番外編:キャット&エクスプロージョン 〜チョコ事件〜
「なに?悪事を働く人間がまた現れたというのは本当か?」
「はいですにゃ!マタタビ公園で、人間がちょこれーとのお菓子をポイ捨てしてましたにゃ!」
「人間め……!猫たちが食べたらどうするつもりだ!」
窓際で日向ぼっこをしていた猫が、報告を聞いてのそりと体を起こす。
ひと伸びしてフワフワの毛を揺らすと、器用に鍵を外して窓を開けた。
頭と背中だけ黒く、それ以外は真っ白――妙な模様を持つ彼は、人間の一軒家に潜伏している猫である。
芝生に飛び降りると、黒白茶の三毛猫の隣に並んだ。
「愚かな人間め!今こそ粛清の時だ!行くぞ同志よ!」
「行くですにゃー!!」
二匹は「ニャー!」と雄叫びを上げ、地下本拠地へと駆け出した。
◇ ◇ ◇
――地下本拠地。
「む、今日は元帥と大将しかいないのだな」
「中佐がいないなんて珍しいですにゃー!」
暗い部屋の中央、椅子に座った黒猫――大将が金色の瞳で振り返る。
隅のクッションでは、巨大な毛玉――元帥がスヤスヤ眠っていた。どんな音でも起きない大物だ。
「大将、他の者は?」
「ああ。今日来たのは大佐と少尉が初めてだ」
大佐と呼ばれた猫――ボムキャット大佐は、背に手榴弾ぎっしりのリュックを背負い、頭には丸いサングラスを引っ掛けている。
その後ろでぴょんぴょん跳ねるのは、刀を背負った元気印 ソードキャット少尉だ。
「元帥はいつも寝てるにゃ!」
「あの方は長く生きているからな。お前のうるさい声でも起きないんだ」
「なるほどですにゃ!」
大将の嫌味などどこ吹く風。ソードキャット少尉は胸を張って元気に返事をする。
「ソードキャット少尉、準備しろ。出撃だ」
「はいですにゃー!」
せわしなく駆け回る少尉を横目に、大将が問いかける。
「で、またこの町で何かあったのか?」
「ええ。今日も現れたのですよ、我ら猫の敵が。……人間ども、粛清の時間だ」
二匹は並び立ち、堂々と戦場へ向かって歩みを進めた。
◇ ◇ ◇
「同志よ、現場に到着したぞ!」
「にゃー!甘い匂いがするですにゃ!」
マタタビ公園の片隅。ベンチの下に銀紙に包まれたチョコ菓子が転がっていた。
もし子猫が口にしたら一大事だ。
「なんと卑劣な罠!人間どもめ、猫を毒牙にかける気か!」
「間違いないですにゃ!絶対に陰謀ですにゃ!」
サングラスを光らせるボムキャット大佐。
刀を抜こうとするソードキャット少尉。
「待て、少尉!その刀で斬ったら破片が飛び散るだろうが!」
「はっ……確かにそうですにゃ!」
二匹は菓子の周囲をぐるぐる回り、慎重に作戦を練る。
その時――。
「にゃっ!?人間が戻ってきたですにゃ!」
「ちっ……気づかれたか!」
近くの芝生に寝転んでいた人間が立ち上がり、突然こちらへ近付いてきた。
「猫ちゃんたち〜。ゴミを食べたらダメだよぉ」
そう言うと、人間は菓子の包みを拾い上げた。
そしてそのままゴミ箱に投げ入れる。
「…………え?」
「ゴミ、ちゃんと捨てたですにゃ……?」
沈黙する二匹。
大佐がサングラスをずり下げ、渋い顔で呟く。
「……作戦中止だ。今回の件、人間に一分の理あり」
「にゃ、にゃんと……!爆弾も刀も無駄になったですにゃー!」
二匹はしょんぼりしつつも、どこかホッとしながら基地への帰路についた。
「粛清どころか……平和だったですにゃ」
「まあ、そういう日もある」
――猫軍団の戦い(?)は、今日も平和に幕を閉じるのだった。