終幕・check the answer
この作品を読む場合は、story teller's archivesの第4幕までと、"snowfall townの全作品"を読んでからをオススメします。
休日、楠木意は街に来ていた。先日、彼氏の夏折灯真に頼み込み、学校の友人二人に合わせてもらうことにしたのだ。
待ち合わせ場所に着くと、すでに三人は来ていた。
「ごめんね~、遅くなっちゃった」
「いいや、大丈夫だよ」
見慣れた彼氏と、もう二人。何処にでもいそうな男の子と、顔立ちの整った綺麗な女の子だ。
「始めまして。ええと、小鳥遊良太さんと、杉野心羽さん……で合ってるよね?」
「おう」
「そうだよ~、よろしくね意ちゃん!」
「こちらこそ、よろしくね心羽ちゃん」
仲よさそうに自己紹介をしあう二人を尻目に、灯真は不服そうな顔をした。その様子をみて良太は茶化すように言った。
「なんだ、悔しいのかー?」
「うっせえ、悪いか」
「否定はしないのか」
程よく皆が仲良くなったところで、意が声を上げた。
「さてと、さっそくだけど、三人で話せるかな?」
ギャーギャー喚く灯真を置いて、三人は場所を変えた。
「それで、話って?」
「ええとね、最初にお礼を言わせて欲しいの」
「お礼?」
意はペコリと頭を下げながら言った。
「私と灯真くんを復縁させる手助けをしてくれてありがとう」
「「へ?」」
「全部二人の作戦だったんだよね?」
良太と心羽は目を丸くした。突然のことに頭があまり追いついていなかった。
「ど、どうして?」
「なんで知ってるんだ?」
良太の発言を聞いて、意はにやりと微笑んだ。
「その口ぶりは当たってるんですね」
「……正解だよ。まさか俺なみに勘が鋭いなんてね」
「すごいね意ちゃん!」
「いやいや、そんなことないよ」
にっこりと笑ったあと、意は言った。
「どうやったんですか?」
「そうだなぁ、楠木さんにだけネタバラシをしよう」
「まず俺は、アイツと仲良くなるうちにアイツは人に影響されやすいってことを知った。曲の趣味とか、本の趣味とかね。普段の話から文庫本のような本格的な本を読まないことを知っていた俺は、アイツのお気に入りの本は誰かの入れ知恵だと考察した。それもかなり深い関係の人のね。
そんな時、アイツはその本をきっかけ杉野を好きになり、俺に相談をした。きっかけがその小説ということは、その小説はアイツにとってかなり思い入れのあるものだとわかる。そこから俺は、その本を教えたのは話に聞いていた自然消滅した元カノだと考えた。
その上、その小説をそこまで大切にしているということは、まだ心のどこかに住んでるということ。だから、杉野への想いは気の迷い。もしくは無意識のうちに君を重ねていると思ったんだ」
「私にメールさせたのも良太さん?」
「そうだ。楠木さんがまだアイツを好きかは賭けだったけどね」
つまり、その賭けは大当たりだったということだ。
「それで、小鳥遊くんが私に言ってきたの。夏折くんから聞き出した元カノの像に出来るだけ似せて振舞って欲しい。ってね。数学を教えてもらおうとしたのもわざと。小鳥遊くんが『アイツは人に勉強を教えてもらうような奴じゃない。だからきっと元カノに教えてもらったんだと思う』って」
「すごい、大当たり」
「まあ、『千里眼の小鳥遊』ですから」
良太は少し得意げに言った。馬鹿に出来ない洞察力だ。
「それで、結果は大成功ってことだね」
「我ながら上手くいったと思う!」
「俺の洞察力のなせる業だな」
「二人とも、本当にありがとうね!」
「いえいえ!」
「気にすんな。中途半端な思いで人を好きになるもんじゃないしな」
「戻れてよかったね!」
「うん!」
「っと、じゃあそろそろ戻ろうか」
「あ、私飲み物買っていくから先行ってて!」
「はーい」
意は、二人と反対方向に歩いていった。
二人が離れていったのを確認すると、意はこちらを向いて、こう言った。
「ありがとう。あなたのおかげで、私はハッピーエンドを迎えられたよ。これがきっと、私のトゥルーエンドなんだと思う」
驚いた。こんなことまでするなんて。
「これからは、幸せな物語を紡いでいくよ。自殺なんてバッドエンドの紀行文は、書かないから」
最後に、意はにっこりと笑って言った。
「だから、またどこかで会おうね!」
走り去っていく背中。そこに悲しみの三文字はもう見えない。
……全く。最後まで面白い人だ。さすが俺の名前を貸しただけはあるね。
彼女の言葉が俺に向けられたものか、はたまた皆さんに向けられたものかはわからないけど、俺からも言わせてもらおう。
ありがとう。読者の皆さん。皆さんがいたからこそ、彼女はハッピーエンドを迎えることが出来た。物語を紡ぐ者として礼を言うよ。
これが彼女らの選び、迎えたトゥルーエンドだ。俺も満足だよ。いいものが出来た。
これで、彼女らの物語は終わる。しかし、俺の想像が続く限り、物語は続く。もし皆さんが望むならば、俺はその物語を紡ごう。読者のニーズに応えるのが紡ぐ者の役目だからね。
それでは、そろそろエンドマークを打つとするよ。
俺は自分の小指を差し出した。
「今度も、物語で会いましょう」
皆さんは、少し驚いた顔をして、こう言った。
「ああ、また」
そして、俺たちの小指は結ばれた。
……なんてね。
END




