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Blinking ~点滅する自堕落な日々~

作者: 芦静一

一年前、彼女は死んだ。しかし一方で、死んでいない。

 こんな、英文の和訳に失敗したみたいなおかしな世界に、俺は確かにいた。


 一年前の夏、麻央と俺は交通事故に遭った。丁度二人でコンビニに行く途中だった。

 「あっちーな、おい」

 「ほんとほんと。外にコンビニに行くだけで、三キロくらい痩せそうだ」

 今季一番の暑さになるだろうとお天気予報士のお姉さんが言った直後、マンションの下の階に住む麻央から電話が掛かってきた。

 『あ~、もしもし?シュウ?あのさ~、今から運動がてらコンビニでスイカ買って来るんだけどさぁ~。スイカ重そうだからついてきて~。じゃね~』

 スイカで頭カチ割ってやろうかと思ったが、普段から高校もサボって引きこもりがちの麻央が一人で炎天下にスイカ運んで倒れられたりしたら、面倒臭いことになるのは目に見えていたので結局ついていくことにした。

 「あっついあっつい」

 普段なら、ピンクなんて軟弱じゃあ!と言って着ないピンク色の服を着た麻央は、藍色のハンカチで額の汗を拭いていた。通り過ぎる人が、麻央を二度見していく。おそらく、真夏なのに全く日焼けしていない顔と、極度に痩せ細った体のせいだろう。

 「あ~、死にそ~、楽しいな~」

 「ったく、お前は楽しくても俺は全然楽しくないわ」

 「え~?楽しむ心は大切だって、私のおばあちゃんも言ってたよ?お金の次に」

 「・・・・・・どんな教育だよ」

 車道のアスファルトの上を陽炎が踊る。蝉の鳴き声もどこか苦しげな中、麻央はイヤにはっきりとした声で言った。

 「それも個性って言うものだよ。みんなが同意してるから優れてるって訳でもないし。同じせ・・・・・・」

 「同じ世界に全ての人間が生きていると思いこんでるけど、実は人間はみんな自分の中の世界の中に生きてるにすぎない、だろ?」

 そう。と、麻央は頷いた。俺は溜め息をつく。幼い頃からの、麻央の口癖だ。

 麻央には、ある種精神病的な癖がある。普段は前記のように、アホみたいな話し方なのだが、哲学とか倫理とかの類の話になると急に真剣な顔立ちになり、酷く冷静に語り出すのだ。それが原因で、高校では友達ができず引きこもりがちらしい。

 「あああ~コンビニが遠い~」

 「もうすぐだろ。我慢しなさい」

 そう言ってみるものの、やはり暑い。汗が止まることを知らず、顎から滴り落ちていくのを感じる。遠くの交差点で、歩行者信号が青になったのを知らせる音楽が聞こえた。

 「あ、ねえシュウ~あのさ・・・」

 そう言われて麻央に振り返った瞬間


 鼓膜が破れそうなほどのクラクションで、体が硬直する。歩道の内側から俺の顔越しに車道を見た麻央の顔から、一瞬で血の気が引いていくのがわかる。


 全身に雷が直撃したかのような衝撃を受けた。重力が消え失せ、次の瞬間には何かに背中から叩き付けられた。全身至る所で骨が砕ける小気味良い音が鳴り、壊れかけの理性に染みた。

 何処からか流れる血が目に入り込んだらしい、視界がぼやけている。灰色のビルに囲まれた青空が、暗闇に喰われていく。それ以外には何にも感じない。世界から締め出されたように。

 俺は叫び声を上げることも出来ないまま、意識を失った。


 二週間後、俺は病院の白いベッドの上で、奇跡的に目覚めた。どうやら、医師達の必死の治療により、一命を取り留めたらしい。いや、一命だけ

 俺の命だけ取り留められたらしい。

 隣のベッドには、白い布で顔を覆われた麻央が横たわっていた。痛む身体に苦しみながら立ち上がり、その布を取ると、元から血の気が通っていないような白い顔が人形のような無機質さを帯びて現れた。これまで何度も何度も見た、ただ、今まで見たことの無い空っぽな顔だった。

 その日の記憶はあやふやである。駆け寄ってきた両親が俺にかける言葉は一言も覚えていない。それなのに、現実が理解できずに視線を逃がした先の、花瓶の花のピンク色とか、やっと麻央が死んだことを理解して一人息を殺して泣いた時の滲んだ蛍光灯なんかは、酷く脳に焼き付いている。


 翌日、起きると隣のベッドの麻央は既に目覚めていた。 と言うか、俺は麻央に叩き起こされた。

 「ん、なに、なんだよ?」

 奇妙な程白い病室の天井を隠すように、寝ぼけた俺の視界に現れた麻央は、唐突に泣き出した。

 「え、何だよ?」

 「なんで・・・・・・?なんでシュウが、生きてるの?」

 その言葉で、寝ぼけた頭が激動した。同時に俺の瞳からも涙が溢れる。

 「麻央・・・・・・お前、昨日死んだはずじゃ・・・・・・」

 「昨日死んだのはシュウだよ・・・?」

 麻央の話は、昨日俺が体験した事と全く同じだった。昨日俺は死に、麻央だけが生き残ったらしい。

 「とにかく、また話せて嬉しいよ、シュウ・・・・・・」


 その日から、俺の狂った生活が始まった。

 更に翌日、麻央は再び死体に戻っていた。昨日、麻央の通夜が執り行われたらしい。俺はその場で恥ずかしくも大号泣したらしいが、全くもって覚えていない。

 正午、葬式の後、麻央の肉体は高温の炎で焼かれた。その煙を、無駄に広い火葬施設の屋内から窓越しにしっかりと見た。仮に麻央がゾンビだったとしても、もう復活出来ないだろう。

 だが、次の日麻央は、ベッドの上でルービックキューブを両手で弄んでいた。

 「頭がおかしくなりそうだ~。シュウが死んだり生き返ったり。一面そろったと思ったら、いつの間にか崩れてたり・・・・・・」


 事故から二週間、精神が落ち着いてもいい頃だったが、相変わらず目覚めると、麻央が生きたり死んだり、生き返ったりしていた。麻央は規則正しく、俺が一度起きる度に死に、俺がもう一度起きると平然と生き返る。もし俺が居眠りしたり、二度寝したらどうなるんだろうと思ったが、不思議なことに俺は夜の間、正確に言うと零時から六時の間だけしか眠れなくなっていた。生きている間の麻央に聞くと、彼女もそうであるらしい。

 「困ったことに、意識は消えかけなのに目は冴えてるんだよね~。拷問だよ」

 俺は昼間寝ることはあまり無かったので、その拷問を受けることは無かったが、代わりに寝起きが悪く、深い眠りの最中、史上最悪に否応無く起こされるという地獄を味わった。

 俺達は病院からついに退院した。夏休みが終わって二日後の事だったので、その次の日から俺は学校に復活したが、麻央はサボったらしい。


 麻央は、一日毎に俺の生きている世界と、死んでいる世界を生きている。俺と同じように。勿論、俺が麻央のいない日を生きている間、彼女は俺のいない日常を過ごしているらしい。しかし困ったことに、その間にも両方が生きている世界の時間は進んでいて、更にその間もどうやら俺は動き回っているようだ。麻央の通夜で泣いたらしいことが、その例だ。俺は俺の知らないところでいつも通りの日常を送っている。なんだかドッペルゲンガーのようだ。とりあえずそれが原因で、俺は毎朝起きるとすぐに自分の携帯をチェックする癖がついた。

 彼女の話を聞くと、俺の生きている世界とどのような繋がりがあるかわかった。

 「昨日のテロ、凄かったよね~」

 世界的な大事件は、同じ日の、同じ時刻に起こった。

 「あの本屋、いつの間に潰れたんだろうね~」

 身の回りの出来事は時刻がズレて起こる、もしくはそもそも起こらなかったりした。

 「この家の犬、死んじゃったらしいよ・・・・・・」

 但し、身の回りでも命が関わってくる出来事は、時を同じくして起こった。微生物レベルでそうかと言われると、どうかわからないが。


 「私たち、どうなっちゃったんだろうね~」

 秋の終わりが近づいてきた頃だった。その日は、麻央の生きている日だった。部活をするでもなく家に帰ると、ドアの前に麻央が立っていた。ちょっと話があるから、マンションの下の公園に来てくれない?そう言う彼女はどこか儚げに見えた。

 すっかり元気の無くなった黄土色の銀杏の木の葉が、細い枝の先でふらふら揺れていた。公園の白いベンチはペンキが塗りたてだったので、二人並んでブランコに腰掛けた。

 「今更だな、おい」

 「今更って、元に戻るまでこの問題は離れないよ~」

 元に戻るって、どういう事なんだろう。そんな思いが頭をよぎる。

 「まるで、点滅だよな。お前が消えたり、現れたり」

 「これって、アレだよね!アレ!」

 「何だよ、アレって?」

 「決まってるじゃん、パラレルワールド~」

 パラレルワールド、間抜けな語群だ。

 「え、知らない?パラレルワールド」

 「・・・・・・詳しくは無いな」

 「平行世界。無数の人間の無数の選択により分離し、時に再結合しあう無数の世界。『もしもの世界』とも呼ばれる。最近じゃ小説やアニメのネタにもされてたりするよ~」

 詳しくは無いというか、名前しか知らなかったのだが。

 「ん~、わかりにくいかな~?」

 麻央は小学校低学年の頃から、このようなオカルトじみた話が大好きだった。確か、中学入学後すぐ位の時、図書館に籠もってパラレルワールドとか言う物についての本を読みあさっていた記憶がある。

 「ま、簡単に言えばゲームとかの別ルートってやつだね。一つの選択でいくつかの世界に分岐する・・・・・・」

 「すまん、ギブ寸前だ」

 苦手なジャンルの話を、さらに苦手なジャンルで例えられても困る。余談だが、俺はゲームを始めようと意気込んでも、何故か十分後には飽きてしまうという特殊な体質である。テトリスさえ満足に出来ない。

 じゃあ、と麻央は一度深呼吸をした。

 そして一言、告げた。

 「私たちは、多分もう死んでる」

 夕日が地平線に飲み込まれた。


 俺たちの住む地域でも珍しく雪の降った、事故後初めての冬の一日。俺は日曜日であることを良いことに、家の中でごろごろしていた。家族は昼まで寝ていた俺を置いて、讃岐うどんを日帰りで食べに行っているらしい。部屋の隅で石油ストーブの炎が、忙しそうに揺れている。

 薄い代わりに狭いテレビの液晶に、おなじみの天気予報のお姉さんが映る。見ていておもしろい位の厚着だ。それは大袈裟だろ。と、心の中で笑ってみたが、マンションの窓の外を見てその笑いは静かに息を引き取った。

 「今日は今期一番の寒さとなるでしょう」

 その言葉で、ある情景を思い出す。

 目の前で光を反射する窓ガラス。ボンネットの無い、金属の壁のような、トラックの車体。脊髄を粉々にしてしまいそうなほどのクラクション。そして、妙に青い空。不思議なことに、その光景は俺を恐怖に陥れることはしなかった。むしろ、アルバムを見ている気分だ。

 そういえば、あの日は今年一番暑かったっけ。あ、もう一月だから去年か。なんて事をぼんやりと考え、ああ、暑いってうらやましいなぁ、と独り呟いた時。

 唐突に玄関の呼び出しベルがけたたましく鳴った。

 「すみません、留守でーす!」

 一歩も動かず、大声で答えた。大抵の宗教団体はこれで俺の精神の汚れに慄き、帰っていくだろう。ざまあ見やがれ。

 と、思っていたが、ノックの音は止むことを知らず、寧ろ更に大きくなって行く。このままでは警察とかGHQとかが潜入してきそうな勢いだったので、ひとまず顔だけ見てくる事にした。立ち上がり、寒い廊下を舌打ちを残して通り抜け、チェーンを掛けたまま冷たいドアノブを捻って大きく開ける。

 「ハッピーニュー・・・」

 すぐに扉を閉め、自分の部屋に戻った。

 「おおい!お前、可愛い女の子が遊びに来てくれたんだ! 上質なセイロンティーくらい出してみろコノヤロー!」

 とりあえず、プリズンブレイクはしなくていいようだ。よかった。俺はスタローンでもジャッキーでもないのだ。

 「何やってんだ。鍵開いてるだろ」

 おう、そうか!爪が甘かったな!と声がして、一瞬遅れで結構痛そうな金属衝突音と共に、悲鳴が聞こえてきた。恐らくチェーンの逆襲にあったのだろう。

 「引っかかったな、最後まで他を疑い続けた者が・・・」

 「ごめん・・・」

 廊下に出ると、冷たい風が屋内に吹き込んできた。全開になった玄関から。

 「チェーン、引き千切っちゃった・・・」

 どうやら、プリズンブレイクするのは俺ではなく、彼女の方だったようだ。


 「ふいー。緑茶は最高ですな~。」

 「セイロンティーなんて、家にはないからな。それで我慢しろ」

 ほいほーい、と気の抜けた返事を残し、華奢なブルースウイルスは勝手にテレビの番組を変えた。誰が聞き取れるのかよくわからないラップ調のCMソングが流れだす。両手には、千切りたてほやほやの金属チェーンが握られている。まあ、いつ役に立つかよくわからない代物なので、壊れても特別問題はない。

 「んで、半年経ったけど」

 麻央は満面の笑みで湯気の立ち上る緑茶をあおると、冷めた口調で言った。

 「・・・お前、脈絡ってものを考えようぜ? 温度差で悪寒がするから」

 「何か特別わかったことはあった?」

 無視かよ。と、言うと睨まれかねない勢いだったので、素直に答えた。

 「ねぇよ。なんにも。どうせ、そっちもなんだろ」

 「だよね~。はあ、何時になったらこんな生活から抜け出せるんだろう」

 「なぁ、この生活から抜け出したら、一体どんな世界になるんだろうな」

 「え? そりゃまぁ・・・」

 そこで、彼女は急に黙り込んだ。言いたいことは俺にも良く分かったので、俺も沈黙する。

 俺たちが元の生活に戻ることがあるなら。

 きっと、俺たちは二度と会うことはないだろう。



 不意に玄関の方で、物音が聞こえた。突然すぎる緊急事態に、頭が動作不良を起こす。

 「誰だろ、みてこよ・・・」

 麻央を手で制す。百パーセントまともな類のことではない。恐らく空き巣ではないだろうか。この家には今、俺と彼女しかいない。そのため窓際の部屋には灯も人影もなく、留守のように見える。そのうえ、俺は今日新聞を取っていない。多分、一階のロビーには新聞が力無く突き刺さっていることだろう。

 以上、この家は傍から見ると完全に旅行中の無防備な家である。

 俺がこう決めつけるのは一重に、何回か留守中に空き巣と遭遇したことがあるからだ。

 「俺が行く。さっさと帰って貰うから」

 それにしても、えらくすんなりと入って来たもんだな。鍵もチェーンも掛けておいた・・・

 なにか大変なことに気付いたような気がして、麻央に問う。

 「お前、上がってくるとき、鍵をかけたか?」

 「・・・あ、いつものように開けっ放しかも・・・」

 溜息が零れる。それなら早いに決まってる。ETCを通過するより遥かに楽だ。

 ・・・温厚な人だったらいいなぁ。


 無謀な願いの元、廊下に出てみると眼光鋭い男だった。麻央と劣らない程痩せている。

 おお、ラッキーだ。そんな喜びが一瞬で吹き飛ぶ。その手には、しっかりと得物のサバイバルナイフが握られていた

 「動くなよ。鍵全開でいるお前が悪いんだからな」

 いや、絶対お前の方が悪いだろ。そう言いたくなるのを必死で堪えた。相手の今の言葉には、一切震えが混じっていなかった。相当慣れているのだろう。残念ながら俺もこういうことには慣れているのだが。

 静かに両手を上げる。


 が、周りの環境は、緊急事態を理解してくれなかった。奥の台所で、薬缶から湯気が噴き出す音が木霊した。俺の分のお湯だ。

 ふと、そちらを余所見したのを、空き巣は見逃さない、いや、見逃せなかった。

 フローリングの床を強烈に踏みつけて、一気に距離を詰められた。そのままラグビーのように突進を喰らう。


 「ああああああぁぁ!」

 男の叫び声と共に、俺の脇腹に銀の刃が突き刺さった。一瞬気が遠くなるような痛みを感じ、その後は麻酔でもかけられたように何も感じなくなった。勢いのまま後ろの扉に背中から激突し、二人でよろけながら扉を突き破って台所へと転がり込んだ。割れたガラス窓の破片が、俺の臓器から流れる血で染まっていく。その様子を直視した男の顔はみるみる青ざめ、そして奇声と共に廊下を全速力で駆け玄関から娑婆へと出て行った。

 「シュウ~?どし・・・シュウ?」

 今更暢気に麻央が顔を覗かせた。もう、声も出せないというのに。一度死んだからだろうか。そんなに恐怖が湧かない。そうか、今まで生きていたことの方が不思議だったからか。そんな事も思った。

 「シュウ! 駄目・・・シュウ!」

 麻央との別れ。何故か今回の方が辛い。嫌だ。唐突に体の中から野蛮な本能が暴れだした。

 いやだ。彼女を離したくない。麻央は俺の支えだ。なんでだよ!彼女を一人で置いていけるわけ・・・

 全面に彼女の顔を映したまま、俺の意識は薄まり、弱まり、そして消え去った。



 そして、今。一年前の事故から分離していた世界は一つになり、そして消えようとしていた。

 上空のその上、或いは下。とにかく高いところから、俺は夕陽に染まる街並みを眺めていた。ここは、俺が事故で死んで、麻央が生き残った世界。幽霊か亡霊か、その他か何かになった俺は、そのことをなんとなく理解していた。本屋が潰れていたこともヒントではある。

 ある建物の中に目を凝らす。古文で習った絵巻のように、壁が透け、部屋の中の様子が見えた。そのまま集中すると、カメラのズームのように細部まで見渡せる。

 少女がいた。椅子の上に立って、そして何かの準備をしている。俺はその作業を静かに見つめた。部屋の端の机の上には、無数の「ごめんね」の文字が彫刻刀で刻まれていた。その横には何故か英和辞典が開かれていた。

 『blinking 形容詞 ①まばたきする;明滅する ②(古略式)ひどい、いまわしい』

 準備が終わったようだ。彼女は目を閉じ、そして思い切りキャスター椅子から飛んだ。椅子が転がり、本棚にぶつかって止まる。

 麻央の身体は、空中に静止した。首筋を絞める、一本の紐によって。天井に打ち付けられた一本の白い縄が、軽そうな少女の身体を受け止めていた。

 さて、何を話そうか。そう思いながら、俺はノイズが走り出した目の前の世界に別れを告げた。

読んで下さって、本当にありがとうございました。

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