表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

10.終わる

 例えば、凶器が人を好きになれるだろうか。

 人が凶器を好きになれる事があっても。



 起きれば、ドンキーは正座して、私を待ち構えている。

「おはようございます」

 ひと晩、私が出てけと言ったがために、帰っては来ずに何処かで明かしたのだろう。だが帰ってきた。規則正しいドンキー。従順なドンキー。私のために尽くすと言ってくれたドンキー。美しい、お人形のドンキー。

「ご決断を」

 彼女の唇は、機械的に動く。表情は無い。

「決行は……やめる」

 私の言葉は、決意に満ちていた。

「何故」

 ドンキーの目は見開かれる。

「あれは、私じゃなかった……私には、無理だ」

 自信喪失をした男の、諦めの決意。私には、到底できる事ではなかったのだと、ひと晩かけて導き出した答えである。夢を見ていた。ヒーローになる夢を。だが光には憧れていて将来を展望し歩んできたものの、私を闇が真実であるかの様に誘われ、落とされて、転落していく一方で、さらに、底辺にも届かない。

 光にも満たない、闇にも行き着かない。まるで空に浮くマリオネットだ。滑稽な。

 素敵な凶器があったのに。

 間を置いた後、ドンキーは坦々と、言った。

「迷いは、方向を変える」

「え?」

「クダラナイ人間のプログラム」

 彼女は、冷ややかだった。

「早く決断すればよかったのに」

 彼女は、怒っているのか。

「すまない」

「契約を結んでいたなら、不履行です」

 契約? ああ……

「私は、貴男が私を使用する事を条件に、現実世界に呼ばれたのです」

 そんなものがあったな。猶予期間だったはずだが。

「貴男が私を使用し犯罪者にならないと、私がここに居る意味がなくなります」

 犯罪者か……。そして君の存在理由が、それか。

 私が犯罪者にならないと、愛した君が、消えてしまう。

 私が犯罪者にならないと。

「だから人間は嫌よ……嘘をつくから」

 嘘じゃない。私が愛したのは君だ。凶器である君だ、証明してみようか――。


 気がつくと俺は、彼女の首を絞めていた。彼女、ドンキーは死ぬはずがないのではないか。何故なら凶器だから。だが絞めている間は、そんな事は忘れている。

 興奮して息を切らして果てた後、死なない彼女はこう言ったのだ――俺の頭を『掴んで』。

「愛してた……」



 俺は死ぬのか?

 息ができない、真っ暗だ……。

 真っ暗だよ……。


 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……

 荒い息づかいが、聞こえる。何処かの家で、婦人が、自分の夫を殺害した。

 手に、灰皿を持って。それで殴ったんだろう、男を。

「あああぁぁあああ」

 断末魔の様な悲鳴だった。


 愚かな。


 人は過ちを繰り返し、

 繰り返し、繰り返し、

 ゼロに戻ろうとする。


 許されるわけがないのに、許されようとする。

 何のためにだ。


 断ち切らなければならないのに、できない、誰かの手を借りたい。

 薬を頂戴。ちょうだい……それが無いと、生きていけないから……。

 私を許して。許して……優しい、誰か。



 玄関の、インターホンが鳴ったので出ると、真奈美が居た。

 心配して様子を見に来たんだ、と言った。玄関から肩越しに、後ろを見て彼女は不思議がる。「ひとりでずっと、何してたの……?」

 乱雑に散らかっていた部屋の中を見ては、首を傾げて困った顔をしていた。

「『彼女』と話をしてたんだ、ずっと……」

 手には、石でできた精巧な女性の像が握られて、少しだけ微笑んでいる。

 彼女の名はドンキー、彼女と過ごした数日は――夢じゃなかった。

 真奈美は、何もかもを知っているかの顔で、諭すように誘いかける。

「さあ。病院らくえんへ、行きましょう……」



《END》




 ご読了ありがとうございました。

 走り書きとなりました。細かい修正、ブログ、挿絵などは改めて後日となります。

 それではまた何処かで☆あゆみかん(H25.8.13)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ブログ あとがき ドンキー こちら


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ