ラビット級からオーガ級に
冒険者ギルドへ入るなり、お祝いをしてきた黒ギャル受付嬢のターニャ。
何の祝いかわからず、目を白黒させる俺。
「おめでとう? 何の話?」
「冒険者のランクが一気に上がったんすよ! ラビット級からオーガ級に!」
モンスターの危険度がS、A、B、C、D、E級なのは以前聞いたことがあるが、冒険者のランクは初耳である。
そのことを詳しく尋ねると、ターニャは「冒険者には7段階のランクがあるんすよ」と丁寧に教えてくれた。
ラビット級……駆けだし冒険者。ビギナー。ムリは禁物。
ゴブリン級……ゴブリン退治はもう余裕。村一番くらいの強さ。
ナイト級……王都の騎士団入隊レベルの強さ。ダンジョン探索も大丈夫。
オーガ級……危険度C~B級のモンスターとソロで戦える猛者。
ゴーレム級……騎士団の隊長やギルドリーダーを任されるほどの逸材。
ドラゴン級……ドラゴンと対峙しても臆せぬ英傑。
ゴッド級……伝説の勇者クラス。魔王討伐お願いします。
このようなランク制になっているらしい。
ランク付けは前月ひと月の成果によって、月初めに更新されるとのこと。
異世界へ来てまだ一ヶ月ほどだが、俺のランクは何段も跳んで、ラビット級からオーガ級へと上がったようだ。異例のスピード出世だとターニャは言う。
「先日、森で倒したブリガドン討伐も大きかったっす。本来ならあんな人里近くの森にいるはずのない、B級上位のモンスターですもん、アレ。土手っ腹を掻っ捌いて倒すなんてやるぅー!」
ターニャが喜色満面、褒めちぎってくる。
俺は「はは…」と苦笑いを浮かべた。
倒したと言うより、正確に言えば”食べた”だな。
野宿のとき、マヤ姉が食用にと屠殺したあの恐竜、それなりに名の知れた凶悪モンスターだったらしい。今では俺の血肉になっているが。
「すごいっすよ、アサヒくん! マジ期待のホープっす!」
改めてターニャがお祝いをしてくれる。
「い、いやぁ、これは俺の実力じゃなく…」
謙遜する俺をよそに、ターニャが金製のバッジを手渡してくる。
「はい、これ。オーガ級のバッジ」
「バッジ?」
「売り払ったり、人に譲渡したりとかはNGっすよ。王都が認定した、冒険者の身分証明書みたいなものだからね…詐称とかしたら最悪これっす」
ターニャは右手で首をスッと刎ねる仕草をした。
斬首ということか。怖いざんす。
建物から出ようとすると、ギルド内にいた他の冒険者たちがこぞって賛辞を送ってきた。
「たったひと月でオーガ級だって!?」
「やるじゃねえか、アンちゃん!」
「ステキ! あたしたちのパーティーに入ってくれないかしら!?」
「抜け駆けはダメよぉ。ね、坊や…ウチのギルドに入らなぁい?」
「今度、南方のダンジョンへ向かうんだ。用心棒として雇っていいかな?」
「わしのオゴリじゃ。前途の明るい若き勇者よ、呑んでくれ」
俺は戸惑った。
これほど他人に褒められたことなど今まで無かったから。
マヤ姉は別だ。あの姉は俺が息してるだけでも「偉いぞ!」と言いかねないから。
とにかく、俺はたくさんの賛辞と期待を寄せられ(俺の手柄と違うんだけどな……)と思いながらも、ほころぶ顔を隠せなかった。
ああ、嬉しかったんだ。
ニコニコ顔で大通りを歩く。
そういえばLvが上がったと同時に、スキル習得のためのスキルポイントもある程度貯まったはずだ。俺はステータスを開き、スキルツリーを確認した。
「索敵スキル『ホークアイ』……アイテム奪取スキル『盗む』……逃走スキル『エスケープ』……」
なんだろう、このスキルツリーから漂うシーフ臭は。
一応初期ジョブはファイターになっているのだが、狡っ辛いスキルばかりなのだけれど。力を溜めて次のターン2倍ダメージを与える剣技とか、敵全体に0.5倍ダメージを与える剣技とかないんですかね。
「そういえば、マヤ姉のステータスってどうなっているんだろ…」
暴虐的な強さは目の当たりにしていても、肝心のステータスはまだ見たことがなかった。
マヤ姉の強さの裏付けも、ステータスを見れば一目瞭然のはず。彼を知り己を知れば百戦殆からず……孫子もそう言っているように、パーティーの情報を得るのは今後の戦いにおいて大事なことだ。
俺は姉が待っている宿屋へ向かった。
「マヤ姉、ちょっと相談が……」
「あーさひー! 用件は済んだかぁ!」
「ほぐっ!」
マヤ姉がガバッと俺を抱きしめてくる。めちゃくちゃ当たってます。胸がね。
俺は抱擁という名の拘束を解くと、姉に尋ねた。
「俺、マヤ姉のことが知りたいんだ」
迂闊だったのは、尋ね方を間違えたことだった。