泡絶者《アワダチ》
俺はデブリという怪物を切り伏せながら、ボイドの主を追いかけていた。
その人はすっかり逃げ腰になってしまっていて俺に背を向けて必死に走っていた。
「フィーティ・ア・ズーロ」
俺はそう唱えた。その言葉には『目測地点への高速移動』という意味が込められている……確証は無いが、俺はそう捉えている。
こういった能力はボイドに入った者へ平等に与えられる。しかし、能動的に使用できるのは俺達『泡絶者』のみだ。
主に近づいたその時、何か言いたげに口を動かし始めるのが見えた。
が、俺は有無を言わさずその人を刀で叩き切った。
その人は霧散して消えていった。
そして同時にこの世界も崩壊を始め、俺の体はベタ塗りしたような暗闇に溶けていった。
俺達の活動はこの繰り返しだ。
──
「もう遅いよ」
夢の中で一人の女性が、絞り出すような声でそう言い放った。
体に虫に食われたような穴が空いていて、その表情はただただ悲哀に満ちていた。
その言葉は自分でも信じられないほど……俺の心に重くのしかかった。
「はあっ、はあっ」
特に暑いといった感覚は無いのだが、目覚めた時には大量の寝汗をかいていた。
枕の側に置いていたスマホを取り、時刻と連絡の有無を確認する。
土曜日、時刻は午前10時前で連絡は一件来ていた。泡絶者としての先輩にして友人である海畑賽莉からだ。
『休日だしさ、今日の13時くらいにいつものファミレスで会わない?』と書かれていた。
あの人の事だから、この文章から読み取れる事以上の他意は無いだろう。
しかし13時か。今日はこの後11時から神田津市内の大きな広場に行ってパフォーマンスを行うつもりなのだが、三時間でどれほど日銭が稼げるだろうか。
……まぁ、断るのは悪いから『会おう』と送り返した。
個人的な悩みを聞いてほしい気持ちもあった。
そしたらまずは布団を出て洗顔と頭髪を整えに行く。
その後はトイレに行き、一袋5個入りのピーナッツパンを平らげ、歯磨きをし、着替えをおこなった。
服は上がブルゾン、下はサルエルパンツ。
最後に商売道具を詰めたリュックを背負って広場へ出掛けた。
……広場に着くと、見知った人が大勢居た。継続的に俺のパフォーマンスを見てくれている人だ。
一応言っておくと俺はヘブンアーティストと似たような資格を持っているから、ここでパフォーマンスを行う事に問題は無い。
「えー、ストリートパフォーマーの弦寿と申します。お時間がある方は是非見ていって下さい」
俺は自己紹介を行うと右手にラケットを持ち、卓球ボールを打ち上げ始めた。
左手で2個3個とどんどんボールを追加していきジャグリングのように代わる代わるボールを打ち上げる。
ボールが滞空している間にラケットを両手間でパスしたり、敢えて失敗した後に足で蹴ってリカバリーしたりと小さなバリエーションを混ぜたりしている。
何故こういう事ができるかというと、ボイド内で『フィーティ・ア・ズーロ』を使い続けてきた事で動体視力や反射神経が鍛えられたからだ。
十分ほど経った後、ラケットの代わりにボール入れを持って落ちてきたボールを一つずつキャッチした。
そこで今日初の投げ銭が行われた。
もちろん道具はこれだけじゃない。約束の時間に余裕を持たせるとして、残り二時間半フルに使って大勢を振り向かせてやる。
俺のパフォーマー魂に火が着いた後は二時間半ぶっ通しでパフォーマンスを続けた。
12時を過ぎるとさらに人が集まり、子供の客も増えた。
そうして何とかやりきり今は公園を出ようとしている所。ちなみに投げ銭は今回の食事代を余裕で出せるくらい集まった。
「ねぇ、すごかったよさっきの」
出口付近で少年に声をかけられた。顔を見るに終わり際に来てそこから終了まで見続けてくれた子だ。
「ありがとな、お兄さん来週またここでやるからよかったら来てね。……ところで気になってたんだけど君は一人で来たの?」
すると、少年の表情が少し暗くなった。
「うん。お母さんには友達と遊びに行ってくるって言ったんだけどね」
「へぇ、寂しいよなそれじゃ」
屈んで少年と目線を合わせる。
「でも、お兄さんがすごいことしてるの見てたから大丈夫だったよ」
「そっか、それはパフォーマー冥利に尽きるな。来週も11時から始めるからその時また会おうぜ」
少年の表情が明るくなった。
「分かった。お兄さんまたね」
「またね。後、行き先が決まってないんなら早く帰った方がいいと思うよ」
俺は手を振って公園を後にした。
少しいい気分になったからか、ファミレスへ向かう足取りは軽かった。
──
「えーと、俺はオムライスがいいかな」
「ふーん。写真とか撮るの?」
「……別に写真撮らない人でも頼むって」
対面に居る女性、海畑賽莉はニタニタと笑みを浮かべていた。
青髪おさげに琥珀色の目、目元には薄紫のアイシャドウ。服はオレンジ色のワイシャツに、臙脂色のジーンズを合わせている。
「じゃあ私はドリアにしようかな」
店員さんを呼んで注文をした。
「……賽莉、ちょっと聞いてほしい事があるんだけど」
料理を待っている間、俺は自分の悩みを賽莉に聞いてもらい気持ちで一杯だった。
「また夢の話?」
賽莉は興味無さそうに爪をいじり始めた。
「関係はあるけど違う」
「18の夏くらいから泡絶者を始めたから……もう一年以上経つか。その間でさ、活動内容に疑念を感じてきたというか」
「もっとキビキビ喋ってーー」
相変わらずの態度だ。
「俺達は霊能力探偵を自称して『最近不思議な世界での記憶が頭に残り始めた方へ、その世界の真実を知りたくありませんか?』とか」
「『最近気持ちが落ち着いてきたと同時に現実への執着が薄くなってきた方へ、その謎を解明いたします』とか言って依頼してきた人からお金取ってるじゃん」
「それで、結局その人のボイドに侵入&破壊して終了にしてるでしょ? それって良いことなのかなって」
賽莉は目線を爪から俺の目に向かって上げた。
「そうね。ボイドは『強い逃避願望を抱いた人にだけ知覚できる本人にとっての楽園』」
「そう聞かされてる以上はそう思うのも無理はない」
「でも、放っておいたらいずれボイド内で死んでデブリに変わるか、場合によっては現実世界にデブリ放って一般人に被害を出し始めるのは知ってるでしょ?」
「ボイドを破壊したっていう事実も本人にはどうせ分からないし、公益でしか無いと思うけどね」
「……まぁ、そうか」
楽園を壊して私腹を肥やす。
しかし、それは当人の感覚としても残らないから誰にとってもマイナスにならない。
ならないけど。
「まぁどうしてもなーーって感じなら、振漕さんに話す方が有意義だと思うけどね。26歳のエリート会社員なんて相談相手にはピッタリでしょ」
賽莉は腕を組み、椅子にもたれた。
「ごもっともだな、ありがと」
振漕灘礼さんはベテランの泡絶者だ。
……俺が高校生の頃、ボイドの事を相談しに行った時に担当してくれた人でもある。
と、話をしていたら料理が到着した。
食レポはできる人って凄いな。美味いとしか言えない。
近況報告をし合いながら食べ進めていると、窓の外に違和感を感じた。
視線を向けると窓の外では大男が歩いていた。
一目見て『人間じゃないな』と思った。
フードを深く被った人間のような外見だが、体の所々に亀裂と気泡がある。
間違いない、デブリだ。
「賽莉、あれ見ろ。人型デブリだ」
「本当だ、弦寿ちょっと接触してきてよ。あっ、後でちゃんと頼んだ分のお金貰うからね」
「あぁ、もちろん」
泡絶者にも役割分担みたいな概念はある。俺はこういう事が起きた場合、先陣きって接触を図る役割だ。
急いでオムライスをかき込み、店員さんに断ってファミレスを出た。
そしてデブリの後方に張り付いた。
現実へ越境したデブリの特性は様々だ。ボイド内の空間は逃避の原因によって変わり、そこに出現するデブリの性質もそれに追従する。
その事実から、俺達はボイドとデブリの事を粘土のような存在だと例えている。
……とりあえず、追跡した感じ一般人に興味は無さそうだ。さらには目的地も定まっていないと思われる。
デブリはボイドの主へと辿り着く為の重要な情報源だ、ある程度温厚であるならば消失は避けたい。
「あなたは誰?」
近づいて、ジャブとして『認識』を与えた。
しかし何の反応も無く歩き続けている。
「何か困ってます?」
次に『寄り添い』を与えた。次に軽くぶつかって『悪意』を与えた。次に進路を塞いで『制止』を与えた。
だが、どれも効果は無く進路を塞いだ時も俺の体をすり抜けていった。
ここまで反応を示さないデブリは珍しい。一旦、灘礼さんの見解でも聞こうかな。
「!? ……おいおい」
デブリを視界から外した途端。そいつは俺の左肩に右手を置いて俺の顔を覗き込み、無理やり目を合わせた。
顔にはマネキンのように造形だけがあって、全体に色々な人の目元の写真? が張り付いていた。
数秒見つめ合っていると、突然デブリはその姿を消した。
「思いの外、面倒な奴だったか」
今、俺は明らかに異常を感じている。視界に入った人間が次々に人型デブリへと変化していくのだ。
視界の隅に移動した人間は元に戻るようだ。しかし『戻った』と認識するとまたデブリに変化する。
もし本物のデブリが視界内に存在する場合、その対処は難しいだろう。
だから俺はこの現実から逃避する事にした。
……気がつくと俺は開けた草原の中に立っていた。
そして俺は刀を携え、軍人×忍者のような姿に変化していた。
ボイドの中は人によって違うと説明したが、実は共通点は1ヵ所だけある。それは遠景だ。
ボイド内の空に相当する場所には侵入地点の現実の風景が写っている。不思議なくらいにピントが合い、遠いのに近いといった表現が適当だろう。
「これで戻った時に解消されていれば良いが」
そう思った時、背後に何者かの存在を感じた。
振り返るとそこには件のデブリが立っていた。
ボイド侵入経験者は、他者と接触したままボイドに侵入する事でその他者を自身のボイド内へ連れていく事ができる。そして越境したデブリは侵入経験者と同等に扱われる。
では、侵入経験者同士が接触したまま侵入するとどうなるか。その答えはお互いのボイドが混ざり合い、自身の能力を行使できる。
「知らぬ間に俺と接触していたのか、お前」
デブリは反応を示さず、ただ立っている。
俺はデブリをしっかりと見つめながら、脱出を図った。
「!? はっ!」
図った瞬間デブリが地面を蹴って俺に急接近してきたので、即座に左へ転げて回避した。接触された場合、結局は俺が死ぬ事になるだろう。
そこから何度もいたちごっこを繰り返した。どうやら何がなんでもここから出したくないらしい。
「フィーティ・ア・ズーロ!」
俺は刀を捨ててスピード勝負に持ち込んだ。
その鬼ごっこの苛烈さは激しい草の揺らめきが証言してくれている。
「1テンポ遅いなぁ!」
背後を取った俺はデブリの頭に蹴りを思いっきり叩き込んだ。
そして吹き飛ぶ様を眺めつつ、ボイドを脱出した。
現実世界に戻ってくると視界の異常は消えていた。
「とりあえず、集めた情報は灘礼さんに整理してもらうか」
俺は灘礼さんに電話を掛けた。
「……もしもし弦寿君、自分に何か用かな」
「もしもし灘礼さん。実は今、越境してきたデブリに接触して情報を集めていて」
「つまりは自分にボイドの主の特徴を推測して欲しいという事か」
「はい! 今テキストで送りますね」
「あぁ、分かった」
送った情報は『行動に対する反応』『自分にもたらされた異常』『ボイド内での反応』の3点。
「なるほど、行動に顕著な偏りがあるな。視界に関する反応が多いが……ボイド内での行動がいまいちピンと来ない」
……そういえばボイド内であいつが反応したのは、脱出という行為だったな。
「灘礼さん。俺は一応、逃げるという行為に反応してるんじゃないかなって考えたんです」
「視線を逸らすとか、自然界ではそれに相当すると思いますし」
「それも可能性としては十分高いが、そうなると視界の異常はどう捉えるべきだろうか」
「ただ逃げる事に反応するようなデブリならば、この異常に関連性は見出だせない」
「確かに……そうですね」
「少しだけ時間をくれ。もしその間に君に何かあって繋がらないようなら、賽莉君の方に連絡をする」
「はい! ありがとうございます」
電話を切った。
普段のボイド主捜索はここまで難航しない。何故なら大体はデブリの特性も単純で、越境するくらいになるとその特性と似たような行動を主が近くでとっている可能性が高いからだ。
「……もし見つけられなかったら」
俺は、過去の出来事を思い出した。
──
中学二年生の頃、俺は身に覚えの無い記憶に辟易としていた。
自分は草原の中で寝転んでいて、周りにはよく分からない生物が居て、そいつらは俺に膝枕をしたり果物みたいな物を食べさせてきたりした。
物みたいな物を食べさせてきたりした。
気味が悪いけど心地よい。そんな相反する感情の波に揺られて、俺はさらに精神を磨り減らしていった。
気を抜けばあっちに行きたくなって仕方がなかった。
……ある日の放課後、俺は近くの寂れた公園に足を運んだ。一人になりたかったんだ。
でもそこには先客が居た。その女性は一人で、自主的に公園の掃除をしていて、俺の方を見ると素敵な笑顔を見せた。
一目惚れだった。俺はその日から毎日そこに通った。
彼女は同じ中学の三年生で、生徒会員だった。本格的に気になり始めていた俺は、こんな日々が続くといいなって思ってた。
いつだったか、俺は彼女に『私の良いところを言ってみて』と言われた。だから『裏表が無くて接しやすい所が好き』と答えた。
それを聞いた彼女は笑みを浮かべながら俺の手を両手で握った。
恐らくその時どこかから越境したデブリが迫ってきていたのだろう。気づけば俺は、彼女のボイド内に侵入していた。
ボイドの主としての彼女の体には虫に食われたような穴が空いており、警察帽を着用した4本腕の異形だった。その内の2本は頭を抱えたようなポーズをしており、教室の中で人や怪物に化けたデブリ達を残りの拳で執拗に痛めつけていた。
デブリ達はそんな彼女を称えるような言葉を嬉々として吐いていた。
そして、俺は教室の窓から見える風景に既視感を感じていた。現実世界の景色を張り付けたような異質な空は、曖昧な記憶のそれと同じだった。
じきに彼女はこちらに顔を向け、手をかざしながら
呟いた。
『ポティション』と。
途端に俺の体は浮かび上がり、彼女が手を振り下げるのに同期して床に思いっきり叩きつけられた。
痛かった。衝撃が骨を伝って全身を駆け巡り、俺はここが夢の中ではない事を一瞬にして悟った。
逃走を指示する脳に反して足が震え出し、動けないのをいいことに何度も何度も叩きつけられた。
俺は彼女の容姿・行動から何か暗い物を感じ取り、必死に呼吸をしながら『助けたい』といったような寄り添いの言葉を投げ掛けた。
すると彼女は振り下げる手を止め、悲哀満ちた顔で呟いた。『もう遅いよ』と。
彼女は起き上がったデブリに腹を貫かれると、どろどろとした液体に変わった。
そして液体が再度形を成すとその姿は周りのデブリそのものだった。
……その後、叫びながら教室を出た所までは覚えている。
──
周りの人間を観察しながら街を歩いていると喉が乾いてきた。ので、近くのショッピングモールにある自販機で飲み物を買う事にした。
「……おっ、また会ったな」
飲み物の自販機の隣にはアイスの自販機があって、それを先ほどの少年が眺めていた。
「あっ、こんにちは」
「それ、欲しいなら一つ買ってやるよ」
「良いの?」
「あぁ。誰かと遊べなくても、金さえあれば楽しみは買えるって事を教えてやる」
俺は一番安いバニラアイスのボタンを押した。
「バニラか」
「あんまり好きじゃないか?」
「今は少し違かった……かな」
「まぁ、素直にこれ食べろ」
少年はその場で食べ始めた。
「……お兄さんってさ、天国ってあると思う?」
「天国? 俺はあると思うよ。というか、お兄さんは天国みたいな所に行った事もある」
「どんな場所だった?」
「あー……辺り一面に草原があって、空の代わりにこの辺の景色が写ってるの」
「似てる」
「ん?」
「僕の記憶と似てる」
「ん?」
少年の体から人型デブリが顔を出した。
「……なぁ君、友達になろうぜ。ほら、握手しよう」
「別にいいけど」
俺は少年と握手をし、少年のボイドに入った。
出現地点はどこかの家の一部屋。四方向に扉があるが、まずは正面の扉を開いた。
扉の先には神田津市の町並みが広がっていた。
が、そこに居る人々は皆デブリだった。
「主を隠すタイプか……面倒くさい」
デブリ達は俺に興味を示していないが、あのデブリがここから越境したと考えると。
……俺は脱出を考えた。
予想通り周りのデブリ達は一斉に襲いかかってきたので、その場で回転切りを行い一掃した。
デブリを切り伏せながら進んでいると、目の前に新たな扉が出現したので足で蹴って入った。
小学校、公園、動物園、病院。色々な所を駆け巡ったが少年は居ない。
そして今、俺は砂浜に立っている。
「少年は確か一人で公園を歩いていたな、母親に友達と遊びに行ってくるって言って。……もしかして居場所が無いのが悩みなのか?」
「デブリの特性からして、悩みの本質は視界に関係しているはず」
……まさか。
周りのデブリを倒し尽くしていた為、俺はボイドから脱出しようとした。
そうしたら、真の部屋にたどり着いた。
そこは巨大な撮影スタジオのようで、壁には沢山のカメラと少年の写真があった。
スタジオの中央では頭をソーラーパネルに置き換えたような長身の異形がソファーに座っており、周りに居るデブリ達と楽しそうに談笑していた。
少年だ。
「フィーティ・ア・ズーロ」
俺は即座に少年の近くへ移動して刀を振った。
だが、その刀が切ったのは談笑相手のデブリだった。
その他のデブリは少年を守りながら奥の方へと逃げていく。
「なんだよ……俺が悪者みてぇじゃんかよ!」
駄目だ。少年が何か、俺に聞こえる形で、不愉快な事を言う前に。
切らなきゃ。
「退けよ! お前らぁ!」
切らなきゃ。さっさとこのボイドを破壊しなきゃ、少年の為にも。
しかし、無情にもその時は訪れた。
「何で皆を殺しちゃうの!? やめてよぉ!」
あーあ。その言葉を聞かない為に、今までさっさと切ってたんだけどな。
俺の中で何かが弾けると同時に刀は消え、姿が戻った。
そして、大勢のデブリが俺に群がってきた。
突然、俺と群がってきたデブリ達の間にドーム状の空気膜が現れた。数秒経つとそれは弾け、衝撃波でデブリ達を粉々にした。
「本当に勘弁してよね。あんたの足は必要なんだから」
賽莉だ。
「……なんで来れたんだ?」
「振漕さんから電話が来てさ、『人からの認識に乾いている人物』っていう推測と『弦寿が電話に出ない』って事を伝えられたのね」
「そして街をブラブラ歩いてたらさ、ショッピングモールのベンチであんたと子供が話しているのを見かけたわけ」
「その会話の内容が本当に薄っぺらいしギリギリ成り立ってる程度だったから、これはボイドに入ってるなって思ったの」
とりあえず助かった。
「というかその姿は? 元に戻ってるじゃん。まさか戦意喪失したの?」
「……拒絶されたんだ。明確に、俺の行動を」
「拒絶されてもされなくても、やった事によって起きる結果は同じだよ? この子だけが特別なの?」
「……あの子、恐らく家にも学校にも居場所が無いって思ってるんだ。その中で、ここは特に安心できる場所なんだと思う」
賽莉の目がゴミを見るような目に変わった。
「あの子がここで死んだとしても、責任を取らなくていいから楽って事?」
体から熱が引いた。
「あんたの助けたいって思いは無責任で一方的。申し訳無さだって建前なんでしょ?」
「泡絶者は『反しがついた矢』なの。相手をより傷つける事になっても、刺さったら抜けないようじゃないと駄目なの」
「脱出したらもう辞めな? 特別に友達関係は切らないであげる」
無責任で一方的か……『もう遅いよ』ってそういう事だったんですか?
夢花さん。
少年はデブリに抱えられて遠くなっていく。
「……フィーティ・ア・ズーロ」
「おっ、やるんだ」
俺は一直線に少年の元へ向かった。
「来ないで! 来るな! 来るなぁっ!」
ごめん。
俺は抱えているデブリごと、少年に向かって刀を振り下ろした。
──
「……わけでさ、バニラはいつでも美味しいけど。チョコは今はこれが一番って時が結構あって」
どうやらアイスの話を続けていたらしい。
「まぁ~~分かるな、それは」
辺りを見回すと、入り口の方に賽莉が立っていた。
「……なぁ君、明日もパフォーマンス見に来てくれるか?」
「うん。見に行くよ」
「そっか。じゃあさ、こういう事やってほしいとか無い? どんなに難しいものでもマスターしてくるから」
「ははっ。じゃあ、ボールに乗りながら右手でけん玉して、左手で僕とじゃんけんして」
「それにしよう。絶対にやってみせるからな?」
「後、悩みとかあったら遠慮無く聞かせてな。俺達は友達なんだから」
俺は少年とグータッチした。




