転校生とその正体
姫先輩との一件はこれにて終わり。
今日は忙しい。たかしとの約束通り、この学校の3年に転入してきた女の子をみにいくのだ。
「おう、用事は済んだみたいだな。行くぞ。」
階段の隅で僕を待っていたたかしと合流し、三年の教室へ向かう。
階段を下ったところで三年の教室が見えてくるわけだが、なるほど、どうして混み合っている。
原因は…。例の転校生らしい。
しかしながら、転校生の一人くらいでここまでごったがえすのも不思議な話だ。
かく言う自分もその中の一人なのだが、転校生の詳細は全くもって知らない。
たかしは何かしら知っていそうなものではあるが、この人混みの先にいる人物をこの目で見たほうがわかることも多いだろう。
「ともは見えるか?」たかしが確認する。たかしは背が高いから、どうやら人混みの先にいる転校生の様子が見えているようだ。
昼休みも終わりに近づき、人も疎らになりつつある。順番待ちをしているわけでは無いけれど、
少なくとも目的は達成できそうである。
そう思っているあたり、最初は乗り気じゃなかった僕もかなりのせられてしまっていると感じる。
背の高いたかしならいざ知らず、背の低い僕が目標を捕捉するにはもはや人混みをかき分けて行くしかないのではあるが、
ここは最上級生のクラスである。無理やりの行動は肯定できない。
しかし、昼休みというタイムリミットもある。
「これは無理に行かないと見れないな。おい、とも。行け」
たかしは自分を後ろから前の人の隙間を縫うように押し込んだ。
視界が一気に制服色に染まり、そして次の瞬間光が射した。
押し込まれた反動で目標の机ごと僕は投げ出される。
その拍子に、あろうことか僕はその時会話していた人たちの間に躍り出てしまった。
目に飛び込んできたのは金色の髪。一瞬その綺麗さに心奪われそうになったが、状況が悪い。
やばい。ドクが嘲笑っている気がした。僕が状況打開のため慌てふためいたのが見えたのか彼女は流暢な日本語で僕に話しかけた。
「あなたのお名前は?」
「と…とも」
もはや頭は働かない。ドクからは「名前を聞き返せよ」なんて声も聞こえたがそれどころではない。
あいてからの質問に答えるので。精一杯だ。
次の質問を待ち構えていると…彼女はさらに混乱させることを僕に投げかけた。
「あー、あなたが私のお兄ちゃんですね!」
中3の教室にいる彼女にそんな言葉を投げかけられた中2の僕は、さらに頭の中が沸騰し、オーバーヒートを起こしたように思考を止めた。
それと同時に昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響いたのを聞いた。なんとも幸運である。