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姉ガトリング

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

コミカライズ1~6巻発売中です。

 俺の名前は軍場朝陽いくさばあさひ

 異世界に標準ステータスで召喚され、チート抜きで一から冒険者をしている元・高校生だ。


 天下のポケ○ンも、新作で異世界召喚めいた導入をするくらいだ。

 多くあらすじを語らずとも、皆が納得できる設定に異世界物がなったのはありがたい話である。

 経緯を最初から全て説明するのは冗長にもなりかねないから。



 冗長と言えば、今現在俺が置かれている状況こそまさにそう。

 荒野にて、岩に腕が生えた岩系モンスターと戦っているのだが、如何せん相手が硬いため攻撃が殆ど通らない。

 そのため、ダラダラと時間だけが過ぎる冗長な戦闘を繰り広げていた。


「かってぇ…! 攻撃してもガキンって弾かれるし、こんなん暖簾に腕押しじゃん!?」


 効き目がないことを意味することわざを言ったのだが、まるでしっくり来ない。

 糠に釘、豆腐にかすがい……いや、やっぱり違うな。

 柔らかい物に力押ししても意味がない、というのとは真逆の状況なのだから。


 “岩に刃物”が一番しっくり来る。

 ……今の状況そのものなのだから、例えになってなかった。


「ん? 後ろからゴロンゴロンって何か転がってくる?」


 振り返ると、岩モンスターの仲間たちが坂道をゴロンゴロンと転がりながら、こちらに迫ってきていた。

「だああああ! 仲間が一斉に転がり込んできたあああ!!」

 数は5体。

 1体でも攻撃が通らず四苦八苦しているのに、計6体になったら無理ゲーである。


 そんな俺のもどかしいレベル上げが見ていられなかったのだろう。

 世界最強の用心棒である後方腕組み姉さんが、颯爽と空から降ってきた。


 マヤ姉だ。


 マヤ姉は右拳に力を溜めると、岩モンスター6体に向けて、波動を纏った拳打を浴びせた。


「『姉ガトリング』!!」


 強固な岩モンスター達が、さながら糠か豆腐のように呆気なく粉々になる。


 ことわざの概念すらおかしくしてしまう常軌を逸した俺の実姉、軍場真夜いくさばまや

 彼女は異世界にバグったステータスで召喚され、チートで無双する元JKだ。


「大丈夫か、朝陽」

「サンキュー、マヤ姉」

 マヤ姉が俺の身を案じながら、服に付いた土煙をパンパンと払ってくれている。

 子供じゃないんだから、そこまでしてくれなくてもいいのに。


「戦闘に時間かけすぎると、仲間がどんどん増えるタイプのモンスターだったか……火力不足に泣いたなぁ」

「相手が岩では、朝陽お得意の投石も効かないものな」

「得意分野がショボすぎやしませんか」

 得意技”投石”は、なんぼなんでも悲しすぎる。


「軟らかい相手ならまだどうにかなるんだけどなぁ」

「ほう、それはつまり……」

 背筋にゾクッと悪寒が走る。

 これはマヤ姉がお得意のブラコン理論をぶっ放してくる予感。


「お姉ちゃんの柔肌をどうにかしたいという願望の現れだな!」


「違いますけど!?」


 淫靡な表情で、自分の胸を寄せてあげるマヤ姉。

 我が姉ながら豊満な身体をしている……とか考えている場合では無い。

 いつものように、マヤ姉が俺を押し倒しにかかる。


「ほうら、朝陽! やわらかーい相手だぞー!? 攻略してみろー!」

「何言ってんだ!? この姉さんはさー!?」


 誰もいない荒野に俺の叫び声がこだました。





 シーザリオ王国の首都エピファネイア。

 俺たち姉弟はこの街を拠点としている。


 今日も街は賑やかな様子で、人が行き交う通りを俺とマヤ姉は歩いていた。

「帰る前に市場へ寄っていこう。夕飯の材料を買いたい」

「オッケー。荷物持ちは任せてよ」

「キルマリアがさも当然のように食卓に居座っているからな……出費がかさんで大変だ」

「飲んべえでもあるしね」

「酒代もまとめて請求しないとな」

 憎まれ口を叩きつつも、しっかりキルマリアの分の食事も毎日用意するマヤ姉なのであった。


「はあ…」

 俺は先ほどの戦闘を振り返り、溜息をついた。

 火力不足。

 不足しているものは多々ある俺のステータスではあるが、やはり戦士職である以上、攻撃力がないのは致命的である。


「どうにかスキルで補助できないもんかね……っていうか、俺もそろそろ新しいスキル覚えないと」

「朝陽の今のスキルは、投石、エスケープ、フラッシュだったか?」

「そ。戦闘ではあんま実用的じゃないし、なんか覚えたい気分」

「ステータス画面を開いたら、何か習得可能なスキルが増えているんじゃないか」

「確かに。ちょっと路地裏行こ」

「ふっ、人目に付かない路地裏に行って、柔らかいお姉ちゃんにまた何かするつもりか?」

 顔を上気させながらそんなことを言うマヤ姉。

「ちげーよ! 俺のステータスは人に見られちゃマズいから、路地裏で確認しようって話だよ! つか、またってなんだ!?」

 先ほどはマヤ姉の豊満プレスに押し潰されていただけで、俺自身は何もしちゃいない。

 風評被害やめて。


 俺はステータスを開いて、スキルパネルを確認した。

「えーと、何かあ……あっ!?」

 RPGでよく見かける高火力スキルを発見して、俺はテンションが上がった。


「“チャージ”だ! チャージが習得可能になってる!」


 マヤ姉は首を傾げている。

「チャージ? 電子マネー用のカードに入金することか?」

「そのチャージではなく……えっと、”1ターン力を溜めることによって、次のターンに2倍以上の攻撃力を発揮する”強化スキルなんだ」

 俺はマヤ姉にチャージの説明をした。

 所謂、”力を溜める”というヤツだ。


「ほう……火力不足に泣いていた朝陽に、まさにうってつけのスキルじゃないか」

「ホントそうだよ! よし、覚えよう!」

 俺はスキルパネルを指で押し、チャージを覚えた。

「へへ、どれくらいの威力になるのか、早く試したいな」


「アサヒくん! いいところで見かけたっす!」

「おわっ!?」


 誰かに背後から呼びかけられ、俺は咄嗟にステータスを閉じた。

 危ない、貧弱ステータスは秘密事項なのだ。


「ターニャじゃないか」

 振り返ると、そこには息を切らしている冒険者ギルドの受付嬢、ターニャの姿があった。


 何やら焦っている様子だが、どうしたのだろう。

 俺とマヤ姉は話を聞いてみることにした。

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