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異世界ワンターンキル姉さん ~姉同伴の異世界生活はじめました~  作者: このえ
健康で文化的な異世界の生活
127/180

姉キャッスル

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~7巻発売中です。

現在アニメ化企画進行中!

「山が崩れだした!」

「間に合わなかったか…!」


 テンペスト山に向かう道中の平野にて、山が崩れ出す様子が目に入った。

 ギガノトが山を崩したのだろう。

 山頂から麓に向かって、土砂がゆっくり流れ出してくる。


「街に土砂が届く前に、せき止めなければ……マヤ姉! キルマリア!」

「どうした、朝陽」

「王都と山の斜線上に入ろう! そこで土砂を防ぐんだ!」


 俺たち三人は土砂の対面に陣取った。

「土砂の前まで来たはいいものの……どうするんじゃ、アサヒ。これほどの物量、わらわのバリアでは防ぎきれんぞ?」

「何か考えがあるんだな? 朝陽には」

 ここで初めて、俺が何をするつもりなのかを聞いてくる。

 厚いな、マヤ姉の信頼は。

 俺もそれに応えないと。


「マヤ姉が持つチート級の能力……それは自分の理想を実現する力でもあると思うんだ」

「理想?」

「俺を助けるために次元をこじ開けたり、海を割ったりも今までしてきた。攻撃だけじゃない……ベクトルを変えれば、それはきっと守りの力にも応用できると思うんだ」

 俺はそう提案した。

 結局はマヤ姉のチート能力頼みの策なのだが、この危局、もはやマヤ姉を当てにするほか手立てはない。


 マヤ姉は笑みを浮かべている。

「攻撃ではなく防衛に力を転換か……わかった。やってみよう」


 ただ俺も、その責任を負う覚悟はある。

「俺の無謀なアイディアだ。俺もマヤ姉のそばで行く末を見届けるよ」

 震える声でそう言う。


 情けないな、手足が震えている。

 目の前から土砂崩れが迫ってきてるんだ。無理もないけれど。

 でも姉弟なんだ、運命は共にしないと。


「…………キルマリア」

「ふっ、わかっとる」

 マヤ姉がキルマリアにクイッと顎で何かを指示する。なんだろう。


「おわっ!?」

 俺の身体が宙に浮く。

 キルマリアが俺の身体を掴んで浮遊したのだ。

「キルマリア!? ちょっ、降ろせって! 俺には発案者としての責任が……!」

「はーいはいはい。いいから姉を信じておかんか」

 マヤ姉がキルマリアに頼んだのはこれだったのか。

 くそう、お姉ちゃんズめ。

 いつだって弟に枷を背負わせてくれない。


 空からの景色なら、より土砂崩れの様子が見て取れる。

 広範囲から迫ってくる、岩石や樹木混じりの土砂……これが街に迫ってしまっては一大事だ。


 マヤ姉が地面に手を付き、魔法陣を展開する。


「弟の期待には応えないとな……私はお姉ちゃんだからな!! 『姉キャッスル』!!」


 マヤ姉の前に、魔力で作られたバリアが現れる。

 そのバリアは城壁の形をしていた。

 なるほど、これは確かに姉キャッスルである。いや、姉キャッスルってなに?


 珍妙な魔法名はともかく、そのバリアは広範囲に渡って展開され、テンペスト山から流れ出してきた土砂をすべてせき止めたのであった。

「や、やった! 成功だ!」

「カッカッカ! 本当にせき止めおったわ! マヤめ、やりよる!」

 宙にいる俺とキルマリアは浮かれている。


 眼下を眺めると、いつの間にかマヤ姉の姿は消えていた。

「あれ、マヤ姉どこ行った?」

「むっ……山の麓に気配が移ったのう」

 麓というと……もしやギガノトの元へ向かったのか!?



 ギガノトは驚愕していた。

「な、何が起こりやがった! 壁……城壁か、ありゃあ? 急に現れた魔法の城壁に土砂が防がれて……どわっ!?」


 背後から何者かに足払いをかけられ、豪快に転倒するギガノト。

 見上げると、そこにはギガノトの怨敵であった赤髪の女……つまりは真夜が佇んでいた。

 右脚が軽く上がっている。

 真夜がギガノトに足払いをかけたのだろう。


「面倒ごとを起こすな、フサフサ男」

「て、てめぇは赤髪の女ぁ!? フサフサ男ってなんだ!?」

 真夜はおもむろに、転んだ状態のギガノトの両脚を掴む。

「よいしょっと」

「お、おい……!? これ、こいつ……またあの展開!?」


「『姉ジャイアントスイング』!!」


 真夜は高速回転ののち、ギガノトを遠く山の彼方へと投げ飛ばしたのであった。

「ふう。当分来るなよ、もう」



 俺とマヤ姉は街へと戻ってきた。

 何事もなかったかのように、街は普段通り賑やかである。


「街の平和を守れたね。よかったよかった」

「ここはすっかり、私たちの第二の故郷だものな」


 マヤ姉がそんなことを言う。

 そうか……俺がこの街を守りたかった理由、それもあるのかも。


「でもなんで城をモチーフにバリアを?」

「私の中の”堅牢”というイメージが、ああいう形に具現化されたんだろう」

 なるほど。

「姉キャッスル……あはは、何人たりとも通さんって感じだ」

 何の気になしにそう呟いたら、マヤ姉がガッと俺を押し倒してきた。

 え、いや、いつもの流れだけど、なんかトリガーあったっけ!?


「朝陽だけは年中フリーパスだぞ!? さあさあ、姉キャッスルにどうぞご入場くださーい!」

「魔王城よりおっかない城だったぁー!?」


 無から城壁型バリアを産み出すだけでなく、無からブラコン行動をも産み出すマヤ姉、マジパネェのであった。

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