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死んだ者は生き返らない

忘れもしない。


あの日の交通事故は僕の…そして僕の家族の人生を大きく狂わせてしまった。


死者3名。重体1名。重傷者2名。


後部座席に乗っていた僕は事故当時のことははっきりとは覚えていないけれど


おそらく事故なんてものはなんらかの原因が双方に存在するから発生するのだと個人的には考える。


その事故は母さんの命と兄さんの人生、そして相手の側の家族全ての命を奪った。


これまでの生活は一転し、 僕はこの事故を恨んだ。


行き場の無い怒りや悲しみの中で命が助かったことの安堵と懺悔とが混ざり合い


僕は人の命というものを、人生というものを考える機会を得たのだった。


人は死んだら生き返らない。


そんな漫画でもよく見る当たり前に絶望と共に現実を与えられたことになる。


しかし目の前に絶望や現実をものともしないそんな男がここにいた。


父もまたあの事故でおかしくなってしなったのかもしれない。


正直なところ、この男の背中を見ながらいつも言いようのない気持ち悪さと不謹慎さを僕自身は感じているわけだが、


それでも家族であり、父であることは変わりがなく、家族を失ったという心の傷がそんな父であっても繋ぎとめようと必死になっているのを感じている。そんな自分に嫌気がさす事も常だけれど。


父は電子機器等により死後世界との交信を試みる死後意識存続研究。(Instrumental Transcommunication、略 ITC)の第一人者である。


この研究自体は1901年ごろから研究が進められているらしい。


父は研究を進める上で多くのことを僕に語っている。


「いいか、確かに死んだ者は生き返ることはない。だが、『死』の定義を変えることでまったく新しい人の『生』を生み出すことができる。今ある死の議論を根底から覆すことができる。」


「もしもこの世に死後も影響を与えることが叶ったならば、死は不幸でも苦しみでも絶望でもなく、救済でも逃げでも責任の取り方でも希望ですらもなくなるのだ」


「さらに言ってしまえば、人を殺すことの意味が全くもってなくなるだろう。死人に口あり。真相は光の中だ。ありとあらゆる失敗が取り返しがつき、尊厳もまたその価値を失うことになる。」


とこんな具合だ。その凄さについては理解はできるが、それを成そうという強い意志については全くもって共感できない。


おそらくそれは現実と戦っている大人と、現実を享受することで手一杯な子供との大きな差なのかもしれない。


僕にとっては家族の崩壊という現実を受け止めるので精一杯だ。


現実と戦う余裕なんてない。そもそもそんな余裕があるのならそれこそが死者への冒涜だと思ってしまうのが僕だ。この事故はそんなに軽いものではないはずなのだ。なのに…。

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