太陽は東から昇り西に沈む
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
コミカライズ1~6巻発売中です。
木の実で腹を少し満たした俺たちは、再び山を歩き始める。
そもそもの目的は、山に生息するモンスター退治なのだが、まずはマヤ姉とクオンと合流しなければ。
「とは言ったものの……どの方角に進んでるのかも分からないな…」
「コンパス魔法を覚えておくべきでした」
「……!」
何かを閃いた様子のグローリアが、道の脇に生えている一本の木に向かって歩き出した。
「グローリア? どうしたんだ?」
グローリアがカッと目を見開く。
「ごらんなさい! アサヒ、ソフィ! 木の根元に苔やシダ植物が生えているでしょう? これらは日当たりの悪い場所でよく育ちますの! 太陽は東から昇り西に沈む……ゆえに、日陰で育つ苔やシダ植物が生えている方向が北になりますわ!」
急に博識になるグローリア。
「そうなんですか!?」
「物知りだなぁ、グローリア!」
俺とソフィが感心する中、知識を披露した当のグローリアが何故かきょとんとした顔をしている。
「…………なんでわたくし、こんなこと知ってたんですの?」
「は?」
俺とソフィは互いに顔を見合わせた。
再び歩を進める。
道が二手に分かれている。分かれ道だ、どっちに進むべきか。
「了解です! 杖占いですね!?」
ソフィが杖を地面に立てる。
「頼んでねえのに行動が早い!」
「…………」
「…………」
「………あれ? 倒れない?」
杖が倒れる方向を三人で見守っていたのだが、一向に倒れる気配がない。
「おい、ソフィ! 見ろ!」
なんと、杖が地面に突き刺さっていたのだ。
これでは杖は倒れることが出来ない。
「力入れすぎだろ、ソフィ」
「ええ!? 私はいつも通りに杖を立てたつもりなんですが……」
ソフィは困惑している。
グローリアは急に賢くなって、ソフィは急にパワーがついた?
これは一体……
「ハッ! もしかしてさっき食べた木の実、永続効果のあるステータス上昇アイテムか!?」
「永続効果?」
「なんです、それ?」
「どのRPGにも大抵はあるステータス上昇アイテム…魔法や料理で得られる一時的なバフ効果とは違って、ずっとステータスが上がったままなんだ。二人とも、ステータスを開いてみな。グローリアは賢さのINT値、ソフィは力のSTR値が上がってるんじゃないか?」
二人はステータスを開き、それぞれチェックする。
「ホントですわ! だから知識が頭に!」
「さっきのピコーンって音はこれだったんだ!」
「思わぬレアアイテムだったなぁ」
グローリアとソフィが互いのステータスを見やる。
「良かったですね、グローリア。足りなかった賢さが増えて」
「ソフィこそ貧弱さが補えて良かったですわね。箸だけじゃなく茶碗も持てるようになって?」
ニコニコ笑いあいながら、互いに煽る二人。
「なんですかー!?」
「なんですのー!!」
「ケンカすんじゃねー!!」
この二人、そもそもいつの間にこんな仲悪くなったんだっけ。
前回、古城で2パーティーに別れたとき、俺が寝てる間にもしかして何かあった?
まあ仲悪いと言っても険悪な様子ではなく、仲良くじゃれ合ってる感じではあるが。
さておき。
俺も木の実を食べたのだが、特にステータスが上がった感覚がない。
HP、MP、STR、VIT、AGI、INT、LUC……七種あるステータスの内、俺は一体何が上がったんだろう。
「アサヒもステータスを確認してみては?」
「そうだな……」
そう呟いてステータスを開きかけ、俺は冷や汗をダラダラかき始めた。
バカバカ!
俺の小さい七角形グラフを二人に見せちゃったら、実は弱いって事がバレるじゃあないか!
「い、いや、俺は別に変わってないかなぁ? あはは」
俺は必死に誤魔化そうとした。
「え? 勇者さまも不思議な木の実を食べたはずですよね。さては……」
ソフィの双眸がギラリと光る。
まずい、バレた!?
「値がカンストしてるから、これ以上は上がりようがなかったんでしょう!?」
「なるほど! 合点がいきましたわ!」
この二人、いっつも都合良く解釈してくれるからありがてぇー!
俺は胸をなで下ろした。
そのとき、ゴゴゴと地響きがする。
「うわ!? 地震か!?」
「いえ、これは…脅威の気配ですわ!」
現れたのは巨大なカマキリのモンスターであった。
「ギガントマンティス!」
討伐クエストの対象モンスターである。
3人の時に現れるとはタイミングが悪い。
ギガントマンティスは両手のカマで周囲の木をズバズバと斬り倒す。
「まずい、散開しよう! 俺は背後に回る!」
俺がそう言うと、またも知識が降りてきたらしいグローリアが注意を促す。
「カマキリの目は極小の個眼が数万集まった複眼! その視野は360度、背後を取ったとて油断禁物ですわ! って、なんでわたくしカマキリにも詳しいの!?」
自分で語って自分でビックリしている。
ギガントマンティスのカマが俺を襲う。
それを防いだのは、なんとソフィであった。
「うお、ソフィ!? 大丈夫か!?」
「大丈夫です! 非力な私でも攻撃を防げた……あはっ、力が上がった実感が湧きます!」
ソフィは昂揚している。
ただいくらステータスが上がったと言っても、元のSTR値が低いソフィ…強敵相手にどうこうなるもんじゃない。
三人のままでは倒しきる難しいな。どうすればいい。
乱戦の中で、再びグローリアが知識を披露する。
「寄生虫のハリガネムシは、泳げないカマキリを宿主にしてじわじわ洗脳し、入水自殺をさせるらしいですわ!」
「せ、洗脳!? 入水自殺!?」
「な、なんですか、それ!?」
なんて怖気の走る情報だ。
「うわあ! 知りたくも無い知識が頭の中にぃぃぃ!」
自分で言って自分で気持ち悪くなっている。
だが、その情報は使える。
この森の向こうには谷があったはず……そこの川に叩き落とせれば、ギガントマンティスを討伐できるはずだ。
「『フラッシュ』!」
俺は光魔法を敵に放ち、目くらまし状態にした。
「今だ! この隙に川に押し込むんだ!」
「川か……了解だ、朝陽!」
「参ります」
現れたのは、はぐれていたマヤ姉とクオンであった。
二人は勢いよく現れると、それぞれパンチとキックを放ち、ギガントマンティスを吹き飛ばす。
主にマヤ姉のパワーが為せる業だろうが、ギガントマンティスはサッカーボールが如き勢いで吹き飛んでいき、哀れ、谷底の川に落ちていったのであった。
「合流!」
「……同時に、クエスト完遂です」
マヤ姉とクオンがそう言う。
「ふっ、いいとこ持っていきますわね」
「お二人とも、無事で良かったです!」
「はは、ないすー」
かくして、ズッコケ三人組の冒険は幕を閉じたのであった。
☆
街に戻り、解散する。
俺とマヤ姉は家路を歩いていた。
「そうか、私とはぐれている間に色々なことがあったんだな」
「大変だったよ……トラブルメーカー二人抱えてさぁ」
「でもよく二人を守ったな。えらいぞ」
「はは、俺は特に何もしてないけどね」
そういえば……結局、俺が食べたのは何のステータスが上がる木の実だったんだろう。
その謎だけはいまだ解けないままだ。
俺がそんなことを考えていると、マヤ姉がバッと飛び込んできた。
いつものブラコン攻勢である。
「私もハリガネムシみたいに、朝陽に寄生したいぞー!」
「うおおおい!? そんな持ってき方があるかぁ!?」
なんぼなんでも、絡み方が気持ち悪すぎる!
しかし。
「わぷっ!?」
風で飛んできた洗濯物がマヤ姉の顔面に被さる。
押し倒されなくて助かった。
「な、なんだ? 洗濯物が飛ばされてきたのか?」
「はは、俺にとってはラッキーな風……」
ラッキー!?
俺はステータス画面を急いで開いた。
「も、もしかして……」
「どうした、朝陽?」
自分の七角形グラフを見て、俺は愕然とした。
上昇していたステータスはLUC……”運”であった。
「俺が食べたの、運が上がる木の実だったー!!」
実感が得にくいステータスが上がってのも、イマイチ嬉しくないんですけど!?