ー第1話あらすじの続き
第1話をあらすじに書いてしまったので、その続きから
「今宵は良き武者を見た。天晴れじゃ」
咲姫は馬を返して、城方に消えた。
ー千っ!来て!ー
千は我に帰った。
下階から香澄さんが呼んでいる。
降りて行くと、ティッシュの箱を持った香澄さんが廊下の壁に張り付いている。
「千、羽虫が出た。やっつけて」
千は部屋に入ると。LED燈にぶつかっては跳ね返っている羽虫を、古武道の呼吸でスッと摘まんで、窓から外に放した。
「姐さん。外に放しました。もう大丈夫です」
恐る恐る香澄は部屋に戻ってきた。
「千は優しいな。殺さずに放した」
「姐さんも、ティッシュの箱で潰さなかったじゃないですか?」
「当たらんかっただけ」
千は苦笑した。
「ありがとう、寝てたね?」
「いえ。小説を書いてました。ちょうどきりが良かったので大丈夫です」
「何を書いてた?」
「戦国時代の姫とサムライのラブストーリーを」
「千はロマンティストやな」
「編集長に、今時ネチネチしたラブストーリーなんか売れへんって言われます」
「おっさんにラブストーリーは判らん」
「いえ。東大文学部卒の28才美人女性編集長です」
「インテリの美人にロマンは判らん」
「姐さんも美人じゃないですか?」
「私もロマンなんて判らなかった。三上がロマンを教えてくれた」
「臭い立つようなロマンティストでしたね」
「それが祟った。あんな家より、三上に生きてて欲しかった」
千は静かに黙礼して、3階に戻った。