悪い知らせが二つある
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~7巻発売中です。
現在アニメ化企画進行中!
男は怒り猛っていた。
かつて自らに敗北の二文字を刻んだ、赤い髪の女に対して。
男は昂揚していた。
その怒りを発散する機会が訪れたからだ。
「見つけたぜぇ……あれが人間たちの根城かぁ……」
崖の上から人間たちの都を見下ろしながら、蓄えた髭を撫でる。
「そしてこの俺様を……百獣のギガノト様を投げ飛ばしやがった赤髪女の住処かぁ!」
顔に青筋を立てながら、咆哮を上げる。
魔王六将、”百獣”のギガノト再登場の時である。
☆
「せい!」
俺はイノシシにチャージ攻撃を浴びせ、昏倒させる。
遠くから投石で相手を釣り出し、突進までの間にチャージで力を溜め、懐に入ってきたら渾身の一撃。
シンプルながら実に効率の良い攻撃法である。
「ん? なんかイヤな予感が……」
振り返ると、そこには巨大なバッファローがいた。
ダンプカーくらいの大きさの。
「どわぁ!?」
必死に逃げる俺、追うバッファロー。
牛追い祭り開催である。
「と、『投石』レベル2!」
逃げながらもせめてもの抵抗と、石を拾って投げつける。
しかし大きなツノに弾き飛ばされてしまう。
「ダメだぁ! こんなデカいヤツ、石ころ程度の火力じゃあ止まらねー!」
そのときだった。
俺のピンチと見るやいなやどこからともなく飛んでくるスーパーヒーローが空から馳せ参じた。
マヤ姉だ。
「とう!」
ライダーキックのような蹴りで、バッファローのツノを片方へし折る。
怯んだ獲物に対し、すかさず特大魔法をぶっ放す。
「吹き飛ぶがいい! 『姉サイクロン』!」
竜巻がバッファローを包み、そのまま遠く彼方へと吹き飛ばしてしまった。
ダンプカーほどの巨躯をも軽々吹き飛ばす竜巻……凄まじい。
近くにいた俺も突風に巻き込まれないよう、必死に木にしがみついていた次第。
「ふう、大事ないか朝陽」
「あ、ああ、大丈夫。ありがと、マヤ姉」
「街道を騒がせているモンスターを討伐……クエストはこれで完遂かな」
モンスターどころか街道沿いの木々や大岩も根こそぎサイクロンで吹き飛び、とても見晴らしが良くなってしまった。もはや整地である。
「さすがマヤ姉、圧倒的な火力……」
しかし、と俺は思う。
「攻撃全振りな分、回復や守りの魔法が使えないとこが唯一の弱点だね、マヤ姉は」
これだけなんでも出来るマヤ姉なのに、不思議と回復や補助魔法を扱ったところを見たことがない。
例えばキルマリアはバリアや、完全回復魔法トータルヒーリングなどを使えるオールマイティーさがあるのだが、マヤ姉は完全に攻撃魔法特化である。
「私は守りも万全だぞ」
「え?」
「よく言うだろう? ”攻撃は最大の防御”と」
「うーん、納得せざるを得ない」
マヤ姉の場合、マジでそれだからなぁ。
攻撃すれば相手に反撃のターンは訪れないわけで、攻撃は最大の防御を体現している。
「む?」
「どうしたの、マヤ姉」
「誰か来る」
空を見ながらそう呟くマヤ姉。
俺には何も見えないけど。
「マヤ! アサヒ! ここにおったか、捜したぞ!」
数分後、空から現れたのはキルマリアであった。
マヤ姉の察知能力、えぐい。
しかしそれより、珍しくキルマリアが慌てている様子なのが気になる。
「どうしたんだ、キルマリア?」
「私たちを捜していたとは、一体何があった?」
キルマリアは指を2本立てて言った。
「悪い知らせが二つある。ギガノトの傷が癒えた。そして今まさに、王都に向かってきている」
「魔王六将のギガノトが近くまで来てる!? それ、ホント!?」
「とある魔族からの密告で知った。間違いない」
魔王六将が王都に侵攻に来ているなど、一大事も一大事である。
まあ常日頃、王都に暮らしている魔王六将もいるんですけど。今目の前に。
「ギガノト……誰だったか?」
マヤ姉の一言に、ガクッとずっこけるキルマリア。
「おぬしがジャイアントスイングで投げ飛ばした獣人じゃ! ほれ、全体的にフサフサしとる!」
「ああ、あいつか……また返り討ちにしてやるだけだ」
攻撃は最大の防御姉さんが、頼もしい一言を放つ。
魔王六将と言えどソロでどうにかしてしまえるのは、世界広しといえどマヤ姉くらいのものだろう。頼もしい。
しかし次にキルマリアが発した言葉で、状況は大きく変わった。
「じゃが問題はギガノトのヤツ……王都付近の山を破壊し、土砂崩れを起こすつもりらしいのじゃ」