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冥境のウートポス

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

コミカライズ1~5巻発売中です。

 リザードマンの群れに襲われている馬車を助けるべく、丘の上から飛び降りる俺たち。

 高所からの飛び降りではあるが、大丈夫。

 ソフィの物理防御力上昇魔法『プロテクト』がかかっているかズダアアアアン!


「し、痺れるぅぅぅ……!!」


 地面に降り立った反動で、全身がビリビリ痺れる。

 いかに耐久力を上げようと、やはり十数メートルの高さからの飛び降りは身体に堪える。

 タマヒュンもめちゃくちゃした。


 しかし同時に飛び降りたはずのグローリアとクオンは着地と同時にすでに駆け出し、はるか前方にいた。

 さすが場慣れしている。


「ひいい! モンスター!?」

 リザードマンに囲まれた馬車の御者は慌てふためいている。

「ヒャッハー! 荷台に食い物が積んであるぜ!」

「やった! 当たりだ!」

「ニンゲンは殺すなよ! 捕まえてまた納屋に放り込んでおけ!」

 リザードマンらは馬車を乗っ取ろうとしていた。


 そこに馳せ参じたのが、スーパー朝陽軍団の切り込み隊長グローリアとクオンであった。

「そこまでですわ!」

「続きます、お嬢!」


 突然現れた人間の襲撃に混乱するリザードマンの群れ。

「うわ! ぼ、冒険者だ!」

「ど、どうするよ!」

「ええい、二人だけだ! 返り討ちにしろ!」

 リザードマンたちは剣を構え、応戦する。

 膂力や頑丈さは種族特有のものなのだろう、グローリアやクオンと言えどすぐさま一網打尽とはいかないようだ。手強い。


 ならば三人目の出番だろう。

「ぎゃっ! い、石!? 誰だ!?」

 リザードマンは後方から飛んできた石つぶてに驚いている。

「投石で失礼。二人だけじゃない…まだいるよ」

 投石なら任せて欲しい。

 ストレート、フォーク、シンカー、何でもいけます。


「ひ、人質を連れてくるんだ! 盾にして逃げよう!」

 リザードマンの一体がそう提案する。

 危局に陥ったらそうするだろうなとは思っていた。だから俺は先手を打っておいた。


「無駄だ」

 

 納屋の方から現れたのはマヤ姉と、そしてソフィであった。

「なっ…まだ人間がいたのか!?」

「納屋に捕まっていた方ならもう解放済みです! 人質は使えませんよ!」

 ソフィがそう言う。

「なにぃ!? いつの間に!?」


 丘の上から飛び降りる前、俺はマヤ姉に目配せをしていた。

 俺たちが先陣を切って囮をしている間に、ソフィと共に人質を解放してくれ…と。

 さすがマヤ姉。言葉にせずとも俺の意図を汲んでくれていたようだ。

 

 俺、グローリア、クオン。

 マヤ姉、ソフィ。

 2パーティーに別れての陽動作戦。

 クランだからこそできる役割分担だ。


「ううっ……」

 リザードマンたちの動きが止まった。

 どうしたのだろう。人質はなくなったが、それでもヤツらは猛者。

 人間相手に怯む理由などないように思うが。


「う……うう……!」

 リザードマンたちは皆、武器を捨て始めた。

 そして一斉に、”土下座”し始めた。


「み、みみ、見逃してくれぇ!」


「は!?」

「な、なんなんですの!?」

「土下座…ですね。首が長い分、難しそうなのによくやる」


 俺は、俺たちは目を丸くした。

 モンスターが人間に土下座?

 どういうことだ、これは。


 リーダーと思しきリザードマンがいきさつを話す。

「お、俺たち、戦いがイヤなんだ! だから関所侵攻の途中で逃げ出したんだ!」

「た、戦いがイヤ?」

 驚きの告白である。

 俺は今まで、モンスター=好戦的だと思っていたのだが……


「ギガノト様の下に戻ったら殺されちまう!」

「あ、ああ…だから廃村に住み着くしかなかったんだよ!」

 他のリザードマンも次々に声を挙げる。


「ギガノト……確かにヤツならば、敗走兵は皆殺しだろうな」

 マヤ姉が俺にだけ聞こえるようにそう呟く。

 この中で直にギガノトと対峙したことがあるのはマヤ姉だけだ。

 なるほど、そこまで残酷非道な将軍なんだな。

 キルマリアとは大違いだ……と思ったけど、アイツはアイツでモンスターに容赦ないか。魔王六将、基本みんなおっかねぇ。


「こんな厳つい風貌をなさっているのに、戦いがキライなんですの?」

 グローリアが不思議そうに首を傾げている。

「お嬢みたいな、良家の令嬢なのに喜び勇んで戦いたがる人間なんてのもいますからね。それぞれかと」

「まあクオン! そんな褒めないで!」

「褒めてはいません」

 クオンの皮肉もグローリアには通じてない様子。


「あの、勇者さま」

「ソフィ?」

「捕まっていた人も実は無傷でした。危害を加えられていないことを、逆に不思議がっていましたよ」

「そうなのか…」

 俺とソフィの会話を聞いて、リザードマンらがまた声を挙げる。

「こ、殺しなんて全然! そんな怖いことできないっすよ!」

「商人は襲ったけど、誓って傷付けちゃいない!」

「食いもんが欲しかっただけなんだよう!」


「…………参ったな……」

 どうしたものか。

 俺はマヤ姉を見た。

「朝陽、お前が決めるんだ」

「…………だよな」


 俺は剣を取った。

 そして地面にひれ伏しているリザードマンたちに一歩、また一歩と近付いていく。

 彼らはすでに戦意喪失しているようだ。

 捨てた剣を拾うこともなく、ただただ怯えている。


「ひっ……お、俺たちを殺すのか……!?」

「これは討伐クエストなんだ……」

「やめっ…!」

「依頼は完遂する!」


 俺は剣を振るった。


「ぎゃあああああ!!!」


 ドスッという音を立てて、切り落としたモノが地面に転がる。

「あ、あれ……?」

 きょとんとするリザードマン。


 切り落としたのは”トカゲのしっぽ”であった。

 俺はそれを拾うと、こう言った。


「この尾をギルドに持ち帰って言うさ……『討伐しました』って」


 クランのメンバーを見ると、皆ニコニコと微笑んでいた。

 良かった、俺の行動に異を唱える人はいないようだ。

「フッ……優しいな、朝陽は」

 マヤ姉はそう言って、優しく微笑んだ。





 程経て。

 先ほどの現場から、数キロほど離れた山の中を歩く集団がいた。

 リザードマンたちだ。


「見逃してくれてよかったね!」

「ああ、良い人たちで助かった。普通なら討伐されてるぜ」

「みんなしっぽの先っちょを斬られたけど、これくらいならすぐ生えてくるもんな。いやぁ命拾いしたー」

 リザードマンらはそれぞれ安堵の表情である。


「獣魔城に戻らず、このまま山の中でひっそり暮らしていこう。行商人を襲うのもナシだ。獣と果実、あと魚なんかを捕って生活を……ん?」

 周囲に不気味な霧が立ちこめていることに気付く。

「霧…? 夕方だぞ…?」

「なんかイヤな空気だ……」


「あはぁ。ゲームしよかぁ?」


 そんな声がどこからか聞こえてくる。

「だ、誰だ!?」

「子供の声…? こんな山奥に人間の子供…?」

 声の主の姿は見えないが、それは幼く無邪気な声であった。


「ゲーム名は”ノームさんころんだ”……声がしている間だけ自由に動いてええから、その間にこの山道を駆け抜けてごらん? 声が止んだのに動いてもうたら……あは、罰ゲームや。ほな、始めるで。ノームさんが…」


 状況が飲み込めないリザードマンたちは一様に戸惑っている。

「な、なんだ、ゲームって!?」

「お、おい、さっき言ったルールってなんだっけ」

「ノームさん? 転ぶ? 何の話だ?」


「こーろんだー」


「こら! 姿を見せろ!」

「そうだそうだ!」

 

「あははぁ! 声が止んだのに動いとるね! 罰ゲーム!」


 リザードマンたちの周囲だけ、急速に時間が早送りになる。

 周囲の木々や植物も、凄まじい速さで枯れていく。

「うおお!? か、身体が…急激に、お、老いて…ああ……!!」

 彼らは瞬く間に加齢し、年老い、朽ち果ててしまった。

 その場に残ったのは、5体分の白骨化した死体であった。


 濃い霧の中から小柄な子供が現れる。

 人間で言えば12歳くらいだろうか。少年のような少女のような、どちらともつかない中性的な風貌である。

 メカクレの髪型。

 サスペンダー付きのシャツに短パン、ガーターソックスといった”良家のお坊ちゃま”風の装いに、上からブカブカの白衣を纏っている。


「アサヒくんだっけか……くすくす」

 邪悪な笑みを浮かべる。

「次はボクがたっぷり遊んであげる……この”冥境”のウートポスが」


 その正体は魔王六将がひとり、冥境のウートポスであった。

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