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清浄なる光

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

コミカライズ1~6巻発売中、7巻が来週3/11発売となります。

「相手がワリィぜ! あばよ!」

「うわ!? 飛んだー!?」


 マヤ姉とキルマリアには到底敵わないと判断したのか、魔剣ブラッディは空中へと飛び、その場を離脱した。

 それすなわち、呪いのせいで魔剣から手を離せない俺も同様に空を飛んだと言うことだ。

 めちゃくちゃ高いんですけど!

 怖っ、降ろして!?


 魔剣は閑静な住宅街を屋根伝いに飛んで、市街地まで進んでいく。

「ど、どこまで飛んでいく気だ!?」

「そりゃお前、決まってんだろう……」

 魔剣の瞳が、ギョロリと標的を見下ろす。

 眼下に広がるのは街の広場。当然、人も沢山いる。

 こいつ、まさか!?


「エサがいる場所に決まってんだろうが!」


 右手に携えた魔剣から、黒い靄のようなオーラが発せられる。

 俺は空中から広場へ向け、咄嗟に叫んだ。


「こ、これは……なんかマズそうだぞ!? みんな、逃げろぉぉぉ!」

 

「暗黒剣技『ダークブレード』!!」


 俺の身体を支配している魔剣が、右腕を振り下ろす。

 黒い真空波が剣から放たれ、それは広場に直撃した。

 周囲の建物も切り裂きつつ、広場を二つに割る斬撃。

 俺の叫びが奏功したのか、幸い人に被害は及ばなかったようだが、しかしなんという破壊力だ。

 とても非力な俺から放たれた技とは思えない。


 ダークブレードなる必殺技を放った後、俺と魔剣は地面に着地した。

 周囲は喧騒に覆われ、街ゆく人はパニックに陥っている。

 それはそうだ、いきなり空から斬撃波が放たれ、街を破壊したのだから。


「なんて威力だ……でも人に被害がなくて良かった」

「きゃあー! 暴漢よー!」

「逃げろぉー!」

「殺されるー!」

 俺の顔を見た途端、住民たちは散り散りになって逃げていった。


「や、やっぱり俺のせいになっちゃう感じ!? そりゃそうだよね!?」

 いかん、しばらく顔を隠して生活するハメになってしまう。


「ヒィハハ、どーよ!? 俺は宿主のステータスを元値の2倍に引き上げ、さらに暗黒剣技のスキルを付与するのさ!」

 魔剣が得意げにそう言う。

「ステータス2倍!? 暗黒剣技!?」

 魅力的なワードがポンポンと飛び出る。

「暗黒剣技ってのは……え、他にどういうのが?」

「「敵のHPを奪い回復する『ブラッドソード』、切り傷に瘴気を纏わせスリップダメージを与え続ける『ペイン』、切っ先が二重になる『シャドウエッジ』……色々あるぜ? ヒハッ、定期的に生き血を啜る必要があるがなぁ! ヒャハハ!」


 魔剣は俺を脅したつもりかもしれないが、ダークヒーローやピカレスクロマンにも理解ある俺だ、暗黒剣技の数々についつい厨二心がくすぐられてしまう。

 呪いの相手ではあるけれど、この魔剣を使いこなせれば、もしかして相当強くなれるんじゃ……


 俺は一つ、交渉を試みることにした。


「魔剣ブラッディーだったか? 聞きたいんだが、血ってのは魔物でもいいんだよな?」

「あ? 人間の方が美味いがよう……贅沢は言えねえ。魔物でもいいぜ」

「交渉しよう。俺は冒険者だ……魔物と戦う機会も多いから、血には不足しないぞ。ただ、人間はダメだ。街では喋るな。このルールの下なら、大人しく宿主になってやってもいいぞ?」

 俺は魔剣に条件を提示した。


「ああん? 寄生されてる側が条件付けるとか、アタマ湧いてんのかぁ?」

「逆だ。俺がお前を助けてやるって言ってんだ。このままじゃあお前、どのみちさっきの二人に粛正されるぞ?」

 さっきの二人とは、もちろんマヤ姉とキルマリアのことだ。

 二人を思い浮かべた途端、魔剣の顔色が悪くなる。

 まあ剣だから、顔色も何もないんだけど。


「ぐっ…あの女たちはヤバかったな……わかった、俺もまた封印されたり、へし折られたりするのは本意じゃねえ。乗ってやるよ」

「決まりだな!」

 よし、魔剣を手中に収められた!

 ステータス2倍増しと暗黒剣技はオイシイぞ。


「解呪魔法『ピュイファイ』!」


 そのときだった。

 魔剣が聖なる光に包まれ、苦しみ出す。

「うがあああ!?」

「解呪魔法だって!? い、一体誰が……」


 現れたのは俺のクラン『スーパー朝陽軍団』のヒーラー、ソフィ=ピースフルであった。


「勇者さま! 今、その忌まわしき魔道具から解放してあげます!」

「ソフィ!?」

「なに、宿主の仲間!? 謀りやがったな、テメェ! 言葉巧みに俺を油断させて、騙し討ちってか!」

「は!? い、いや、この展開は俺も予想してなくって……」

「俺たちの友情はここまでだ!」

「え、友情なんて元々あった!? って、涙目になってる! なんかすげー悪いことした気分!」

 せっかく懐柔しかけてたのに台無しになった。

 ソフィ、やっぱトラブルメーカーだ!


「私も星辰教会の出……冒険者になった身でも、常に魔道具の行方は追っていました。よもや勇者さまに取り憑くとは、断固許しません! 役目を果たします!」

 星辰教会?

 魔道具?

 ソフィから初めての情報が次々と明かされる。

 ちょっと待って、今キャパオーバーだから整理する時間を……


 俺の右腕が再び、黒い靄に覆われる。

 まずい、ダークブレードをソフィに向けて放とうとしている!


「百人目の獲物はテメェに決めた! 神官女ぁぁぁ!」

「きゃああああ!」

「逃げろ! ソフィ!」


 俺の右腕が振り下ろされ、ソフィに向けて黒い斬撃波が放たれる。

 万事休す……そう思ったときだった。

 

 一人の妙齢な女性がソフィの前に現れ、バリアを張ってダークブレードを防いだ。

 街を破壊するほどの驚異的な攻撃力を誇った技が、事も無げに。

 マヤ姉やキルマリアでないとそうそう出来ない芸当だ。


 その女性は右手に携えていた荘厳な杖を振り、魔法を唱えた。


「清浄なる光よ、魔を祓いたまえ……『ディスペル』」


「ぎゃあああああああ……あ……あ……!」


 先ほどソフィが唱えた解呪魔法ピュリファイとは比べものならないほどの聖なる光が放たれ、哀れ魔剣ブラッディは、あっという間に霧散してしまった。


 マヤ姉とキルマリアが遅れて広場へとやってくる。

 二人もその魔剣消失劇を目の当たりにし、驚いている様子だった。

「魔剣が消滅した……?」

「何者じゃ、あの女」


 そうだ。何者なんだ、このただならぬ雰囲気を纏った妙齢の女性は。

 改めて全身を見ると、まるでソフィのような神官の格好をしている。

 プリースト職の冒険者なのだろうか。


「ママ!」

 そう言って、ソフィは満面の笑みを浮かべた。

「は!? ママ!? ソフィのお母さん!?」

 俺は驚きの声を挙げた。


「ソフィの母……ノエル=ピースフルと申します」

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