異世界転生いとおかし ~普通異世界転生ってナーロッパじゃないの? 私が着たかったのはドレスであって雅な着物ではないのよ~
視界がフェードアウトしていく。
その瞬間、私は光の中へと包み込まれて、これ来たなって思った。
社畜からの過労死。つまりこれはあれだろう。
異世界転生。
私もついに、ナーロッパの世界へと行けるのか。
そんな夢物語を暗闇の中で思いながら、自嘲気味に笑う。
本当に、異世界転生できたらいいのに。そしたら、少しくらい私も自分生きててよかったなとか思えそうなのに。
けれどきっと、迎えるのはただの静かな死なのだろう。
「あーあ……してみたかったなぁ……異世界転生」
暗闇の中へと落ちていく。
ここで、私の世界は終わり。
何も成し遂げることもできず、誰かに必要とされることもなく。
ただ、一人生きて死んだだけ。
そう、思って目が覚めた瞬間、私はハッとした。
私の小さな体は、現在五歳。これまで普通の子どもとして生きてきたのだけれど、今まさに雷に打たれたかの如く前世を思い出した。
「まぁ、いとおかし」
「いと……おかし」
おほほと会話をする女性を私は柱越しに見つめながら、さっとその体を縁の下へと隠す。
手に持っていた毬をぎゅっと抱きしめながら、私は自分が今、どんな状況にいるのかがよく分からずに、困惑する。
「いとおかし……」
いや、いややいやいやいや。
いとおかしとか、どういうことよ。意味すら分からないよ。
日本人だったけれど、日本語わかんないよ。
そう、考えながらも私は眉間にしわを寄せて、それから考える。
「ちょっと待って、違う。ここ……日本ではない。だって……」
ざわめきが聞こえ始めた。
「都に、妖魔が出たらしい」
「なんと。こわやこわや」
そう。この世界には妖魔という恐ろしい生き物が存在する。つまり、日本ではない。
つまり……ここは、定義上は……異世界に、なるのだろうか。
「まって、私の理想はナーロッパ」
自分の姿格好を見回して、絶望する。
「違うのよ。私が来たかったのは美しい煌びやかなドレスであって……こんな、こんな、いや綺麗だけれど、美しい着物ではないのよ!」
その場に私がしゃがみこんだ時、後ろから、雅な男性が私の両脇へと手を入れ抱き上げる。
「織姫。こんなところにいたのか」
織姫……。私は織姫。ちょっと待って。私一年に一度しか好きな人に会えないの? いやいやあれは違う。
そう、私は織姫という名前だけれど、別にあの有名な織姫なわけではない。
右大臣が三の姫である。
右大臣……。つまり左大臣いるのか。
私はそんなことを思っていると、私を抱き上げた男性を見つめた。
なんとも雅な男性だ。
「臣。下ろしなさい。無礼ですよ」
「臣は姫の婚約者でございます。ですので、無礼ではありません」
五歳にして、十五歳の婚約者がいる私。
だけれど、嫌なわけではない。何故ならばこの臣、草加部臣は王都一の強者と呼ばれておりその美貌もなかなかの美丈夫なのだ。
「くっ……納得いきませぬわ! 私は、私は煌びやかなドレスを着るのが夢だったのに!」
「あははは。美しき衣ではありませんか」
「違うわ! 私が着たいのは、ドレス! そして婚約破棄とか悪役令嬢とか!」
その言葉に臣の視線が鋭くなる。
「婚約……破棄? まさか、この臣と? ……姫、そのようなこと、口にはせぬことです。この臣は、姫に一生をすでに誓っております。たとえ帝であろうとも……この臣を止めることは出来ませぬ」
愛が重い。
私は空を見上げて叫んだ。
「違う、断じて違いまする! 私が、私が求めていた異世界転生は、これでは、ありませぬ!」
私の声は、異世界の空へと響き渡った。
さっき喋っていてつい、和風書いて見たくなったらこうなってました(´∀`*)ウフフ
ふふふ。楽しかったです。読んでいただきありがとうございます。和風異世界恋愛いつか書きたいなぁ。
お星さま☆とブクマよければつけていただけると、飛び上がって喜びますね!
ぴょんぴょーん!
コミカライズ「悪役令嬢はもう全部嫌になったので、記憶喪失のふりをすることにした」1巻が重版しております! 皆様ありがとうございます!