異世界市役所
「ふう……総務の奴らめ、好き勝手いいやがって」
「でも今回はこっちも悪かった案件だし……」
「だからといって、こんなにも大量の……」
ここは異世界市役所。
現世で非業の死を遂げた人物達が転生する前に、一度立ち寄る場所。。
異世界小説の影響か、増えすぎた転生者達に神が追いつけず、やむなく設けられた行政機関である。
不平不満を言っているのは、新人の白石。
その隣でテキパキと申請書をチェックしているのは、2年目の宿里である。
彼等が所属しているのは、転生者達が一番最初に通される窓口。
といっても、転生者自身が市役所にやってくるわけではなく、仮死状態の彼等の魂から抽出された人生の履歴書を、チェックしているのである。
前世での活動を細かに見て、彼等に相応しい「異世界」を用意してやる。
それが異世界市役所の主な仕事だ。
「あーあ。転職しようかなあ……」
白石がそういってぼやく。
宿里がその横で苦笑して
「転職って……入ったばっかりじゃない」
「でも、こんなにきつい仕事だって、聞いてなかったしな……」
そういいながらも、ぺらぺらと書類をめくっていく白石。
すると、一つの書類に目を止めて……
「お、これなんか、いいんじゃないか?」
※※※※※※※※※※
「ど、どこだここは……俺はいったい……」
迷える魂がまた一人。
「ようこそ、新人」
にやりと笑う男が一人。
「異世界市役所へようこそ!!」
傍らで微笑む美人が一人。
「はえ……えっ?」
そう。
ここもまた、「異世界」の一つなのだった。
業務はまだまだ続いていく。