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ただ日差しが強い日

 夏。日差しがいっそう強くなり、多くの者達が日陰で涼む季節。

 建物を立てる大工は疲弊し、作物を収穫する農家は太陽を睨み、商売に躍起になる商人はあまりの暑さに嗚咽する。


 この季節は、皆が皆、暑さに体を溶かされる思いだった。


 しかしながら、こんな季節でも全力で駆け回る者がいた。


「わーっはっはっはっはーーー!!!『晴宮』一ぃーー!!」


 この国の一番を名乗りながら、太陽の熱を跳ね返す地面を駆ける幼女がいる。

 暁色の髪を一つに束ね、手には短い木刀を握りしめた幼女の笑顔は、太陽に匹敵するほど眩しかった。


 見ている人を元気づけるような幼女。街を闊歩する彼女を、背後から猛スピードで走ってくる疾風が捕まえた。


あかつき様!!勝手に出歩いてはなりません!!」

「んなっ!?もう気づいたでござるか!?」


 じたばたと暴れる幼女、斬咲暁ざんざきあかつきという名を持つ彼女は、自らを抱き抱える女性を子供らしいジト目で見つめた。


 抱き上げた小さな生き物からの可愛らしい抵抗に、背の高い女性は大きくため息を吐いた。


「あのですね、暁様。私は紅葉様より、あなたとお家でお勉強をするという大事な任務を任されているのです」

「いやっ!絶対に断るでござる!勉強など、まだ輪廻の小言に耐えている方がいいでござる!」

「私が小言を言うのは暁様が大事をカマしてしまうからです!!」


 じたばたする暁を何がなんでも離さないその女性は、数年経って体が成長し、灰呂に匹敵するほどの背丈を手にした輪廻である。


 印象は少女から女性へと変化し、体つきは女性らしい起伏に富んで、顔からは幼さが消え去り美しさが増した。


 年齢も二十を超え、屋敷の人からはそろそろお相手を、なんて話を最近されるようになってきた。


 それを知ってか、生意気な暁は輪廻を見上げて、


「そんなお局だから夫が見つからないのでござる」

「私は生涯、独身です!」


 小さくて軽い暁を糸で縛り上げ、屋敷へと連れ帰っていく輪廻。暁は必死に抵抗し、なんとか糸を突破しようとするがそれが成されることはなかった。


「……えへへ」

「なんです?」


 糸でぐるぐる巻きにされ、小脇に抱えられた暁の笑い声に、輪廻は訝しげに振り返った。元気で傍若無人なこの幼女は何を考えているのかと警戒したが、そんな輪廻の思いと裏腹に、暁は純粋な微笑みを輪廻に向けて、


「楽しいでござるな!輪廻!」


 ニカッと向けられたその笑顔が、灰色髪の誰かのそれと重なって──


「……えぇ、全くです」

 

 そんな感嘆混じりの返答を、輪廻は思いがけずに零してしまったのだった。

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