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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

第4帝政における『ハーフエルフ』という呼称についての注意喚起

作者: BaKaiM


 一般にハーフエルフとは「混血のエルフ」として邦訳され、今日の第4帝政における現実として片親が――往々にして母親がエルフであるつがいの子供を指し示すものである。

 しかし遡ること200年前に生まれたハーフエルフという言葉の語源について、大きな変遷を経たものであるという点を忘れてはならない。

 過日も帝国南部のとあるエルフの森に調査に赴いた人口調査官が安易にこの語句を用いたことで現地民と深刻な摩擦を引き起こし、結果として武力衝突に発展している。

 特に長命種のエルフにとって、200年という歳月は極めて最近の時間感覚であるという点を留意するべきである。

 今回開催が予定されている帝国アカデミー主催の長期学術調査の対象地域に、複数のエルフの森及びエルフの大貧民街が含まれることを鑑み、以下にハーフエルフという言葉が生まれた背景を簡潔に解説する。

 学術調査に参加する一同は下記の内容を把握し、現地での言動に留意をすること。

 また、下記の内容を把握した上で各々で該当地域の歴史的背景や習俗について下調べを行うことを期待する。



 ハーフエルフという言葉が生まれたのは200年前の第3帝政の末期であるとされている。

 当時の第3帝政は極めて不安定であり、皇帝の権力は失墜し、各地で軍閥が組織される様相を呈していた。

 各地の軍閥で盛んにおこなわれたのは、亜人種族に対する略奪であった。

 今日の亜人種族は帝国国民として扱われるが、第3帝政においては皇帝の同盟者としての地位にあった。

 中央――すなわち皇帝に対して叛意を示す地方軍閥にとって、亜人種族は敵勢勢力として扱われる場合が多かった。

 地方軍閥は皇帝の力を削ぐ目的で、また物資や資金獲得の目的で積極的に亜人種族に対する略奪に精を出したのである。

(帝国北部辺境のエルフ連合のように地方軍閥と結びついて独立を模索し、第4帝政成立時に軍閥もろとも族滅の憂き目にあったコロニーの例もある)


 亜人種族の中で特にエルフの勢力は強大で略奪が難しく、しかし略奪の見返りが非常に大きい存在であった。

 エルフの作る霊薬や木材、そして何よりもエルフそのものがとても価値のある物資であった。

一般にエルフは長命かつ人間種から見て美形が多いと言われる。

 魔法の扱いは人間種と比較して優れており、長命であることから武芸の研鑽の時間も人間と比較して長く確保できる。

 このような点からエルフは捕獲し、契約魔法によって奴隷にすることができたなら極めて高い経済的価値を有した。

 各地の軍閥は挙って各地のエルフの森を攻撃したが、帝国南部辺境以外の地域ではほぼ例外なくエルフによって撃退されている。

 少し様相が違ったのが、帝国南部辺境地域である。

 南部辺境地域においては、当時確認されていた17のエルフのコロニーのうち9のコロニーが軍閥によって略奪を受け消滅した。

 略奪を受けたコロニーからは一切が奪い去られた――食料も財宝も、エルフさえも。

 略奪され連行されたエルフの多くは女性や未成年であった。

 これはエルフのコロニーにおいて、一般の人間の国家と同じくエルフの成人男性が防衛のための主戦力とされていたからである。

 エルフの戦士たちは妻や子供を守るために命を顧みず戦い、力及ばず戦場の夜露と消えた。

 略奪を受けて連行されたエルフの女子供は、略奪した成果の証明としてその右耳を切り取られることになった。

 奴隷となったエルフたちのなかでも、成人女性の多くは優れた容姿から愛玩目的や愛妾として帝国内外へと輸出されて行った。

 そして庇護者を失った子供たちや年老いた老人たちは一か所にまとめられ、魔力を用いた汚泥処理等に従事させられた。

(これがのちのエルフの大貧民街のルーツとなる)


 やがて後に第4帝政を開く太祖の軍勢によって帝国南部辺境の軍閥は討伐され、大貧民街のエルフたちも奴隷身分から解放されることとなる。

 しかし、大貧民街のエルフたちはそのまま大貧民街で生活を続けるしかなかった。

 もともと南部辺境のエルフたちは尚武の気質を貴び、時には選民思想にもつながりかねないほど気位が高かった。

 南部辺境で勢力を維持し続けた8のエルフのコロニーにとって、戦いに負けて片耳を失ったエルフは惨めな負けの象徴にしか映らなかったのである。

 片耳を失いみすぼらしい格好で汚泥に汚れる大貧民街のエルフたちを、負けることのなかったエルフたちは「片耳の負け犬」という侮蔑を込めてハーフエルフと呼び蔑んだのである。

 また大貧民街を形成した片耳のエルフたちであるが、その多くの女性が人間との間に子をもうけることとなった。

 これは片耳のエルフたちが奴隷身分から解放された後も極めて低い所得水準の仕事に就くことしかできず、多くの女性が『副業』に身を染めていたからだと言われている。

 混血の子供たちは当初は「ミックス」だとか「バスタード」などと言われていた。

 しかし森に住むエルフたちが呼ぶハーフエルフという別称と混同されて、混血の子供たちについてもハーフエルフと呼ばれるようになったのである。

(なお、愛玩目的や愛妾として輸出されたエルフの女性たちについての足取りは一切不明であり、現在までのあらゆる調査は不首尾に終わっている)




 第4帝政の今日では、等しくあらゆる人間も亜人種族も帝国国民であるとされている。

 気位が高く選民意識が高い南部辺境の森のエルフたちの中でも、人間との子供を設ける例が少なからず発生している。

 しかしそれだけに、安易に混血の子供をハーフエルフと呼称することは避けるべきである。

 エルフの平均寿命は400歳であると言われている。

 彼らにしてみれば200年前とは思い出せる程度の昔でしかない場合が多いのだ。

 学術調査の過程でいらぬトラブルを抱えることのないよう、言動には注意を払うように。



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