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姉ファイア

 シーザリオ王国の首都エピファネイア。

 その城下町を出て、小一時間歩いたフィールド上にて、俺は一匹のスライムと激闘を繰り広げていた。


「たあああ!」


 銅の剣でスライムを撫で斬りにする。しかし切っ先が体内で止まり、切り裂くことが出来ない。

 骨格も体節もない軟体動物のような構造なので、物理攻撃が思いのほか有効でないのだ。


 スライムと言えば、RPGに置ける最弱の存在の代名詞。クソザコのシンボルだ。しかしこうして対峙してみると、存外手強い相手である。それどころか顔にへばりつかれでもしたら、窒息死させられる危険性がある。

 実際、スライムを舐めてかかって、逆に倒される初心者は多いと冒険者ギルドでも聞いた。スライム、侮るなかれ。


「切ってダメなら潰すまで! 『投石Lv:1』」


 俺は石を持ちジャンプすると、地面を這っているスライム目がけて、唯一のスキルである『投石Lv:1』を見舞った。

 身体の中心に石を穿たれ、四方に飛散するスライム。


 最初の頃はバカにしていた投石スキルだが、この人間カタパルト、使いようによってはなかなかに強い。スライム一匹を撃退し、俺はふうっと息をついた。

 そんな俺のすぐ側で、スライム数十匹と対峙している人物がいた。

 マヤ姉こと、軍場真夜いくさばまやである。


「『姉ファイア』!!」


 マヤ姉は天高く舞い上がると、空から巨大な火球を次々と放ち、地面にいるスライムらを一瞬で蒸発させた。ファイアというか、これはもうメテオスウォームの類だ。


「スライムが気の毒になるほどの強さ……いや、一瞬で逝けて逆に幸せなのか……?」

「朝陽の方も片付いたようだな。お疲れ様、よくやったな」

 マヤ姉に比べればよく殺ってもいないのだけれど。

「ありがと。いや、それよりマヤ姉」

 ひとつ、気になることがある。


「『姉ファイア』ってなに?」

 聞き覚えのない単語について尋ねてみる。

 いや本当、何それ。


「なにって……”魔法や必殺技には名前を付けなきゃダメ”と力説していたのは朝陽だろう?」


 そう、マヤ姉はいつも無言で魔法や必殺技を放ち、モンスターを倒してきた。

 しかし必殺技や魔法名を叫ぶのは、異世界作品のお約束……バトルファンタジーものの醍醐味でもあるのだ。

 敵だって、無言の相手に鏖殺されたのでは倒されがいもないだろう。倒され方に注文を付ける敵もまずいないだろうけども。

 とにかく、技名を叫ぶのは様式美なのだ。

 だから名前を付けてと提案していたのだが……


「その結果が『姉ファイア』ってなに!?」

 俺は再び聞いた。

 適当すぎる。どういうセンスだよ。

「姉が炎を放つのだから姉ファイア。おかしいか?」

 あの威力の魔法は、『エクスプロージョン』とか『ヴォルテックスフレア』とか『鳳凰灼熱陣』とかじゃないと割に合わないだろう。姉ファイアて。


「いや、もっと格好いい名前付けなよ!」

 俺がそう言うと、マヤ姉は少し間をおいてから答えた。


「術名を聞いた瞬間に消失する敵相手に、名前などどうでもいいだろう?」


「ケロッとめちゃくちゃ怖ぇこと言う…!」

 俺は震撼した。実際、その通りではあるのだが。

 マヤ姉はRPGに明るくないため、こういうロマンが分かっていないのだ。


「それで、レベル上げとやらはもう済んだか?」

 そうだ。俺はレベル上げのために街の外に出てきたのだった。ステータス画面を開く。

「ああ、おかげさんでLv:5まで上がったよ。付き添いありがと。じゃあ街に戻ろう。俺はギルドに寄るから、マヤ姉は宿屋で待っててくれ」

 俺たちは街へと戻った。


「アサヒくん、おめでとうっす!」

 冒険者ギルドへ行くと、すっかり顔馴染みになった受付嬢のターニャが、花吹雪を撒いてお祝いをしてきた。

 はて、何の祝いだろう。

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