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魔剣ブラッディ

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

コミカライズ1~6巻発売中です。3月に7巻発売予定。

「これが今回の掘り出し物! 幻の聖剣!」

 寂れた道具屋の店主ホアンさんが取り出したのは、鎖に巻かれた一本の剣であった。


 俺はこの日、マヤ姉やキルマリアと一緒に街に繰り出していた。

 市場で日用雑貨を買うマヤ姉、一人食い倒れツアーを開催しているキルマリアを置いて、俺はホアンさんの下を訪れていた。


 ホアンさんは俺がこの異世界に来て初めてお世話になった人だ。

 質に入れたスマホをオーパーツと鑑定し、当面の旅資金をくれたのだ。

 ただ、しばしば呪いのアイテムを掘り出し物として俺に勧めてくる、トラブルメーカーなところもあるのだが…


 俺はその幻の聖剣とやらを見て、苦笑いを浮かべた。

「いや鎖で巻いてるアイテムは大体いわく付きなんですよ、ホアンさん! 前に俺に売った壷もそうだったでしょ!?」

 遊戯帝ウィジャボードがいた亜空間へと吸い込まれた瓶を思い出す。

 あれもホアンさんが掘り出し物だと言って勧めてきたもので、鎖で封がされてあった。

 鎖で封印してるヤツ、開けちゃダメ。絶対。


「裏ルートで手に入れた秘蔵品だよ? 格安だよ! 今なら! 今だけ!」

「うっ…」

 格安と今限定を謳うとは、さすがホアンさん、年取ってるだけあって老獪な商法で攻めてくる。

 気付けば、俺はその聖剣を購入していた。

 

 店を出て少し歩き、市場にいるマヤ姉とキルマリアと合流する。

 マヤ姉は雑貨や夕飯の材料を買い終えたのだろう。片手に紙袋を携えていた。

「用は済んだか、朝陽」

「みたらし団子、美味いのう」

 キルマリアは街娘姿に変装をし、美味そうに団子を頬張っていた。


「ああ、武器をオススメされたよ。ほら、これ」


 俺は鎖の封を、ブロードソードで切って解除し、鞘から刀身を抜く。

 なるほど、聖剣とホアンさんが呼ぶだけあって雰囲気を感じる剣だ。

 鍔の部分が特に特徴的で、豪華な装飾がなされている。


 団子を美味しそうに頬張っていたキルマリアの表情が、一転剣呑なものへと変わる。


「……邪気を放っておるぞ、その剣」


「へ?」


 そう言われた途端、右手に持っていた聖剣がブルブルと震え始める。

 そして次の瞬間、鍔の部分にあった丸い箇所がカッと開かれる。

 そこについていたものは眼球……赤黒い邪気を秘めた瞳であった。


「ヒィヤーハッハッハァ! やぁぁっと自由になれたぜぇー!」


「け、剣が喋ったぁ!?」


 剣が喋るRPGも世の中には一定数ある。ある意味、ロマンではある。

 ただこの粗雑な口調……イヤな予感しかしないんですが。


「朝陽! 早く剣を手放すんだ!」


 マヤ姉が言う。

 俺は頷くと剣を放ろうとした……が、どういうわけか右手から離れない。

 むしろ、右腕の制御が効かない。まるで自分の腕じゃないみたいだ。


「ヒハハァ、無駄無駄! この魔剣ブラッディ様は、一度装備したら滅多なことじゃあ外せやしねぇぜ!」


「魔剣!? やっぱり呪いのアイテムじゃねえか、ホアンさーん!」


 もうあの人が勧める鎖付きの掘り出し物、絶対買わねえ!


「宿主が出来たことでようやく目覚められたぜ。俺は今まで99体の人や魔物の血を吸ってきた魔剣」

「きゅ…99人…!?」

「百人目は………くく、女ぁ! てめぇに決めたぜぇー!」


 そう言うと、魔剣は……いや、俺は、マヤ姉に向けて刃を向けた。

 魔剣が俺の身体を支配しているのだ、止めようにも制御が効かない。


「やめろぉぉぉ!!」


「む」


 魔剣ブラッディの鋭い斬撃はしかし、片手が買い物袋で塞がっているマヤ姉に、ピタッと止められてしまった。

 左手一本。いや、それどころか中指と人差し指の二本指で。

 事も無げに。


「は?」


 俺と魔剣の「は?」がシンクロする。

 マヤ姉が強いことは重々承知しているけど、え、顔色一つ変えずに二本指で白羽取りですか。

 俺と魔剣のプライドがガタガタになっちゃう。


「魔剣とやら。へし折られたくなければ朝陽を解放しろ」

 二本指で押さえてる部分に、ピシッと亀裂が入る。

「ひ、ひいいい!」

「うわ!?」

 恐怖を覚えた魔剣が後方に飛び退く。

 つまりは同時に俺の身体も、右腕に引っ張られて後ろにすっ転ばされる。お尻が痛い。


「な、なら百人目はそっちの町娘だあああ!」


 魔剣の害意は、団子を頬張っていたキルマリアへと向けられた。

 確かにこちらならば斬れると踏むのも当然だろう。しかし。


 魔剣が繰り出す斬撃という斬撃は、キルマリアが持っていた団子の串ですべて弾かれてしまった。


「は、はあああ!?」

 眼球しかない魔剣の、その目が丸くなる。

 かたや二本指で止められ、こなた竹串で攻撃を弾かれる。

 パニックになるのも頷ける。


「99じゃったか? 威張れる数字でもないのう」

 キルマリアの口元が邪悪に歪む。

「数千の魔物を屠ってきたわらわからしたら」


「ひ、ひいい! こ、この尋常じゃねえ迫力……ただの町娘じゃねえのかぁ!?」

 魔剣がビビリ散らかしている。

 そりゃ魔族の頂点近くに存在する魔王六将だもの、魔剣が恐怖を覚えるのも無理はない。


「おい宿主!」

「え、俺のこと?」

「なな、なんなんだ、こいつら!? バケモンか!?」

「魔剣にバケモン呼ばわりされる姉さん方よ…」


 目覚めたばかりで絶体絶命に陥っている魔剣ブラッディのことを、俺は呪われた身ながら同情し始めていた。

 運が悪かったんだよ、ブラッディくん……

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