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プロローグなんてしないっ! Ⅱ

 俺は中谷 幹。中学三年生である。

 見た目は昔っから女っぽいと言われ生きている。学力低。運動神経低。趣味・魚を観賞する事。のごく普通な中学生だ。

 こんな平凡な俺にも、大事な友人がいる。

 春堂(しゅんどう) 一斗(いちと)

 夏木(なつき) 双月(ふたつき)

 秋風(あきかぜ) (ながる)

 冬海(ふゆうみ) 蓮司(れんじ)

 希咲(きざき) 愛喜(あいき)

 この五人は人生で、もっとも大切な人達である。


 俺らは中学三年。受験の年である。

 皆志望校を決めていた。皆同じ高校にした。

 その高校は元々女子高で、俺らの年から共学になる所だ。

 何でも、女子のレベルが高く、男子の倍率はかなり高いらしい。

 それでも、五人の頭は良いので模試の結果で、皆A判定を取っていた。

 俺は遊び過ぎて、真面目に勉強していなかったのが仇となり、模試判定はDだった。

 

 最初は諦めていたが、五人と同じ高校に行きたいという理由のみで頑張って勉強した。初詣の時期には合格判定がCに上がった。

 だが、それでも俺は満足がいかなかった。

 初詣にて俺はお願いをした。

 

 (必ず……皆と同じ高校に行けます様に……行けるのなら、何だって差し上げます……)と。

 

 我ながら早計だと思った。

 最初は神など信じていなかったから、何でも差し上げるとか言えたのだ。


 ついに試験日となり、俺は奮闘した。

 我ながら、今までで一番良い点数を叩き出したと思っていた。

 だが、その後の答え合わせで、俺は親友五人の会話についていけなかった……。

 結局、俺は滑り止めでレベルの低い高校の試験も受けた。

 結果はこちらのほうが早く、受かった。

 だが、まだ友人達と行く高校の合格発表が提示されるまでは諦めなかった。


 そして、迎える合格発表。

 俺らは全員受かっていた。

 皆で、喜びを分かち合い、俺は涙さえ流した。


 この物語は誰もが共感できるであろう所から、ひっくり返して提供いたします。




 「受かってよかったな! 幹!!」

 「ありがとう……」

 「泣くなよ」

 「だって……ぐすん」

 「これからも一緒にいられるっていうのは嬉しいもんだね!」

 「うんうん」

 

 皆が俺を慰めて(?)くれた。

 帰り道の途中である。

 この日は雪が降っていて足場が悪かった。

 白銀の世界はまるで俺を祝福してくれてるみたいで嬉しかった。

 

 「じゃあ、学校に報告しに行くか!」

 「そうだな」

 「待て」


 一斗と愛喜が話してる所に、双月が止めた。

 

 「報告の前に今日は授業ないだろ? だったら、流の家辺りで祝勝会しようぜ!」

 「そうだね! 無事幹も受かったんだし!」

 「ありがとう……蓮司」


 俺らは一時解散して、流の家に上がらせてもらうことにした。

 学校への報告は夕方にでも、しにいこうと決まった。

 俺は自宅へと帰る。

 誰もいないようだった。

 ちなみに、家族にはメールで合格したと伝えてある。学費も滑り止めの所よりは格別に安いので喜んでくれるであろう。

 

 俺はコート・ブレザーを脱いでハンガーにかける。

 この制服も、もう見納めだ。

 そしてベッドに横になった。突然、俺は合格したことの安堵により瞼が重くなった。

 



 暗闇の中。俺は裸になっていた。

 ここは……夢か?

 目の前に童話走れメロスに出てきそうな格好の聖人が現れた。

 感じ的に言えば、女神的な?

 無論女性である。

 

 「あなたの願いを叶えました」 

 

 よく響く声で俺の耳に届く。

 確かに願いは叶った。よくやったよ女神様。

 

 「ふむ。あなたは私を神様だと信じてはいないみたいですね」

 「そりゃあそうさ。いきなり現れて神様みたいなのが現れても神様と断定する奴は、いない。そもそも、ここ俺の夢だし」

 

  女性は手を口元に当てて微笑んだ。

 

 「それでは、折角夢ですのであり得ない事をしてもいいですか?」

 「勝手にしてくれ。俺はあんたを本当の神様だと思ってないからな」

 「そうですか。何でも差し上げますとか言ったわりには信じてないんですね」

 

 女性は左掌を俺に向けた。

 一体なんだ?


 「あなたが私を神様と信じるか信じないかは自由です。ですが、あなたの願いを叶えたので、私はあなたの物を一つだけ持っていきます」

 「友人以外だったらどうぞ」

 「ふふ。では分かりました。これを頂くとしましょう……」


 そういって女性は消えた。

 俺は目を覚ました。




 身体が重い。

 というか、いつの間にか寝てしまっていたのだ。

 ちなみに時間はもう夕方を回ってる。

 携帯には着信履歴が沢山ある。

 これはまずい事をしてしまったなと思った。

 ベッドから立ち上がると、胸に違和感が生じる。

 俺って、太ったっけ?

 まだ寝ぼけてるだけかと思い、とりあえず着用していたワイシャツを脱ごうとした。が、ボタンが妙に外しづらい。何か肉で埋め尽くされてるみたいな……。

 外すと、胸の肉が揺れる。

 

 「……」


 俺は急いで、自室の姿見を見る。

 む、胸が……!!

 というか、この美人誰だよ!!

 お、俺……!?

 はっ!?

 何で! 何でだよ!

 いや……まだ女になったと決めつけるのは早計だ。

 俺には、男としての勲章がまだっ!


 「……」


 なかった。

 男の勲章がなかった。

 

 お、俺は……何て物を……。

 両手、両膝をついて自分の部屋で落ち込む。

 これじゃあ、お婿に行けない……。


 突如、部屋のドアが開いた。

 

 「ちょっと、何して……る……の?」

 

 入ってきたのは姉の美鈴(みすず)だ。女子力の塊とも言える。

 大学二年生。巨乳・高身長・スタイル共に最高峰クラス。それでありながらもビッチではない。街に出かければスカウトの声がかかる程だ。

 

 「お、俺……女になっちゃった……」

 「ま、マジかい……」


 姉はただ呆然と俺を見つめる。

 俺はもう泣きそうだった。何が悲しくてこんな事に……。

 姉は俺に向かってゆっくり近づいた。


 「よし、確認する!」

 「へ?」


 姉は俺の身体を服の上から触る。

 姉はやがて、手を止め離した。

 

 「元気な女子(おなご)ですな」

 「何ふざけてるんだ!!」


 姉は俺から離れ、腰に両手を置いた。


 「ふむ。では妹が出来たって事になるのかな?」

 「ならない!」

 「どうかな? その身体はもう完全に女じゃないか」

 「……まぁ」

 「というわけで、今私は念願の妹を手に入れた!!」

 「なんでそうなる!」

 「それでは早速街に……」

 「行かないよ! それよりも高校どうしよう……」

 

 変に高くなった声で俺は呟く。

 だって頑張ったのに結局高校に行けないのでは話が違う。

 もう絶望だ。


 「お姉ちゃんに任せな!」


 姉は自分の胸を叩いた。

 そして、ポケットから携帯を取り出しどこかに電話しだした。

 

 「あーもしもし? あーあたしあたし。美鈴だよ。先生今暇?」

 

 姉は友人に話すような口調で、先生と思われる人に電話をかけている。

 

 「で、要件なんだけど、そこに中谷 幹っていう生徒が合格したと思うんだけど、そいつ名前と性別間違えちゃってさ。谷中(やなか) 美樹(みき)に直してくんない? うんうん。性別は女ね。えー男? 知らん。何とかしろ! っていうわけでよろしく。あ、それ通らなかったとか言ったらシバクから。じゃね」


 電話を切った。


 「通ったみたいだよ!」

 「ほぼ脅しじゃん!」

 「いいじゃん。可愛い美樹の為だよ!」

 「俺の名前、美樹に変更なの?」

 「そりゃあ、もう女の子として生きていくしかないでしょ」

 「そ、そんな~」

 「それじゃ街に買い物しに行くわよ!」

 「え~!!」

 

 こんな感じで俺の女としての人生はスタートした。

 結局、友人五人には今日は行けないとメールしておいた。

 

 俺は姉に連れられて、化粧品売り場・洋服・家具・女子力向上の為の本。

 女子に必要とされる、ありとあらゆる物を買った。主に姉が。

 

 家に帰ったのは夜十時だった。

 女体になった俺を見て家族の一言。


 「やればできるんだな! 幹。お前は女になって正解だ!」

 「お父さん、飲みこみ早過ぎだよ!」

  

 父はビールと一緒に、簡単に受け入れやがった。

 次は母。


 「やっぱり幹は女の子に生まれるべきだったのね~! 美鈴よくやったわ!」

 「でしょでしょ? で、これから高校入学までに女子力を上げようと思って!」

 「そうね! あたしも手伝うわ!!」


 母と姉はノリノリだ。

 後は頼れるのが一人しかいない。がコイツを頼ってもいいのだろうか。

 残るのは兄。

 もはやオタクを通りこしている次元の男。

 コイツとは話したくないが……まぁ意見を聞くとしよう。


 「幹。『俺の妹はこんなに可愛い』を読め」

 「は? イキナリ何言ってんの」

 

 俺の声は現在女の声だ。

 現在どころじゃないか。もしかしたら一生……。

 

 「俺は妹萌えだ! 妹最高!! 幹――いや美樹た~ん!!」

 「死ね!」

 

 俺は迫りくる兄の顔面を蹴った。

 兄も大学一年生。それなりに顔はいいのに、オタクな事ばっかりしている。コミュ障ではない。

 それなりに人望もあるのがイラっとするのだ。

 

 それからというのも。俺は高校入学式まで母親+春休み中の姉に女子力を上げる特訓を毎日させられた。

 基本的に内心では一人称を変えるつもりはないが、外で使う一人称は私になった。

 歩き方。背筋。作法。言葉使い。勉強。化粧。歌唱力。絵。ファッションセンス。

 全てを叩きこまれた。

 

 そして迎えた高校入学式前日。

 

 「これなら文句はないよ美樹。短時間でよくここまで来たもんだよ! さすがあたしの妹!」

 

 姉は腰に両手を当て偉そうに笑う。

 ほとんど寝る時間もなかった。

 

 「お父さん……美樹がこんなに立派になるとは……」

 父さんは何故か涙を流す。


 「本当! お母さんも美樹がこんなに可愛くなって嬉しいわ~! お嫁に出すんだったら高給取りね!」

 自分の老後を考えて言ってるのだろうか。ずるいな。


 「おにーたんって呼んでくれ! お願いします!!」

 兄貴は土下座している。


 この異様な光景も慣れた。

 俺は卒業証書授与式も出られず、ひたすら訓練をしていた。

 今の俺の姿は。


 「私も、みなさんのおかげで、綺麗になれました。ありがとうございます」


 結構芝居かかった感じだったんだが、全員泣いている。

 何この家族。オレオレ詐欺に騙されないか心配だわ。

 

 「で、もういいだろ? 家族内では一人称俺で」

 「何言ってんのよ。ダメよ。外でもボロが出るかもしれないから、家庭内でも禁止。中谷 幹は死にました。現在、家にいるのは親戚の谷中 美樹だからね」

 「わ、わかりましたわ」

 「最高に可愛いわ! もはやアタシが育てただけあるわ!!」

 

 こうして、女体化した俺の高校人生が幕を上げたのだ。

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