表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/180

分かるよ、姉なんだから

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

コミカライズ1~6巻発売中です。

 謎の子供との勝負に負けたことによって、人形化させられた軍場朝陽こと、俺。

 路上を彷徨っている最中に俺を拾い上げたのは、グローリアとクオンであった。


「やった! 助かった! 俺だ、朝陽だ!」


 グローリアの手の中で、身振り手振りを交えて助けを求める。

「まあ! 動きますわ、この人形! カラクリ式かしら!?」

 グローリアが興味深げに俺を観察する。


 この様子では、どうやら俺の声までは届いていないらしい。

 人形だから声帯ないもんな……


「お嬢、落ちてる物を拾わないで下さい。手が汚れますし、よからぬ雑菌も付着します。不潔です」

「不潔とまで言う!?」

 クオン、めちゃくちゃ言いよる。

 令嬢のお付きとしては正しい反応かもしれないが、愛がなさ過ぎる。


「それに、もしかしたらブリガンダイン家が送り込んだ罠かもしれません。盗聴魔法の術式が編み込んであるとか…」

「セバスチャンならやりかねませんわね」

 セバスチャンさんもめちゃくちゃ言われてる。可哀想に。

 しかし俺はもっと可哀想な目に遭いそうになっていた。

 クオンが二刀ダガーを構えたのだ。


「解体して確認します」

「いやあああ!!」

 俺は誰にも届かぬ悲痛な叫びをした。


「おやめなさい! この人形は木から吊し、剣の練習に使うつもりなんですの!」

「こっちもろくでもねえええ!」

 この二人、なんなの!?


「冗談じゃねえ! 逃げろぉー!」

「あ!」

「逃げた」

 俺はグローリアの手から飛び降りると、一目散に逃げ出した。



 無事、グローリアとクオンから逃げ切った俺は、路地裏で息を整えた。

 人形だから不要とは思うのだが、とにかく一息つきたくて。

「はあ、はあ、酷い目に遭いかけた……あいつら、今度生身で会えたら文句言ってやる…!」


 そんな俺に、フッと影が差す。

「ん? ふぎゃん!」

 頭上から杖が振ってきたのだ。その先端が見事に俺に命中する。

「勇者さまはこちらの方角と出ました!」

 俺を勇者さまと呼ぶ人物は一人しかいない。ソフィだ。

「ソ、ソフィ……!」

 どうやらこの杖、杖を転がして行き先を決める杖占いの結果らしい。


 ソフィが俺の姿を探してか、きょろきょろと周囲を見渡している。

「見当たりませんね……杖占い、不発だったかなぁ?」

「いや…ある意味、大的中してるよ…」

 杖に下敷きになりながら、そう呟く。


 知り合いと出くわしたら、例に漏れず酷い目に遭ってしまう……

 今日はもう誰とも遭遇しないように気を付けねば。


 だが人生とはままならないもので、こういうときに限ってよく知り合いに会うんだ。


 まずは、冒険者ギルドの受付嬢ターニャ。

「人形が動いてる!? ギルドに報告して『謎の人形を追え!』クエストを発注するっす!」

「クエスト対象にさせられちまう! 逃げねば!」


 お次はドラゴン級の浮浪者、ジークフリートさん。

「金欠で丸二日は何も食べてない……動く人形、質屋で高く売れそうだ…!」

「やべえ! ジークさん、目がマジだ! 全力で逃げろおお!」


 さらに美食クラン、モンストル・マルシェのグルメハンター、シモフリさん。

「新手のモンスター!? た、食べてみたい!」

「食われるぅぅぅ! つーか人形を食おうとすな! シモフリさぁぁぁん!」



 知り合いから逃げに逃げ、街角をトボトボと一人寂しく歩く。

「みんな、俺に気付かないな……仕方ないけどさぁ……」

 初めてこの異世界にやって来た日を思い出す。

 異世界召喚に興奮するオタクではあったけど、やはり誰も知らない世界に一人きり。

 孤独を感じたものだ。


 そう、今と同じく、孤独。


「お?」

 身体が宙に浮く。

 誰かが俺の身体を拾い上げたのだ。

 その人物が、人形となった俺の身体をジッと見つめている。


「……」


「マヤ姉!」

 

 それは我が実姉、マヤ姉こと軍場真夜であった。

 そうだ、マヤ姉なら俺に気付いてくれるかもしれない!

「マ、マヤ姉! お、俺…! 朝陽…!」


 しかし。

「動く人形か。面妖だな」

「うっ……マヤ姉でもダメか……」

 俺はガックリとうなだれた。


「朝陽にプレゼントしたら喜びそうだ」

「いや、俺はこんな人形じゃあミリも喜びませんけど…」

 クオンじゃないけど、この人形不潔っぽいですもん。

「現実世界でも、朝陽は人形遊びが好きだったものな」

「え? したっけ、そんなの?」

「よく美少女フィギュアをローアングルから覗き込んでいたものだ。あっはっは!」

「きゃあああ! 見られてたのかぁぁぁ!」

 とんでもねえ恥辱!


「よし、持って帰ろう。どこにしまおうかな」

「え、家に持ってってくれるの? そりゃありがたいけど」

「ようし、ここにしまおう!」

 そう言うと、マヤ姉は胸の谷間に人形体の俺を差し込んだ。

「ぬおおおお! どこに押し込んでんだぁぁぁ!?」

 柔らかいしイイ匂いするし、とにかく情緒が掻き乱されるんですが!?


「なんてな」


「へ?」

 ポカンとしていると、マヤ姉が優しい笑顔を俺に向けた。


「朝陽なんだろう? 分かるよ、姉なんだから」

 

 ああ。


 こんな姿になっても、やっぱり。

 

 声が聞こえなくても、やっぱり。


 気付くと俺は、マヤ姉の顔に抱きついていた。

 いつもは俺が抱きつかれるのだけれど。

 今回は俺から、強く。


「…………」

「…………」

「ふぁふぁひ、ひひはへひはいんはは」

「は? なんて?」


 見ると、マヤ姉の顔が真っ赤になって窒息しかけていた。

 「ふぁふぁひ、ひひはへひはいんはは」とは、「朝陽、息が出来ないんだが」だったのだ。

 フェイスハガーよろしくがっちり顔面に抱きついてたのだ、そりゃそうなる。


「うおおお!? ごめーん!」

「はあ、はあ…はは、だが朝陽に窒息死させられるのなら、それもまた本望!」

「なに言ってんの!?」

 

 まったく、最後まで格好が付かない姉弟である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ