表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女の名は、ドンキー  作者: あゆみかん熟もも


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/10

4.友人

 呼び出した場所は、家から数キロ離れたコンビニだった。ちょうど近所を通るからと快諾してくれた友人、徳永は、僕がコンビニで雑誌を立ち読みしていると現れた。

「よう。悪かったな待たせて」

「謝る事はないだろ、呼び出して来てもらったのはこっちだ。どうだ、コーヒーでも飲まないか」

 僕は入口に設置されているコーヒーメーカーを親指立てて訊いてみた。「そうだな」と徳永は紙コップを取りにレジへと向かった。

 コーヒーの入った紙コップを持って外へ出た。深夜のコンビニは他に客が誰も居ない。店員が奥で2名、商品を動かしたり掃除をしている。

「あれから何か分かったか」「ああ」「分かったのか」「うん……」

 コーヒーを飲みながら気の無い返事をしていたので、徳永は心配した。「何があった」

 時間が経っていたので、だいぶ冷静になれたと思う。誰でもいいから――話をしたかった。

「原因を突きとめたという事だな」

「いや……」

「何だ。違うのか? 寝ぼけてんじゃないぞ、せっかく来てやったのに」

 僕は、ブログで見てきた事を思い出しながら徳永に説明していった。真優美、マユがリカという女に自傷行為を止める様に説得しようとしていたみたいだが、リカは聞き耳持たずか止めず、次第にマユの方がおかしくなっていったのだという事を。

「真優美さんは、鬱病だったのか?」

「いや……どうだろな。隠していたのかもな」

「ミイラとりがミイラに、とは、この事か」

 ず、とコーヒーをすする濁った音がした。そうか、ミイラとりがミイラに、か……まさにそうだな。僕は目を伏せて痛くなる頭を落ち着かせていた。

「酷い話だな。謝罪は何処にも無かったのか、その女」

「無い。少なくとも、真優美の近辺では、な。それより、マユの死をまだ知らないと思う。足あとはつけたが、まだメッセージを送っていないんだ。マユの他のブロフレには何人かに送ったから、いずれ伝わるかもしれないが」

「いずれ、じゃ、待っていれんだろう。その、リカといったか。その女に聞いてみないとな。お前のその冷静さに事欠いた頭じゃ、直接そいつに何言い出すか分からんな」

 もっともだ、と僕は頷いた。だから呼んだのだ、徳永、お前を。案の定、僕は今、今後どうしたら最善の策なのか道を見つけられないでいる状態だった。

「トピックを立ててみたらどうだ」

「トピックを?」

「コミュニティがあんだろう? 真優美さんが作ったとかいう、『鬱コミュ』が。そこで呼びかけてみる。知人にメッセージを送った時の要領でいいんだ。真優美さんが死んだ事と、その女の方から接触して来る様に仕向ける書き込みで。お前がまだ悩んでいるのは、本当にその女が死の原因だったのか、今ひとつ確信が持てないからだろう? 真優美さんには確かめようがないからな、もう」

 徳永の言った事が的確で、僕は心が痛んだ。真優美に聞けたら聞きたかった。だが、真優美はもうここには居ない。何処をどう探しても。

「分かった。やってみる」

「うん。不謹慎な言い方で悪いが、お前の話には興味があるからな」「え?」

「ウェブで過ごす内に分かってくるよ。トラブルを起こす奴の特徴。その女も当てはまりそうだ。教えてやろうか? 今後の接触のために」

「ああ。頼む」

「説明など難しい話や事柄を読まない。読む気などさらさらない。調べない。過去スレや、ググるなどで最低限の内容も自分で調べようとしない。試さない。面倒くさいなどの理由で実行しないし、する気もない。理解力が足りない。理解力以前の問題で、理解しようとしない。人を利用する事しか頭にない。甘え根性でその場を乗り切ろうとする。感謝しない。教えてもらって当たり前で、事が済むと、さようなら。自分自身で判断しない。最初から他人に丸投げする。責任をとらない。全て自分以外の誰かが悪い。逆切れする。自分の思うようにならないと、逆切れする。こんなとこかな」

 一気に言われて、僕は苦い顔をした。

「取り上げて9つある。読まない、調べない、試さない、理解力が足りない、人を利用する事しか頭にない、感謝しない、自分で判断しない、責任をとらない、逆切れする」

「最低だな」

「だろ? その悪習慣が身についてしまったら、最悪だぜ。縁も切った方がいい」

「ならない様に気をつける」

「そう自覚できるならいいが。大概は無自覚。聞き耳持たないで殻に閉じこもるだろうからね。視界が狭い環境に置かれてる奴がなりやすい。子どもや女。年寄りは経験豊富に過ごしていたらそうはなりにくい。要領が分かっているからな」

「そうだな。子どもは経験が少ないし社会を知らない。女は、主婦業のせいもあるし守りの方が固く外への目がおろそかになる。じゃあ、男は? 今の話だと、男はそうじゃないみたいに聞こえるな」

「男に限ってとは言ってない。傾向が強い、としただけだ。男は働きに出るから、行動範囲がどうしても広い。勿論、そうでない男だっているし、女であっても社交的な目であれば傾向の輪からは外れやすい。ま、病気といった特殊な環境でない事を祈るけどな」

「分かった。ありがとう」

「ついでに、ネットとリアルの最大の違いを言ってやるよ」

 徳永は、得意満面の笑みで僕を見た。今夜はやけにお喋りだなと片眉を寄せたが、せっかくなので話に付き合う。「何だよ。相手の姿が見える見えないとかじゃないのか」と言い返すと、徳永はまたニッコリと笑った。

「ネットが脳で、リアルが体だよ」

 その時、徳永が空っぽになった紙コップをぐしゃりと潰し、「頭の弱い奴がネットなんてするもんじゃない」と吐露した。



 帰宅すると、留守電が入っていた。妻からだった。

 家を普段、仕事で空けている事が多かった僕は、妻と過ごす時間が極少なかった。妻には退屈な毎日だったろうなと思う。だがそれも初婚から数日の事だった。妻は主婦でありながら家事は苦手で、面倒くさがりだった。料理ははじめやる気を出して頑張っていたみたいだが、断念した様で、買い置きの物が頻繁に出る様になっていった。

 洗濯は得意らしく、全自動洗濯機で頑張っていた。

 掃除はするが、適当だった。片づけていない時がほとんどで、食事後の片づけは、後でまとめてやるタイプだった。手が荒れるから嫌、とか言い訳をいつもする。

 妻には同種の友人たちが居る様で、よく出かけて行った。家に引きこもるよりはマシだろうと放っておいたが、時折、泊まりで帰って来ない事もあった。さすがにそれはどうなんだろうと言ったが、「そうね、気をつけるね」と言って誤魔化された気がする。

 今回の件で葬式に出向いたのにも、「どうせ暇だし」と呟いていた。妻からしたら、真優美とは何の関わりも無いアカの他人だ。妻には『親しい友人』としてしか説明してないが、まさか浮気の相手になる可能性があったとは、きっと夢にも思っていないのだろう。いや、真優美とはそんな間柄では「まだ」無かったが。

 妻からの留守電に入っていた用は、「勝手口のドアの鍵を閉め忘れたかもしれないから、閉めといて」だ。それだけだった。

 現在、妻は実家に帰っており、その理由も「楽できるから」という身勝手なものだった。僕は言及するのにも、もはや疲れていた。徳永の助言が頭をよぎる。徳永が挙げていた9つの項は、要するに身勝手な人間という事だ。相手の立場や状況を考えず、自己中心的な考え方しかできない可哀想な人間。トラブルを自ら招いたくせに、その責任を担おうとはしない人間。選択は確かに自由だが、その自由を使いこなせてない頭の人間……何だ、安全な場所であぐらをかいている人間の事じゃないかと思った。やはり基本的に収入が安定しているサラリーマンといった男にもそれは居るな、とも。

 それで集団化されたら余計に最悪だ。変えれない。


 誰も居ない家に帰ってきて妻からの留守電を聞き、消去した後、シャワーを浴びた。明日、いや、もう夜が明けてからだが、仕事に行く。それまでは睡眠が必要だが、その前に、とスマホを取り出した。

 そして徳永に言われた通り、例の『鬱コミュ』を探し、トピックを作成する。タイトルは、そうだな、【報告】でいいか。マユではなくて『ダーク』と名前を変えているが、登録IDは一緒だ。分かる人には分かるだろう。

 読み易い様、改行を加えて簡潔にまとめた。

[はじめまして。オーナーのマユの友人です]

[マユは、ある女のブロガーによって気がおかしくなり、この世を去りました]

[僕はマユのスマホから、このブログをしています]

[マユがお世話になった方々に、マユに代わって御礼の言葉を申し上げます]

[ありがとうございました]

 こんな所かな。

 僕は文字を打った後、あくびしながらログアウトした。

 この先どうなるかが、分からない。不安で荷が重かった。だが行動に出る事でマユのために何かしたという満足は得られている。おかげで今夜は何とか眠れそうだった。

 マユ。

 君が居なくなって初めて分かった。僕は、

 君の事が好きだった。



 会社から帰った後、妻が不在である事をいい事に僕はスマホを持ってソファに横になりブログを開いた。お待ちかねのコミュニティ、トピックについたコメントを見ると、多くの書き込みが並んでいる。

 メッセージで接触した人も居れば、知らないハンドルネームも居たりする。

 コメントは、「え?」とか「誰の事?」とか「本当ですか。信じられません」とか、反応が様々だった。一見したが、反応ぐらいで有益そうな情報が無い。僕はガッカリした。

(リカ、は、居ないか……)

 一番に落胆したのは、リカのコメントが無い事だった。まだ早すぎるのか。それとも、見ていないのか。僕はトピックから離れ、マイページへと戻っていった。

 そこで赤字のリンクを発見する。

(ん? 『新着』?)

 きっとトピックの方を先に見たいがために見逃していたのだろうが、赤い字で目立つ様にページの先端にリンクがあった。『新着メッセージが届いています』と。

 ボックスを開くと、5件。5名だが、メッセージが届いていた。

[どういう事なのか詳細を教えて下さい]

[あなた何なんですか ほんとですか マユさんが亡くなったなんて・・・]

[誰か教えて]

[トピ見たよ 気になるからメールちょうだい]

[電話して×××-××××-××××]

 見た途端、面倒くさいなこれは、と逡巡した。どうすればいい。無視をするにも躊躇ためらわれた。仕方なく、僕は各、それぞれに返答する。

 後で徳永に電話して様子を伝えると、そういう時は文面を作ってコピればいいんだよと教えてくれた。コピる。コピーする。定型文を予め作っておいたら、あとはそれをコピーして新規のページに貼り付ける。そうすれば同じ文面を書く手間を省ける、という事だった。勉強になった。


 やっとリカから反応があったのが、3日後だった。

 いや、残念ながらリカ本人からではない。リカの関係者で『コル・レオニス』と名乗る者からだった。

[初めまして。レオニスといいます]

 落ち着いた印象を受ける。初めて見た名前だった。調べたら「コル・レオニス」には、『獅子の心臓』という意味があるらしい。

[マユさんが亡くなられたと聞いて驚きました。なぜ亡くなられたのでしょうか。ある女のブロガーとは、リカさんのことでしょうか。マユさんともリカさんとも仲良くさせて頂いているので気になります。返事下さい]

 リカのブロフレか。日記を見たが、どうやらそうらしい。だが、不思議だったのは、マユとの絡みがほとんど無いという事だった。何処で仲良かったんだろう。直接メールや電話でやり取りしていた様子や履歴もこのスマホには無い。

 僕はとにかく返事を書いて送った。他の連中と文面があまり変わりなく。

[メッセージありがとう。僕はマユの友人です]

[マユは先日亡くなりました。自殺でした]

[マユに以前からブロフレ達の事を聞いていて、マユが死んだ事と、マユに代わってお世話になった御礼の言葉を差し上げようと思い、ブログに来ました]

[レオニスさんの事は存じませんが、親しくして頂いていた様ならマユに代わって御礼を]

[ありがとうございました]

[それから、リカさんという人の事ですが、]

[マユは死ぬ直前で言っていましたよ、あなたの事が信じられなくなったと]

[リカさんがどういった方かは知りませんが、その事でマユは気がおかしくなり自ら命を絶ったのです]

[リカさんにメッセージを、と思いましたが僕は男なので正直どう話しかけていいかは分かりません]

[できたら話をしたいのですが、レオニスさん、リカさんにお伝えできますでしょうか]


 回りくどいやり方だとは思うが、慎重にするしかなかった。リカと話がしたいので、警戒されたら堪らない。僕はレオニスさんの返事を待った。わずか数時間後に返事をくれた様だ。また『新着』の赤い文字が浮かぶ。

[でしたら私の方からリカさんには伝えておきます。それから、あなたが立てたトピックにコメントを書きました。ご覧下さい。それでは]

 リカには繋がる様だ。だが、気になったのは後の、コメント?

 僕は急いでトピックを見に行った。前回見た続きから、1件だけコメントが追加されている。しかも長文だった。書き込んだ相手は無論、レオニスさん。僕はゆっくりと文字を追った。


[マユさんは自殺という亡くなり方をしたのでしょうか? ハッキングなど出来たりする人ではない限り、本当に亡くなってしまったのか、私達には確かめようがありません。

 例え本当だったとしても、酷な言い方ですが、私は自殺は、最終的には自殺した人自身の責任だと思っています。選ぶ道は他にもあったはずです。

 まして、会った事も無いようなブロガー同士でマユさんを追い込んだ責任を追及するような行為は、あまりにも無責任な事だと思います。

 逆に今度は、これを見たマユさんの相手が同じように命を絶とうとしたら、あなたはどう責任を取るおつもりですか? マユさんにもご家族やご友人がおありでしたでしょうが、その相手にもご両親やご友人がいるのですよ。

 親しかった友人を亡くすのは確かに辛いです。私も、昔になりますが、リアルで好きだった人を自殺で亡くした事があるので、あなたの悲しみや辛さは解るつもりです。私も、「何故気がついてあげられなかったのだろう……」と自分を責めました。ましてや、マユさんもここに集まる参加者でしたから、何らかの精神疾患を抱えて、辛い日々を送っていたであろう事も理解できます。

 でも、だからこそ自殺という道を選んではいけないのです。自殺は、自身の命だけではなく、周りの人の心も殺してしまう、一番悪い死に方です。

 マユさんが自殺であったなら、私はこのトピを、早急に削除する事を願います]


 僕の動きは止まった。

 心臓さえも、止まったんじゃないかと思った。言葉が頭の中を巡る。


『自殺は、最終的には自殺した人自身の責任だと思っています』


 これが、この女達の全てなんじゃないかと――ただただ、愕然とした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ブログ あとがき ドンキー こちら


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ