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真夏~昼

 くそ暑い夏の真昼。機嫌を最高に悪くしてる金髪さんと、俺の言葉に戸惑いを隠せない秋山さんが軒先にいた。


「人は本当に嫌いな人の事なんて恨みすらしません。本当に嫌いな人には嫌いなんて感情すら持ちませんから、むしろなに言われても無視できますよ」

「今出来てねぇだろ」

「星月さんは無視が無反応だけと思ってるんですかね」

「どういう意味だ」

「そんなんも分からないから俺は星月さんたちを眼中にもいれてないんですよ。わかったら帰ってください」


 横から飛んでくる星月さんの平手打ちをかわし、バケツと柄杓を回収して俺は家に戻った。

 学校で話し相手がいないから俺に相談持ちかけるようなやつが、もし友人を失えばそれなりにダメージを受けるだろう。それこそ彼女の青春は淡い青から無色透明に成り果てるほど。

 その点、俺は既に無色透明。つねに誰にも認識されず期待せず希望を持たず甘い話には乗らない。誰も俺が青春してるとは言わないだろうが、そんなのはどうでもいい。青春とは恋愛と同じ、勘違いでしかないのだから。

 わざわざ勘違いしに行って黒歴史作る必要もないだろ。


 リビングに戻ると珍しく小春さんは縁側にはおらず、庭で何かを考えていた。


「どうかしたんですか?」

「この庭殺風景だから、何か植えようと思って」

「ちなみに聞きますけど手入れするのは誰ですか?」

「夏輝」


 知ってた。


「この生け垣にアサガオでも植えてみない?」

「……来年の五月くらいに覚えてたらやりましょう」

「じゃあこれも約束よ」

「はいはい」


 満足げな足取りで縁側のいつもの場所に座ると、俺にお茶を要求してきた。わざわざ逆らうこともない、淹れてこよう。

 あっ、タオル回収してない。まぁいいか、どうせ今ごろ捨てられてるに違いない。気にしない気にしない。


「入れてきましたよ」

「そう、ありがとう」

「……どういたしまして」

「全部聞いてたわよ、貴方たちもまだまだ子どもね」

「そんな急には大人になれませんよ」


 机に頬杖をつき扇風機をこちらに向ける。

 秋山さんは誤解を解きに来たといっていた、俺はそれが気にくわないのだ。確かに秋山さんは、関わった人間の中じゃ一番真実に近いものを知ってる、でもそれは俺の真実ではない。

 誤解を解きに来たと言うことは別に新しい解を考え出したと言うことだ。


 俺には俺なりの解がある、秋山さんに悪役を押し付けられ当時の自分じゃ否定できなかった、ようするに俺は負けたのだ。俺が生きてきて経験した中で身につけた考え方で捻り出した解を、誰かに否定されても、自分だけは否定するつもりはない。

 他人の考え方で作られた解なんて、一人の俺には関係ない話だ。俺は俺のためにだけ俺を肯定する、じゃないと誰も俺を肯定してくれなくなるから。


「俺は間違ってない」


 例え間違っていても間違ってない。だから彼女いわくの誤解以外の解は不正解だ。

 時計を見ると昼の二時を回っていた。一日の暑さもピークに達して扇風機だけじゃ間に合わない、しかしエアコンをつけようにも、窓を閉めさせてもらえない。暑いな、夏は暑いな。


「夏輝」

「何ですか? 嫌みなら聞きませんよ、また後にしてください」

「あの子はいつまで玄関先で立ってるつもりなのかしら?」

「知りません、立たしとけばいいんじゃないですか?」

「気分悪そうよ、熱中症とか危ないんと思うわ」

「……はぁ」


 渋々立ち上がり、玄関に向かう。確かに家の前で倒れられるのは迷惑だしな、仕方ない。

 玄関を開けると、額に玉のような汗をかきどこを見てるのか分からない目をした秋山さんが、小春さんに言われた通り立っていた。


「何してんですか?」

「……あっ、水瀬……君」

「ちょっ!」


 真っ青な顔をしている、そんな秋山さんは糸が切れたように前のめりに倒れた。間一髪支えることが出来たが、でもやっぱ気絶した人間は重いぞ。

 これ、送り届けないと行けないパターンかな。家に気絶した女の子がいるところを千秋さんに見つかったら何て言われるかわかったもんじゃないしな、行くか。


 秋山さんの首に保冷剤を包んだタオルを巻いて俺は、炎天下の中彼女をおぶり商店街に向けて歩き始めた。

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