桜の花は冷笑を浮かべ
念願叶い希望の大学へ通うこととなった私は、しかし満ちたりなさを感じながら日々を生きていた。大学には時計台があり、昼の時分こそ弁当を持参した女学生やカップルが高い景色を楽しもうと集まるが、夕刻ともなればそれも絶える。私はその時間にここで遠くを眺めることでどこか自虐的なストレス解消をしていた。そうすれば自分自身も含めて何もかもがちっぽけに思えたのだ。それを繰り返していたある日に、時計台の最上階で桜の花を見た。そう形容するほど恐ろしい美しさであった。唖然として冷や汗を流す私に桜は言う。小さく、媚薬のように官能的な声であった。されど耳で何度も反響するその音は確かに私に愛を訴えていた。
時計台
2014/11/28 12:09
(改)