら、ブンブンと手を振り回している。
その小ささも相俟って、まるで駄々をこねる子どもだ。
グローリアはと言うと、きょとんとしている。
「家は家、わたくしたちはわたくしたちでしょう? それを理由に仲違いする必要がどこにあって?」
真理を口にし、首を傾げるグローリア。
実に彼女らしい理屈だ。
「ッ…!」
ぐぬぬという顔をするユイシス。
「あ、あたしは……! 昔から父様や母様にプレッシャーをかけられて……あんたとも遊ぶなって言われて……でもあんたはこうしてズカズカ踏み込んできて……」
ボソボソと何かを呟いている。
「え、なんですの? 声が小さくて聞き取れな…」
「えい!」
「あいた!」
ユイシスはグローリアにチョップをかまし、抱擁から逃れた。
地面に尻餅をつく。
「勝負よ、グローリア・ブリガンダイン! あたしはミストルテイン家のユイシス・ミストルテイン! あんたには負けないって事を証明してあげるんだから!」
ユイシスが勝負を仕掛けてきた。
いや、ここ往来だぞ!?
人もたくさん行き交ってるし。
「グローリア! ユイシスは冒険者になりたてだけど、とんでもない特大魔法を使うぞ! だから街中で戦うのはやめるんだ!」
ユイシスは聞く耳を持たないだろう、俺はグローリアを止める手段に出た。
しかしそれは逆効果になってしまった。
「まあ! それは戦うのが楽しみですわ!」
グローリアは大剣を構えた。
「戦闘民族の血を騒がせちゃった!?」
「逆効果でしたね」
クオンが無表情でそう言う。
いやキミが主を止めてくれない!?
「ジル! 例のブツを出して頂戴!」
「あいあい」
ジルさんがアタッシュケースを開け、何やらおどろおどろしい形状の杖をユイシスに渡した。
「ホアンとかいう道具屋から買った掘り出し物! 2万マニーもしたんだから! この杖の特大魔法を浴びせてあげる!」
「ホアンさん!? 掘り出し物!?」
「アサヒ氏、どうしました?」
この場でそのワードに震撼しているのは俺だけだ。
みんなは知らないんだ……ホアンさんが俺に、遊戯帝ウィジャボード付きの呪いの瓶や魔剣ブラッディーを売ったたことを。
あの人が薦める掘り出し物、高確率で魔道具なんだよ!
「行くわよ、グローリア! 出でよ、『ゲート・オブ・ダークネス』!!」