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ジークフリート先生

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

コミカライズ1~6巻発売中です。

「ふう、運動した後の紅茶は美味しいですわ」


 グローリア邸の庭先にて、テーブルに座り優雅に紅茶を飲む家主。

 その家主付きのメイドであるクオンが、おかわりの準備を黙々としている。


「アサヒ氏もおかわりいかがですか?」

「あ、ああ……い、頂こうかな」

 俺は落ち着かない様子でおかわりをもらった。


 紅茶の飲み過ぎでもよおしているのかって?

 違う。

 足下で半死半生のチンピラたちが蠢いているから落ち着かないのだ。


「うう……つ、つええ……」

「いてえ…いてえよう…」

「ま、まさか女二人に…全滅させられるとは……がくっ」


 死屍累々である。

 いや、死んではいないが。


 少し離れた場所で、執事服姿の老人が狼狽えている。

「ぬ、ぬう…さすがお嬢さま。金で雇ったチンピラ程度では敵いませんな」

 あの人はセバスチャンさん。

 グローリアの実家、ブリガンダイン家に仕える執事さんだ。

 鉄鋼線という厨二心を刺激される得物を扱う、ダンディな老人である。


「……わたくしを連れ戻す? ふっ、セバスチャン! 冗談きついですわ!」

 スコーンを豪快に食べながらそう言うグローリア。


 紅茶をガブガブ飲み、スコーンをバクバク食べ、戦うときは大剣を軽々と振るう。

 改めて、この子ホントに貴族の令嬢か疑わしく思えてくる。


「まったくですね。私もそう思います」

「俺の心を読まないでくれるか、クオン」

 むしろ落ち着いた佇まいのクオンの方が良家のお嬢さまに思えてくる。


「アサヒ、申し訳ありませんわ。せっかくお茶をしに来てくれたのに、邪魔が入って…」

「いや、大丈夫。うん、もう見慣れた光景だから」

 令嬢とそのメイドが、チンピラたちをボコるシーンを「見慣れた」というのもまた凄い話である。

「ささ、紅茶のおかわりを!」

「紅茶ってそんなわんこそば感覚で注ぐもんじゃないだろ!? 腹タプタプなんですけど!?」


 話題を戻そう。

 ブリガンダイン家に仕えるセバスチャンさんは、時折こうして刺客を送ってくる。

 グローリアを力で負かせば家に戻ってくれると考えているんだろう。

 しかし結果は全部返り討ち……ゴーレム級のグローリアに、階級は知らないけどグローリアと同等の強さのクオン。

 この二人にかかれば、そのへんのチンピラや金で雇われた半グレ冒険者など相手にもならないのだ。


 ちなみに俺は毎回、ただただ傍観しているのみである。

 戦っちゃったら弱さがバレかねないから…という理由なんだが、表向きは「他人の家庭問題には必要以上に踏み込まない」という理由にしている。我ながら異世界に来てウソと方便が上手くなった。


「お嬢さま! どうしても家に戻らないとおっしゃるか!」

「ふぅ、セバスチャンもしつこいですわね」

「私は心配しているのですよ。幼少期より……いや、乳飲み子の時よりお仕えしてきたお嬢さまだ。ゆえに一人暮らしをし、冒険者稼業に精を出すなど心配で心配で…」

「まあ、お嬢が危なっかしくて心配というのは分かります。めちゃくちゃ分かります」

「クオンはどっちの味方ですの!?」

 紅茶を飲みながら、俺も静かに頷いた。

 俺がセバスチャンさんの立場でも、きっと反対してたろう。


「とにかく! このような金で雇った冒険者崩れ、何度送り込もうとムダですわ!」

「…だそうですが」

 グローリアの怪気炎に、クオンが静かに続く。


「伊達に自力でゴーレム級にまで上り詰めていませんね、お嬢さま。では…」

 セバスチャンさんが門の外を見やる。

「お嬢さまより上のランクの戦士ならばどうでしょう?」

「ゴーレム級より上のランクだって…!?」


 ゴーレム級の上と言えば、ドラゴン級かゴッド級しかない。

 そんな猛者が送り込まれてくるのか!?


「先生! お願いします、先生!」


 ゆっくりと、先生と呼ばれた猛者が歩み寄ってくる。

 小汚い村人の服。

 だらしなく伸ばした無精ヒゲ。

 浮浪者にしか見えない立ち振る舞い。


 その顔に俺は見覚えがあった。

 見覚えというか、思いっきり知人であった。


「ドラゴン級のジークフリート先生です!」

 それはジークフリートさんだった。

 俺は飲んでた紅茶を思いっきり噴き出した。


「魔王軍討伐任務まで課されたバルムンクのリーダー、この方が真打ちです! 頼みましたよ、ジークフリート先生!」

「任せてください。何でも屋稼業としての仕事はキッチリこなし……」

 ジークさんがこちらを見て、先ほどの俺のように急に噴き出す。

「ブッ!? アサヒくんたち!?」


 俺はジークさんに詰め寄った。

「な、なにやってんですか、ジークさん!?」

「あ、いや…! こちらの執事さんから、家出したお嬢さんを連れ戻してくれと依頼されて……まさかアサヒくんたちだったとは……」

 ジークさんはバツが悪そうにそう答えた。


「ちなみに、いくらで頼まれたんです?」

「いやぁ……高級レストラン龍宮亭の食べ放題券一年分が成功報酬でね……それに釣られて……」

「ジークさんさぁ…」

 ジークさん、金も職も無くて毎日腹減らしてるもんなぁ。

 セバスチャンさん、人の釣り方が上手い。

 ただ、俺とジークさんが知り合いという情報を得ていなかったのは調べが足りないな。


「残念でしたね、セバスチャンさん。ジークさんは知り合いなんですよ」

「な、なんと!?」

「なので、今日のところは帰った方が賢明かと」


 しかし。

「かつて勇名を轟かせたジークフリートさんとお手合わせできるなど、またとない好機ですわ!」


 グローリアは顔が活き活きとし、瞳を輝かせている。

「グローリアの方がやる気出しちゃったよ!」

「お嬢、根っからの戦闘民族ですから」

 そういえばそうだった。


 グローリアVSジークさんの火蓋が切って落とされようとしていた。

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