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梅雨~夜

 昼間の快晴が嘘のように、夕食が終わった頃に雨はまた激しく降り始めた。それでも小春さんは縁側で何時ものように佇み、厚い雲に覆われた空を眺めたり、緑茶を飲んだりしている。

 本当に、いつもあそこで何見てんだろうな。


「小春さん」

「夏輝から話しかけてくるなんて珍しいわね。どうしたの?」

「いつもそこにいるけど、何見てるんですか?」

「……景色、かしら?」

「いや聞かれても」

「夏輝も女の子に興味が出てきたのね、お姉さん嬉しいわよ」

「ちゃうわい」


 やっぱりこの人は俺の反応を見て楽しんでやがる。

 そりゃ小春さんほど…………死んでるけど長生きしてりゃ、人生経験的には豊富だろうよ。そんだけ人間としての厚みも出てくるだろうし、濃度が何より違う。

 でもそれが俺をからかって言い理由になるかと言うと、そうではない。要するに何が言いたいかと言うと、小春さんたち悪いな。


「でも見えてるものに意味なんて、あんまり無かったりもするのよ」

「と言うと?」

「人間なんて死んで何百年自我を保ち続けても、見えてくるものなんてたかが知れてる。多少は相手の心の中が見えたりもするけど、見えるものなんかに大した意味はないの。本当に大切なものが無くなるまで何か気づけないのと同じね」


 確かに小春さんの言うことはよく分かる、何よりここ数年で実感した事の一つだ。

 でも俺は目に写る物も、写らないものも、どちらも中途半端にしか見えない、特別見えるものは小春さんだけだし誰にでも見える物は少しモヤみたいなのがかかってるし。

 こんな時、気軽に弱音を聞かせれる人がいたらどんなんだろうな。


「夏輝も早くお酒の飲める年に成らないかしらね」

「俺が成人してもいるつもりですか」

「まぁ、少なくとも今のままじゃ消えれそうにもないわ」

「そりゃ探しもん見つかんないどころか、その気配すら無いですもんね」

「……まぁね」


 この人は直ぐこうやって意味ありげな間を取る、それもなんかのテクニックなのか疑うぞ。


「ところで昼に来た女の子、名前は秋山さんだったかしら」

「それがどうかしたんですか?」

「あんな簡単に許しちゃってよかったの?」


 そう言って小春さんは湯飲みを片手に、俺と机を挟んで正面に座った。相変わらず真っ直ぐ澄んだ目で、俺を透かすように見つめてくる。これには妙な威圧感が多過ぎで、照れるよりも少しの恐怖と畏怖の念を抱かされる。

 多分この人は生まれついで見た目や頭の良し悪し、後は対人関係の上手さ、いろんな物を身に付けれる人だったんだと思う。だから自分の抱かせたい印象を抱かせるのも出来るはず、全部仮定でだけど、もしそれが本当なら今の俺には怖がってもらいたいわけだ。ならここは怖くても怖くないふりをすべきだ。


「元々怒ってませんから許すもなにもないですよ」

「何も許すってのは怒ってる時だけの話じゃないのよ。たとえば容赦的な意味合いなんてどうかしら?」

「人が自分守るのは当然ですから、許すも赦すも無いです」

「……はぁ、私の前では強がらなくてもいいのよ」


 やっぱりか、やっぱりお見通しですか。俺が無理矢理怖いのを押さえてるのも。

 でも弱音の吐き方は知らない、親は毎日忙しく働いて見るからに疲れてたからこれ以上要らぬ心配は掛けられなかったし、学校に信頼できる友人なんて一人も居ないし教師はいまいち信じられなかった。だからいつも俺は一人で解決してきた。

 学校の定期テストから入試、クラスメートからの嫌がらせや三十九度越えの病気も一人で何とかしてきた。弱音なんて吐いてる暇があるなら少しでも休まないと、子どもの俺には堪えきれないから、だから弱音は吐けなかったし吐かなかった。

 そんな堪えることとは旧知の仲な俺も、さすがに親の死と居場所の喪失のダブルパンチには堪えきれなかった、要するに俺はその時自分の耐久度の限界を見たのだ。案外、脆かったな。


「一日の終わりよ、夏輝はただでさえ溜め込む道を歩んだんだから何処かでまたパンクするかもしれないわよ」

「……その時は、お願いしてもいいですか?」

「その時まで私が消えてなければね」

「消えるつもりなんてない癖に」


 フフッと微笑むと、彼女は彼女の寝室に消えた。亡霊の癖に寝るし食うしで風呂はいるしでかなり不思議な人だと思う、普通の亡霊がどんなかは知らんけど。

 テレビにもゲームにも使われないモニターは依然真っ暗で、ホラー映画じゃこれが急に砂嵐の画面になるんだよな。現実と非現実の中途半端な真実にいきる俺には、もしかするともしかするのではないかと思えて仕方なかった。

 しかしそんなことがあるわけもなく、高校を休学しても続けるべきだと思う日課の勉強をして世はふけていった。

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