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アホな彼女 夏休み編


「あたしと付き合って!」



明日から夏休み、中学三年の俺は受験生だ。

偏差値が一番高い公立の高校を目指してる俺は夏休みもびっちり塾に行く予定だ。

終業式が終わり、そのまま塾へと向かおうとしていた。



周りを見回す。

俺しかいない……


じゃあこの子は俺に言ってるんだよな?

ウソだろ?

有り得ない……


「ねぇ…聞いてる?」


俺の目の前で腕を組んで仁王立ちしている彼女……


彼女の名前は成瀬なるせ 友美ともみ

学校では知らない生徒はいないくらいの有名人だ。


何が有名って……

良い意味で有名なのではない。反対だ。

素行が悪くていつもガラの悪いやつらと付き合っている。

授業はサボる。夜遊びはする。

いわゆる不良少女だった。

九九もできないという噂もある。



一方俺は成績優秀、品行方正。

テストはいつもぶっちぎりで一位だ。


俺達は同じクラスになったこともない。

話したこともなければ挨拶したことすらない。

お互いの友達だってかすりもしない。

まったく接点がないのだ。



「なんかの罰ゲーム的なやつ?」

俺は辺りを見渡しながら聞いてみた。

こいつの不良仲間がニヤニヤしながら俺達の様子を隠れ見てると思ったからだ。


「はあ?なにそれっ!」

「だから、ゲームで負けて最初にここ通った生徒に告るとかやってるんだろ?」


「カチーンっ違うし!」

カチーンとか口に出して言うやつ初めて見た。


「じゃあなんかの賭けか?俺がYESって答えたら千円もらえるとか?」

「ムッカー!なんなのそれっ!」

ムッカーとか言うやつも初めてだ。


成瀬は俺に手紙を寄越してきた。

「本気だよっわからない?!」


手紙には高橋たかはし 広人ひろとへと書かれていた。

漢字が違う…俺のは寛人ひろとと書く。


「わっごめん。書き直す!」


成瀬は慌ててカバンから筆箱を探しだした。

漫画やらお菓子やら化粧品やらでごちゃごちゃのカバンからはなかなか出て来ず、全部ひっくり返して地面にばらまいた。


雑だ。この女雑過ぎる。


「筆箱ないっ口紅でいい?」

そう言ってカタカナでヒロと大きく上書きして渡してきた。


「……で、この手紙の誤字脱字を修正してから返したらいいのか?」

「返さなくていいよ!中身は私のアドレスだけだしっ。」


なんで貴重な勉強時間を削ってまでこんな女とメールしなければならないんだ。

いらないと突き返したかったのだがこれ以上無駄な時間を取られたくないので形だけ受け取ることにした。


どうせ明日から夏休みでしばらく顔を合わすこともないし……


成瀬は俺が手紙を受け取ったのを見てニッコニコ〜とか言いながらついてきた。


なぜついてくる?

しつこいようだがニッコニコ〜とか言うやつ初めてだ。



「ヒロ、どこ行くの?」

友達でもないのにもう呼び捨てだ。


真淵まぶち。」

「何それ?遊ぶとこ?」

あの超有名な進学塾を知らないなんてコイツ本当に受験生か……


「塾だよ、塾。ついて来ても部外者は入れないぞ。」

「そっか…残念。ヒロは頭良いもんね。」

成瀬は元気よくバイバーイと言って去って行った。



あの手の女は苦手だ。








夏休みの間はいつでも塾の自習室が使える。

エアコンがついてるし静かな環境だし勉強するにはもってこいだ。


今日の塾での授業が終わり、俺はいつものように自習室で勉強を始めた。



「ヒロ。」

勉強に集中してる俺の横の席に誰かが座った。

あれっ…この声って……


いるはずのない成瀬がそこにはいた。


「おまえなんでいるの?!」

大きな声を出してしまい自習室にいた他の塾生からにらまれた。


「今日これ受けたの。」

成瀬は一枚の紙を俺に見せてきた。

誰でも受けれる無料体験と書かれていた。


ここの塾はレベルが高い。

入るにはテストを受けそれに合格しなければいけない。

成瀬では無理だろう……


「私語厳禁だから静かにしとけよ。」

「うん。」


俺は成瀬の存在は無視して再び勉強に集中した。



横から寝息が聞こえてくる……

成瀬は寝顔を俺の方に向けながら、机を枕にして寝ていた。


何しに来てんだコイツは……


成瀬が学校で有名なのは不良だからというのもあるがその見た目のせいもある。

俺は知らないが人気アイドルグループの誰かにそっくりらしい。


俺は隣りで眠る成瀬の姿を横目で見た。


確かに可愛いっちゃ可愛い。

体型も女の子らしい丸みがあって、健康的だ。

性格はアホだけど明るいし喋りやすい。


そう言えばクラスの男子共が成瀬の胸がデカいって騒いでたっけ……

とにかく男ウケする派手なタイプの子だ。



でも俺はイヤだ。

まずいつもツインテールにしている髪の毛が茶髪を通り越して金髪だ。

化粧も顔に塗りたくっている。

スカートもパンツが見えるんじゃないかってくらい短い。



全然好みじゃない。


モテてるはずなんだけどなんで俺なんだ……




「……うっ…ん、ヒロ……」



寝言でめっちゃ色っぽく名前を言われてドキっとした。


何コイツっ…俺の夢でも見てるのか?!


ツヤっぽい成瀬の唇が妙にエロく見えてしまった。

短いスカートから伸びる生足や、第二ボタンまで外した胸元がとても無防備だった……




集中できん!帰るっ!!



「高橋、成瀬と付き合ってんの?」

帰り支度を始めた俺に、後ろの席にいた三好みよしが話しかけてきた。

三好は俺らと同じ中学だ。


「付き合ってるわけないだろ。付きまとわれて迷惑してる。」

「へ〜成瀬が高橋をねー。意外だわ。」

そう言って三好は自分の消しゴムを成瀬の足元に転がした。


「三好、何やってんの?」

「消しゴムを拾う時に見えちゃったって感じ?不可抗力。」

成瀬のパンツを見ようとしてやがる。


素早く消しゴムを拾い三好に渡した。

三好がチッと舌打ちをする。


「おいっ成瀬起きろ。帰んぞ。」


まったく成瀬は無防備過ぎる。








「ふぁ〜よく寝た。」

おまえのせいで俺は全然勉強に集中できなかったよ。


「ヒロは高校どこ受けるの?」

「……一ノ瀬代。」


「あっ知ってるそこ。めっちゃ頭良いとこ!」

そうだよ。だからめっちゃ勉強しないといけないんだよ。


「私もヒロと同じとこ受けよっかな。」

受かるわけないだろ。

「受かったら付き合ってくれる?」

「はあ?」


成瀬はまっすぐな目で俺を見ていた。



「付き合ってくれる?」



もう一度繰り返す……

冗談ではなく本気のようだ。


「成瀬なんで俺なの?」

「…メールくれたら教えてあげる。」

そう言えば成瀬からメルアドもらってたっけ…

1回もしてないが。



「本気で受かると思ってる?」

「今からしゃかりきに勉強する!」

なめてる……他の学校ならいざ知らず、俺はその学校に行くために小学校の頃から塾に通っているというのに。


「メールはしない。勝手に目指せば?」

受かるわけがない。

去ろうとした俺に成瀬が後ろからギュッて抱きついてきた。


「なっ、何してんだおまえっ?!」

「前借り〜。ムフフ。」


前借りって……もう受かる気でいやがる。



「じゃあね〜ヒロ!」

成瀬は元気よくバイバーイと言って去って行った。



成瀬の……

胸の感触が背中にめっちゃ残ってる……










夏休みも8月に入り、夏期講習も復習が終わり予習中心になってきた。



塾での勉強を終え外に出ると成瀬が座っていた。

ガックリと項垂れている……

てか、そんな短いスカートでそんな座り方してたらパンツが見えるだろうが。



「成瀬、とりあえず立て。」

「ヒロ〜どうしよう。入塾テストが何回やっても受からない。」

だろうな。


「夏休みも毎日ヒロと会えると思ったのに。めげそう〜シクシク。」

そんな不純な動機で塾に通おうとしてたのか。


「ねえヒロ。テストに受かったらデートしてくれる?」

「はあ?」

「それなら頑張れそうな気がする。」


知るかと言おうとしたのだが……

成瀬にまっすぐ見つめられると何も言えなくなった。


コイツなりに本気ではあるのだろう。

でもデートなんか受験生の俺にとっては時間がもったいないだけだ。


「ありがとうヒロっ私頑張るね!」

「えっ、ちょっ……」


OKとも何も言ってないのに成瀬は元気よくバイバーイと言って去って行った。



あいつ……

なんで俺に対してあんなにまっすぐなの?


アホなくせに───────









「受かった───!」


朝塾に行くと成瀬が俺のいるクラスに飛び込んできた。

もうお盆を過ぎて夏休みも終わりの頃だった。


たかが塾の入塾テスト……

希望の高校に受かったような喜びようである。


「これで毎日ヒロと一緒に勉強できるね。」

「それは無理だな。」


ここは成績によってSS、S、A、B、Cと5つのクラスに分かれている。

一番上が俺のいるSSクラス。

さらにその中でも成績順によって座る席が決まっている。

いやでも自分の今の順位がわかってしまう。

年に何回かある実力テストでその都度順位は変わる。

厳しい世界なのだ。


「すごいヒロ。この塾で一番頭良いの?」

俺は今までこの席を誰にも譲ったことはない。


「ちなみに俺が2位ね。すごいっしょ?」

隣りにいた三好が成瀬に話しかける。

「おまえ誰だよ?気安く話しかけんなっ。」

「ええっ?3年間成瀬さんと同じクラスなのにっ。」


成瀬は自分のクラスに席を確認しに行った。

「あっ、あたしの席Cで一番ベッタだった!」

すぐ俺に報告しにきた。だろうな。


「まあ頑張れ。」

「うん頑張る!」


始まりのベルが鳴り、成瀬はウキウキと言いながら自分のクラスに戻っていった。

あんなに楽しそうに勉強するやつも珍しい。



あっ、そう言えば受かったらデートする約束だったっけ……








────デート当日。夏休み最終日────



待ち合わせ場所に時間を過ぎても成瀬が来ない。


マジかあいつ……

俺もバカだよな。律儀にあんな一方的な約束守らなくてもいいのに。


帰ろうかと思って歩き出した足が止まる。


でも成瀬ずっと楽しみにしてたんだよな。

キャピキャピとか言って……

もしかして何かあったのかな?

いくらなんでも寝坊とかはないだろう。


「何かあったのか?高橋 寛人より。」

俺は以前教えられたメルアドに初めてメールしてみた。

すぐ返信がきた。


「ぎゃー!今起きた!5分で行くから待ってて!」


──────寝坊かよ。



キレそうになったのだが5分で来ると言うので待ってみた。

受験生の貴重な勉強時間をなんだと思ってるんだ。

一言文句を言ってからすぐ帰ろうと思ったのだが……

5分で来た成瀬の姿を見てビビった。


「ヒロごめん!昨日嬉し過ぎてなかなか寝付けなかったの。」

寝起きでそのまま来たのだろう……

髪はボサボサ、いつもの化粧はなし、Tシャツに短パン、サンダルといういでたちだった。


「おまえっ、なんちゅう格好してんの?!」

「だってヒロ帰っちゃうもん!」

成瀬はしきりに素っぴんの顔を隠してたが、隠すとこはそこか?

薄いTシャツの下に何も着てないっぽい……


目のやり場がないっ…非常に困るっ!



「着替えて来い!今すぐ!!」

「化粧もいい?」

「化粧はいらないだろっ!」


「待っててくれる?帰っちゃわない?」

「待っとくから早く行けって!」


ふぇ〜んっと言いながら成瀬はまた家に走っていった。



あいつアホだっホントにアホだっ!







30分後、髪の毛をいつものツインテールに結び、ミニスカートを着た成瀬がやってきた。


いつもの元気がない。

素っぴんなことでテンションがダダ下がりのようだ。


化粧を塗りたくった顔のどこがいいのだろうか。

だいたいまだ中学生なのだからする必要性がない。


「おい成瀬っ。」


下ばかり向いてこちらを見ようともしない成瀬の顔を両手で持ち上げた。

上目づかいの成瀬と目が合う……



──────か、可愛い……っ。



うっとうしいから上向けと言ってやるつもりだったのだが、間近で見た成瀬のすっぴんの可愛さに固まってしまった。

いつものケバケバしさが全然ない。

透明感のある、守ってあげたくなるような幼さの残るめっちゃ可愛い顔立ちだった。


「なっ……なにヒロ?」



ヤバいっ、はたから見たらこれって今からチュウしますって体制だ。

慌てて手を離す。


「……俺はそっちの方がいい…」


クソっ照れる。何を言ってるんだ俺は……

成瀬を見ると顔を真っ赤にしていた。

気まずい…めっちゃ気まずいぞ。



「とりあえず行くぞ。」

「ど、どこ行くの?カラオケ?ボーリング?」


「図書館。」

「え?図書館でどうやって遊ぶの?」


「勉強するんだ。」

「え────っ!!」


ぶーぶー言う成瀬をつれて図書館に来た。







「これ俺が中一の時に使ってた参考書。成瀬にやるからこれで勉強しろ。」

成瀬の顔がパッと明るくなる。


「くれるの?ヒロが使ってたのを?嬉しい!」

成瀬は参考書をひとつ手に取ってほおづりしだした。


「参考書は何個も買うよりひとつを何回もやり込んだ方が身に付くから頑張れよ。」

「うん。チビヒロ達のことじっくり隅々まで愛でるねっ。」

参考書に変な名前付けるのやめて欲しい……




「ねぇヒロは何色が好き?」

勉強に集中したいのに成瀬がどうでもいい質問をしてくる。

「……Cerulean Blue 。」


「えっ何?せるっせるり?発音良すぎてわからない。」

「セルリアンブルーだよ。おまえ質問するなら英語で言ってこい。日本語禁止な。」


「えええええっ!」

成瀬は英語の参考書と和英辞典を手に取りうんうん唸りだした。



「アイ…アイ キャン ノット……スピーク イングリッシュ。」

知ってるよ。

だから英語でしゃべれって言ったんだ。


「チェンジ プリーズ ノー アイ イングリッシュ グッド ベリー ジャパニーズ!」

文法もへったくれもあったもんじゃない。

身振り手振りで俺に日本語に戻してと訴えてきた。


「じゃあ日本語しゃべっていいよ。ただし古文な。」

「ワット?」


横で頭を抱えて悩みまくる成瀬になんか笑えてきた。

黙らせようと思って言ったんだが成瀬が気になって全然集中できそうにない。


「ヒロ……ちょっとトイレ行ってくる…」

「それを古文で。」

「えええっ!」


古文の参考書を焦りながらパラパラめくる成瀬。

ヤバいっコイツ素直すぎる。

もうトイレが我慢できないのかプルプルしてきてる。


「せっしゃ、かわやに行ってくるでござる!」


そう言って成瀬はトイレに猛ダッシュで入って行った。

まさかのサムライかよ……



あいつ……アホすぎて可愛いな。





結局勉強なんて全然できなかったけど、たまにはこんな一日もありだなって思った。



「俺、今日成瀬にメールしたから聞かせてくれる?」


別れ際に成瀬に聞いてみた。

以前なんで俺と付き合いたいのか聞いた時、成瀬はメールくれたら教えてあげると言っていたからだ。


「私が作った紙飛行機をゴミ箱に捨ててくれたからだよっ。」


なんじゃそりゃ?

成瀬は元気よくバイバーイと言って去って行った。




「わけわかんね〜。」


まあ成瀬らしいかって妙に納得した。





明日から二学期が始まる。







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