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子爵令嬢 ②




「シルキー、聞きたい事がある。」


珍しく慌てた様子で帰宅するとお父様は私を呼んだ。


「お前が、その、高貴な方に纏わり付いているとか、大変迷惑にされているとか何とか小耳挟んだのだが。」


高貴な方とはフェル様のことだよね。

私が嫌がるフェル様に纏わり付いてるって思われているの?

最近フェル様は公式な場でも必ず私に声をかけるようになったし、ダンスにも誘ってくれる。

毎回誰かに嫌味を言われるのはそのせいなんだ。

そうよね、、この国の王太子様でしかも幼い時からの婚約者もいて。

私なんてお呼びじゃない。

地方の貧乏子爵の娘で、どちらかと言えば貴族よりも平民寄りだし。

淑女には程遠いし。

フェル様の隣にいた婚約者さんとは全然違うもの。

でも私は纏わり付いてもいないし、迷惑だって思われてもいない。

フェル様は私を選んでくれたの。

私だけだって、側にいても良いんだって言ってくれたもの。

私の妄想で、夢なんじゃないかって思った事もあったけど。

だけど夢じゃなかった。

フェル様と私は相思相愛で、未来を誓い合った仲で、愛する旦那様になるの。

これは全部本当の事。

みんなはフェル様に愛されなかったから、文句のひとつも言いたくなるのよね、きっと。

その気持ちは良くわかるから、許してあげている。


「そんな噂を信じちゃダメだわ。纏わり付いても、迷惑をかけてもいないもの。」


良い機会だから、以前疑問に思った事をお父様にぶつけて見ようと思う。


「お父様、もし私がお嫁に行く事になったら困る?お婿さんじゃないと結婚は認めてくれない?」


お父様が認めてくれないと、フェル様と一緒にいられないかも知れない。


「お、良い人が見つかったのかい?」


「そうなの!優しくて、ステキな人がなの。、、、だけど長男でお家を継がなければいけなくて。お婿さんに来てもらえそうもないの。」


しょんぼりしていると、お父様は嬉しそうに笑った。


「家の事など気にする必要はない。私の代で爵位を返上するでも良いし、貧乏子爵を継ぎたい血縁がいれば譲るのも構わない。お前は自分の幸せを考えなさい。ーーそれで、お相手は?」


嬉しい!

これで迷う必要も無くなったし、お父様も認めてくれたし、フェル様と一緒にいられるわ。

お父様に爵位を返上させるなんて少し悪い気もすれけど、仕方ないわよね。

私とフェル様の幸せの為ですもの。


「もう少ししたらね、紹介出来ると思うの。だからもう少し待っていてね。」


……でもフェル様には婚約者がいる。そうしたら私はどういう扱いになるのかな。

第2夫人、側室、、愛人。

どう頑張ってもあの婚約者さんには敵いそうもないけど、出来たら、、、妻と名乗りたい。




「側室?何故そう言う事になるんだ。私が愛しているのはシルキーだけ。ミアは妹みたいなものなんだ。家族みたいなものだよ。あなたに会うまではミアとでも構わなかったのだけどね。愛を知ってしまったから。ミアを妻にする事は出来ない。」


こっそりと会った夜会でフェル様に聞いてみた。

私は愛人になるのかどうか。

そうしたら妻にしてくれるって!

嬉しい。

でも婚約者さんはどうなるの?


「ミアの事は心配ないよ。私との婚約が破談になっても彼女は引く手数多だろう。それにミアにも愛する人が出来るかも知れないしね。」


「そうですよね。婚約破棄なんて良くある事だし、テレミア様にも幸せになって欲しいですね。」


「シルキーはなんて優しいのだ。ミアの事まで気にかけてくれて。こんなに素晴らしい人を伴侶にするのだ、皆喜んでくれるだろう。」


すごく、すごく幸せだ。

好きな人と結婚できて、みんなに祝福されて。

でも舞い上がりすぎてて考えもしなかった。

私が知ってる婚約破棄は平民達の良くある日常で、好き嫌いでなんとでもなる薄っぺらいものだった。

貴族の、それも王族と結ぶ婚約が平民のそれと同じ訳がない。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎



「お父様!助けに来てくれたの?もうここは嫌なの。どうしてこんな所にいなきゃいけないの?悪い事なんて何もしてないのに!」


フェル様は婚約破棄を宣言したらしい夜会から体調を崩したとかで、姿が見えない日々が続いていた。

アールデン侯爵令嬢との婚約破棄はものすごいスキャンダルだったらしくて、どこに行ってもその話題で持ちきりだった。

あんな風に宣言されて気の毒だとか、嫁の行き手もないだろうとか、王家に切られるぐらいの欠陥があっただとか、それは色々で。

何でこんなに酷い噂になってるのかわからなかった。

たかが婚約破棄、次の人を探せば良いだけじゃない。

何が問題なの?

そんな中、私がフェル様と親しくしてたからそのせいじゃないかと言われ始めて、お父様に外出禁止を言い渡された。


「お前のせいではないかも知れないが、ここまで噂になってしまったら好いている人とはもうダメかもしれない。」


そんな!

私と結婚する為に頑張ってくれたのに、そのせいでダメになっちゃうなんて信じられない。

フェル様に何としてでも連絡を取らないと。

でもどうしたら?

考えて考えた。

で、侍女の従姉妹が王城で働いているのを知って、お願いしたの。手紙を届けてもらえるように。

そうしたら上手くいったみたい。

しばらくしたら突然フェル様が来て、連れ出してくれた。

離宮でお茶会をしているお母様に挨拶に行こうって。

話に聞いていた通り離宮はとってもステキな所だった。

庭をふたりで歩いてて、そうしたらミア様がいたの。

フェル様はすごく怒って、何かをミア様に言って、そしたら、そしたら、、、ミア様がいなくなった。

フェル様は気にする事はないって言っていたから、大丈夫だったのよねぇ?

それからお茶をして、王妃様が来て、そしたらここに連れてこられた。

薄暗くて窓がなくて、家具もベットと小さなテーブルと椅子。扉は厳重に鍵がかけられて、出る事は出来ないの。

三食食事は出るけれど、それだけ。

他は誰も来ないし、話してもくれない。


「シルキー、お前は何てことをしてくれたんだ!」


パシッと頰が鳴った。

続いて感じる痛みで打たれたことを理解した。

久しぶりに会ったお父様はとても怒っていた。

今までこんな怒りをぶつけられた事もなくて、打たれた事も一度もない。


「ど、どうして……」


ジンジンし始めた頰に触ると、少し熱を持っていた。


「王太子殿下に付き纏ったりしていない言ったではないか!それがどうして、離宮になど行ったんだ。何故アールデン侯爵令嬢を害した!!」


お父様の言葉にキョトンとして、クスクスと笑ってしまった。

お父様ったら誤解しているのね。


「やだ、お父様ったら。私フェル様に付き纏ったりなんてしてないわ。フェル様がね、私と結婚したいって言ってくれたのよ?だから離宮へお母様にご挨拶に行こうって誘われたの。アールデン侯爵令嬢って、、、ああテレミア様ね!元婚約者さんだわ。ミア様は悪い事をしたから罰を受けたのですって。フェル様が言ってた。でも大丈夫だから、心配ないって。」


お父様はワナワナと震えていた。

震えるほど嬉しいのかしら。

そうよね、フェル様と結婚するんだもの。


「フェルナンド王太子殿下には既に婚約した方がいらした。それは知っていたのだな?」


少し考えて首を横に振った。


「最初はフェル様が王太子様だなんて知らなかったの。音楽会で初めて会って、それから夜会とかで何度もお話しして、そうしたらフェル様から結婚して欲しいって。その後に王太子様だってわかって、婚約者さんもいるってわかったのよ?婚約は破棄するから何の問題もないって言ってくれたし、お父様だってお嫁に行っても良いって言ってくれたでしょ?私、すごくすごーく嬉しくて。お父様も幸せになれって言ってくたのに。」


あの日の事を思い出すと嬉しくなる。

私の1番幸せな日。


「アレは!身の丈にあった伴侶に見初められたと思っていたんだ。ーーああ、やはりお前には無理だったんだ、連れてくるのではなかった。」


私とは反対にお父様は項垂れた。

どうしてそんな事言うの?

王都に来ていなかったらフェル様に出会えなかったじゃない。


「平民でもなんでも良い、お前を結婚させていたら。こんな事にはならなかったのか?」


「やだ、お父様。そんな事したらフェル様と結婚できないじゃない。だからこれで良かったの。」


お父様は落ちそうな程大きく目を見開いて、まるで知らない誰かを見るみたいに私を見た。


「本当に、本当に何もわかっていないのか。婚約者のいる者に言い寄った、殿下に婚約破棄を仄めかした、王命を無視した、許可なく離宮に入り、アールデン侯爵令嬢を助けなかった。全て罰せられても仕方がない事だ!」


「おかしいもの。私、言い寄っていないし、婚約破棄を仄めかした事もない。離宮にはフェル様が入って良いっていったのよ?それにテレミア様がどうなったのか、私知らない。テレミア様も私と同じような所に押し込められているの?」


お父様は何度も何度も私が罪深い事をしたって言うんだけど、私そんな事してないもの。

ただ運命に会っただけ。

愛する人と幸せになろうとしただけ。

その相手が王太子様だっただけ。

それだけなのよ?


「王家と侯爵家で結ばれた婚約は契約と同じ。それを多勢の前で勝手に破棄したと聞いている。婚約を結ばれて10年。御令嬢の事を考えなかったのか。」


「だって、フェル様はミア様の事は妹のようなものだって。ミア様も愛を見つければ良いと言ってた。婚約破棄なんて、よくある話だったじゃない。」


「シルキー、高位の方々を名前で呼ぶことは不敬にあたる。王太子殿下にアールデン侯爵令嬢と呼ばなければいけない。それさえもわかっていないのか?」


「だってフェル様はそれで良いって。アールデン侯爵令嬢なんて長くて舌を噛みそうだし、ミア様で良いじゃない?」


呆れたような蔑んだようなそんな眼差しだった。

いつだって暖かく見守ってくれていたお父様はどこにもいなかった。


「私の、所業でもあるのだな。仕事にかまけてこんなに世間知らずの、愚かな娘に育ててしまった。世間に顔向け出来ない。」


「どうして?私はフェル様と結婚するの。そうしたらお父様はフェル様の義理のお父様だわ?偉くなるのよ。誰からも馬鹿になんてされないわ。」


本当に変なお父様だわ。

みんな、みんなで幸せになるの。


「王太子妃に、王妃になりたかったのか?」


「違うわよ?フェルのお嫁さんになりたいの。フェルと結婚してそう言う肩書きがついて来たら、仕方ないから頑張るつもり。」


お父様は深く、深く息を吐いて、遠くを見つめた。


「陛下から御言葉を賜った。それに伴い子爵位は男爵位へ格下げされ、私は職を辞し、野に降る。お前はトロガ男爵夫人として、カントに封じられる事になった。役割を忘れなければ、好きな男と好きなだけ戯れられる。しかし、子を育むことは出来ないと心得よ。そして2人だけの世界で生きていけ。」


そう言い捨てて部屋を出て行ってしまった。

ガチャリと拒絶するよう鍵が鳴る。


「待って!!お父様!男爵夫人って何?だって私は王太子妃になるのよ!それに、それに、子が出来ないって、なんで?どうして?全然わからないよ!もっとちゃんと説明して!!」


どんなに叫んでも、お父様は戻って来なかった。















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