おかしな魔力を放ってたんよ
「キューブ探しのクエスト? これと同じのが6個あるん?」
「そうだよ、ウー。この宝の地図使って探してんだ」
我が家に遊びに来ていたウーが、古ぼけたキューブを触りながらソファーでゴロゴロ寝転がっている。
かつては人形化されたり、タクティクスバトルサーガなる遊戯で戦ったりもしたウーだが、今ではすっかり俺の遊び友達となっている。
俺の着想を具現化できるから、ウーといれば遊びに事欠かないのだ。
試しにPS5やSwitchも作れないかやってみせたけど、それはさすがに無理だった。
異世界生活堪能してはいるけど、ゲームやYouTubeも恋しいのは現代っ子のサガである。
マヤ姉が説明の補足をする。
「ミステリーが好きな貴族がいてな。その家の宝物庫から出てきたんだが、代わりに集めて欲しいと」
「なるほどのう。冒険者を雇って謎解きか、金持ちの酔狂じゃのう」
キルマリアも当たり前のようにいる。
賑やかでいいことではあるが、4人中2人が魔族なのはどうなんだろう。
王都、セキュリティ意外とガバガバなのでは。
「実はもう5個集めてあるんだ。今日はラスイチを獲りに行く予定」
「面白そうやなぁ! 僕も付き合っていい?」
「おう、いいぜ」
ウーがはしゃいでいる。面白そうなことに首を突っ込みたがる、ようは無邪気な子どもなのだ、ウーは。
「私は晩ご飯の支度がある。キルマリア、保護者として付き合ってやってくれ」
「えー、めんどいのう」
「少しは働け、無駄飯ぐらい」
辛辣で草。
☆
俺、キルマリア、ウーの3人で冒険に出る。
野を越え山を越え、崖を登り、谷を飛び越え(どんどんキツくなってない?)、目的地である滝壺へと到着する。
「滝壺に到着ぅ。遠足みたいで楽しいわぁ」
「アサヒ、大丈夫かえ?」
「はあ、はあ、な、なんとか……み、水飲ませて……」
疲労困憊の俺と違い、二人はケロッとしている。
空飛んだり重力無視移動できるの、ズルくない?
さすが魔族。
そういえばキルマリアは魔王六将だから強いのは当然として、ウーもウーで只者じゃない魔族の風格を漂わせているんだけど、一体何者なんだろう。まだまだ謎多き子どもだ。
性別も……たぶん男なんだよな?
いや、もしや、まさかの女の子?
「地図を見るに、この川底にキューブがあるのかえ」
「こういうのは大体滝の裏に洞窟があるもんだけど……どうだろ」
「確認してみるわぁ」
「確認?」
ウーが両の掌を滝に向ける。
正確には、丈が有り余っている萌え袖だから掌は見えないが。
すると、滝の一部が円形にくり抜かれる。
その円形が自在に移動する。
まるで巨大な虫眼鏡のようだ。とんでもない魔術。
「あ! アサヒくんの推察通りあったわ、洞窟!」
滝の中腹あたり確かに洞窟があった。
「よし、そこへ行こう。えーと……キルマリア、運んでくれる?」
「カカッ、了解じゃ」
空を飛べるキルマリアに運んでもらう。
うーん、この二人を同行させて結果的に大正解だった模様。
洞窟に入ると、そこには古ぼけた宝箱があった。
開けるとビンゴ、そこにはこれまで集めたのと同じキューブが置かれてあった。
「よし! 6個揃ったし、これで依頼達成だ!」
俺はおもむろにキューブを6個地面に並べた。
いずれも土を固めて作ったような粗雑なキューブだ。
こんなものに価値があるようには思えないが、貴族の道楽で高い報酬が貰えるなら万々歳である。
「さて……何が起こるかのう」
「せやね」
キルマリアとウーが愉快そうな笑みを浮かべている。
何の話だろう、俺は首を傾げた。
ウーが口を開く。
「そのキューブ、おかしな魔力を放ってたんよ。ずっと」
「は?」
すると、地面に置いていた小汚いキューブ6個がカタカタと一斉に震え始めた。
「なになに!? 俺、またトラブルに巻き込まれちゃった感じ!?」
「カカッ! 鬼が出るか蛇が出るか?」
「楽しみやねぇ」
「楽しまないで!?」
今度はキューブの表面が、まるでゆで卵を剥くようにパリンパリンと次々割れ始める。
粗雑で古ぼけた外側は、ただの外殻だったようだ。
中からは半透明のキレイなキューブが現れる。
いずれも色が分かれている。
「6色のキューブになった!? 赤、青、黄…」
「まだやで、アサヒくん!」
変化はさらに続く。
6個のキューブがひとつの場所に向かって移動し始めたのだ。
「キューブが重なってひとつに…!?」
カッとまばゆい光が放たれる。
6個のキューブがひとつになる。
手の平サイズの立方体で、各面が3×3の9マスに分割されている。
先ほどの6色が各マスにまばらに……いや、いちいち説明する必要もない。
これは俺がよく知っている物体だった。
「な、なんじゃ? 色が混じり合ったキューブになったぞ」
「なんやろ、これ。正六面体のキューブ? あれ、なんか列ごとに回せるみたいやなぁ」
しかし魔族二人は初見だったようで、首を傾げている。
「あ、ふぅん……二人とも知らないんだ。ふぅん……」
「なんじゃ、アサヒ。ニヤニヤしおって」
俺はこぼれる笑みを抑えきれない。
現実世界では皆が知っているものだけど、異世界ではどうやら未知のパズルのようだ。
「貸してみな。コイツはな……」
ウーからパズルを受け取ると、俺は数分かけてではあるが、そのパズルを一面だけ解いてみせた。
赤色がキレイに揃った面を見せ、二人にドヤ顔をする。
「こんな風に、各面を同一色に揃えていくパズルゲームなんだ!」
ハッキリ言ってしまえば、ルービックキューブである。
なんか商標とかあるかもしれないから、以降は立方体パズルと呼ぼう。
「ほう! よく分かったのう、アサヒ!」
「オモロそう! ボクにもやらせてえな!」
当たり前のことやって賞賛されるの気持ちいい。
これもまた異世界モノの醍醐味……ん? あつ…あち、あちぃ!?
赤色に揃えたキューブがどんどん熱くなってる!?
すると次の瞬間、キューブがボワッと発火した。
当然、キューブを持っている俺の右手も燃えた。
「あっちぃー! あっつ、あっつ!!」
俺はたまらずキューブを手放した。
「アサヒ!? 大丈夫か!?」
俺は手をブンブンと振り回し、消火する。
すぐにキューブを手放した分、そこまで酷い火傷にはならなかった。
「待ってろ、今回復してやる。『トータルヒーリング』!」
キルマリアが完全回復魔法トータルヒーリングを俺にかけてくれた。
「あ、ありがと、キルマリア」
「おぬしに何かあったら、マヤに顔向けできんからのう。カカ、気にするでない」
キューブはと言うと、俺が地面に落とした際に列がズレ、発火も同時に収まったようだ。
「炎、止んどるね。何やったんやろ」
「まだ心臓バクバクしてるよ……も、もう一回解いてみるか……」
俺は再び、恐る恐る立方体パズルを手に取った。