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王太子殿下 ①



『真実の愛にめぐり逢った。心から愛する人がいるのに、おまえと並び立つ事は出来ない。故に、今を持っておまえとの婚約を破棄する。』





私は歓喜していた。

初めて感じる浮き立つ心。

とても大切で愛しいと言う気持ち。

今まで見ていた景色も違う物に見えくる。

そう、彼女に出会ったからだ。

彼女ーーーシルキーに出会って、恋をして、愛を知った。

優しい心遣い、労わる言葉、クルクルと変わる表情が疲弊した私を癒してくれる。

彼女といると見るもの全て輝いて見えた。

だから彼女と一緒にいる事が正しい事だと思ったのだ。

私が幸せならば、周りも幸せなのだと。

ただひとつ影を落としたのは、昔に定められた婚約者の存在だった。

小さな頃から私の後ろをついて歩いていた妹みたいな存在だ。

母上のお気に入りで、宰相の娘。

側近の妹でもある。

少しつり上がった薄紫の瞳できつい印象を与えてしまうが、聡明で優しい一面を持っている。

誰もが認める私の婚約者、テレミア アールデン侯爵令嬢。

シルキーと出会うまで何の疑問も持たずに、結婚して一緒にこの国を支えて行く人だと思っていた。

だが、愛する人が出来てそれは間違いだと感じた。

私はシルキーと一緒に国の為に尽力して行きたい、そうでなければ皆も幸せになれない。

テレミアも愛する男と出会った時に私と言う存在が邪魔になるはずだ。

そう考えて私から婚約破棄を口にした。

知らない男にエスコートされているテレミアを見て、ちょうど良いと機会だと行動を起こした。

皆の前で宣言すれば私と婚約関係ではなくなったと手っ取り早く知らしめる事が出来るし、テレミアにも出会いのチャンスが増え、一石二鳥の良い案だと思えた。

婚約破棄を宣言した後も、テレミアは取り乱すこと無く、それを淡々と受け止めて去っていった。

その姿は美しく、気高かった。

取りすがって泣いて欲しかったわけでも、怒りを露わに詰め寄られるのを期待していたわけでもなかったがあまりにもあっけなく終わってしまい、テレミアもそれほど私を想っていなかったのだと安堵した。

私が、愛する人の手を取れると知ったら、父上も母上も喜んでくれる。

これからシルキーとふたりで歩む未来が煌々と輝いて見えた。




「お前は、何をしたのだ。」


直ぐに別室に誘導されて対峙したのは父上だった。

母上は夜会に参加して騒動を収めているという。


「ああ、父上はいなかったですね。私は愛する人と出会いましたのでテレミアとは結婚できません。ですから婚約を破棄したのです。今度父上もあって下さい!シルキーはとても可愛らしくて、素敵な女性なんですよ。」


好きな人を親に紹介する。

なんて素晴らしく、晴れがましいのだろう。


「王が決めた婚約をどう考えているのだ。これは好き嫌いの問題ではない。家と家との契約であって、お前が勝手にどうこう出来るものではないのだ!……それをあのような場所で、王の名を使った。お前はいつから王になった?『王の意向』だと!私は考えた事もないがな。」


父上から出る威圧感を直に受けて息を飲んだ。

今まで向けられたことのない怒りにも似た蔑み。

どうしてなのだ?

どうして父上は喜んではくれないのだ。


「婚姻は契約。それを立場を使っての一方的な破棄だ。今後どれだけの弊害が出るのか予測も出来ない。下手をすれば政もままならなくなるかもしれない。」


「何故ですか?王が本当の幸せを掴んでこそ、国は豊かになるのです。治める者が幸せで無くて誰が幸せになれるのです。」


マジマジと冷めた目で見られ、疲れた様子で深く椅子にもたれかかる。こんな父上を初めてみた。


「自分の息子に呆れて物が言えないとは。」


はは、、と空笑いが聞こえ、しばらくの沈黙の後


「貴様は王をなんと心得る。」


追って鋭い言葉で問いかけられる。


「王とは、ですか。国を治めるもの、豊かにするもの、高みにあるもの、、」


「王とは国の下僕だ。国の為には心も捨てる。不自由なく暮らせるのも国を、民を1番に置き、身をささげるからだと心得よ。それが出来てこそ、お前が考える王でいられるいうのに。」


父上がそのように考えていたとは。

国の下僕。

彼女と共にならばそれも出来る。


「貴様は私に、王に傷をつけた。その傷は小さくとも深くて処置が難しい。軽く済むか、ドバドバと血をを流すか、それとも膿んでしまうか、最初の一手で決まる………まず貴様は謹慎だ。我が良いと言うまで部屋を出る事も、連絡を取る事も禁じる。部屋の前には2人監視を置け。無理に出るようならば、力で押さえつけ構わない。ーーーー連れて行け。」


後ろに控えた白の騎士に両脇を固められる。


「何故!?何故なのですか!私は王太子で、あなたの息子ではないですか。何故喜んではくれないのです!私とシルキーで血を繋いでいかなければ血筋は途絶えてしまうのですよ?謹慎なんて!!シルキーにも会えない!!」


抵抗しようとも力強く抱えられ、儘ならなかった。

どうしてなのか、父上の仕打ちがわからない。

父上は眉間に皺を寄せ、引きずられるように部屋をでる私を見て呟いた。


「自分が唯一と思うなど、滑稽な。」


投げられた言葉を理解する事は出来なかった。




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎




あれから自室を出る事が出来なくなった。

なんの不自由もないが、シルキーに手紙を送る事も出来ないし、部屋の前には騎士がいて外に出られない。

父上の話も良く分からなかった。

どうして自分は幸せになってはいけないのか。

父上だって母上と相思相愛で、私の他に子が出来なくても側室を娶らないじゃないか。

それなのに私にだけ政略を押し付けるのはどうなんだ。

私だって相手を選んで良いはずだ。


ああ、それよりもシルキー。

彼女は元気だろうか。

私といる事で周りから圧力もあるだろう。

魅力的すぎて他の男に取られはしないだろうか。

心配で心配でたまらない。

どうにかして連絡を取りたい。

シルキーに会えない事がこんなにも辛いとは。

彼女の声を聞きたい。

彼女を抱きしめたい。

彼女の唇に触れたい。

何もかもが恋しい。


そんなストレスが溜まる毎日に嫌気がさした頃、枕の下に手紙が隠されている事に気がついた。

毎日、交換に訪れる下女がチラチラと視線を送っていたから。

手紙はシルキーからだった。

世間には私は体調不良で寝込んでいると噂が回っているらしい。体の具合はどうか、心配でたまらないなど私を気遣う言葉が並んでいた。

シルキー自身も身動きが取れず、家に軟禁状態だと。

なんて事だ!

彼女にまで害が及んでいるとは。

彼女にさえ会ってくれたら、私に相応しい女性だとわかってもらえるのに。

思わず爪を噛んでしまう。

幼い頃からの癖でこうすると良い考えが浮かぶ気がする。

無意識にやってしまって、よくテレミアに止められた。王にはふさわしくない動作だと。

けれどシルキーは違う。

これはこれで私の個性なのだと、無理に止める必要は無いのだと言ってくれたんだ。

私を『私』として受け止めてくれる。

そんな気がしてとても嬉しかった。


部屋に閉じ込められてから父上も母上も会いには来ない。

側近さえ近づかない。

だから外の様子がさっぱりわからない。

今はどう言う状況なのか。

私とシルキーの事を皆にどれ位祝福してもらえているのか。

誰でも良いからに教えて欲しい。

手引きをしてくれる者がいないか考えなければならない。



その日、食事を運んで来たのは幼い頃に身の回りの世話をしてくれていた侍女だった。

見知らぬ侍女よりは気安く、昔の話からふと母上の話になった。

どうやら離宮で茶会を開くらしく、その準備で人が手薄な事や第1師団が警護に着くらしく慌ただしくなっているなどペラペラと話をして戻っていった。

私がこんな状態なのに茶会とは。

シルキーを参加させるのか?

私がいない所で姦しい者どもの餌食にするつもりなのか。

悶々と考える。

そうだ!その茶会に私がエスコートをして母上に紹介すれば良いのだ。そうすれば母上も私の味方になってくれるだろう。

手っ取り早く合わせてしまえば、丸く収まる。

茶会に参加さえ出来れば。

宮中はばたついていると言うし、部屋から抜け出せれば後はどうとでもなる。

城下に出る抜け道も知っているし、シルキーを連れ出せたらそれで全てが上手く行くのだ。


そうして私はやってのけた。

私が本気になれば出来ない事など何もない。

シルキーを助け出し、離宮を目指す。

ガタガタと随分とけたたましく音を立て揺れも酷いが、平民が使う馬車ならば仕方がない。

自分の馬車を使えかったから、シルキーには我慢を強いてしまい申し訳なく思う。

わたしの伴侶にして、王太子妃であり後の王妃になる女性なのに。

そして心苦しく思う中、離宮にたどり着いたが門前で止められてしまった。

平民が使う馬車だから仕方ないだろう、

私が出るしかない。


誰であっても今はここを倒す事は出来ない、と騎士団長がしつこく立ち塞がる。

こいつらは何を言っているのだ。

私はこの国の王太子で次期国王なんだぞ!

それをこの筋肉馬鹿どもは理解していない。

フツフツと怒りが込み上げてくる。

気持ちが高ぶってしまい思わす腰に刺していた剣を抜いてしまった。

私に刃向かうと言うことは王に、国に仇なす事。

その上でもまだ御託を並べるならば考えがある。

私が剣を抜いた途端に騎士団長が瞠目し、そして道を開けた。

硬く閉ざされた門が開かれる。

王太子に楯突く事がいかに愚かな事か奴らにも理解出来ただろう。

馬車が離宮の馬車留めに止まり、扉が開いた。

先に降りてシルキーに手を差し出し優雅にエスコートをする。


「フェル様!とても素敵な所ですね。私、初めて入りました。」


「ここに招待された事はないのか?」


シルキーは恥ずかしそうに俯いて、体をモジモジと揺らした。


「うちは子爵ですから!格がちがうので招待されるはずないんですよ?お庭が素晴らしいのでしょ?噂で聞いて一度見て見たかったんです。」


招待された事のない家があるのかと、内心驚いた。

高貴な家系には分け隔てなく接して行く義務が王家にはあるのではないのか?


「では先ず庭を案内しよう。少し行くと湖もある。暑い時など舟遊びも出来るんだ。」


庭園に出る近道を選び、シルキーの歩調に合わせてゆったりと進む。

景色を楽しんで進むシルキーの夢見る笑顔に癒される。

これからはふたりで同じ道を歩むんのだ。

嬉しい事も、悲しい事も全てをふたりで分かち合って。

そう実感すると足取りまで軽くなる。

そして湖が近づいた頃にはとても良い匂いが辺りを包んでいた。


「まぁ、なんかとても良い匂いです!」


クンクンと匂いを探る仕草が可愛らしい。

この茂みの奥に香る花が咲いていたのを思い出した。

昔もこんな事があった気がするのだか、隣にいたのは誰だったろうか。


「この奥の花ではないかな?行ってみるかい?」


「はい!」


嬉しいそうに笑うシルキーと進む先には明るい未来が待っているとそう思えた。
























連休明けに驚いてます。

日間ランキング2位?

びっくりです。

読んで頂いた皆様ありがとうございました。


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