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とあるフードライターの異世界謎グルメレポ

「は? 何でエルフがいるわけ?」


 ある日、異世界転移してしまった。中世ヨーロッパ風の商業地区らしい。肉、魚、野菜などの屋台や菓子を売る店が連なっていたが、普通の人が少ない。


 耳がとんがったエルフ、羽が生えた妖精、頭に耳が生えている狼男など、どう見ても異世界。


 といっても俺は、さほど動揺はしていなかった。

なぜか俺のバイト先のファミレスのバックヤードと繋がっているらしく、普通に行き来ができたからだ。


 ちなみに俺の本業はフードライター。日本各地の変わったものを飲み食いしながら文章を書き、最近は大手出版社から本の依頼も来ていた。


「だったら、異世界で美味いもんないかね」


 フードライターを職業にするぐらい俺は美味いもん好き。酒も好き。菓子も好き。アラサーになって親からは「正社員につけよ」と怒られていたが、俺はそんな生き方は向いていない。気ままに美味いものを食べて、文章にし、みんなに知って貰う事に一番生きがいを感じていた。


「おお、この変なパイは何だ?」


 市場の屋台へ行くと、珍グルメも多い。羊の内臓の煮込み料理や鶏の羽付きのパイ、魚の形のクッキーなど、日本では見た事ないものばかり。


 俺はボディランゲージを駆使し、屋台で雑務をする代わりに、珍グルメを試食させて貰えないか交渉を試みた。


 やはり俺は腐ってもフードライター。変な食べ物を見ると、興奮して食べたくてなってしまう。


 拙いボディランゲージだったが、屋台のおっちゃんは、この交渉を受け入れてくれた。ダークエルフで見た目は怖いが、話せば分かるらしい。ボディランゲージも案外伝わるもので、面白いものだ。


 皿洗いや料理の下味を手伝ったり、お釣りを数えたりして、鶏の羽根つきのパイをゲット。丸い一口パイに鶏の羽根が何本か飾ってある。見た目は結構グロテクスだったが。


「何で羽根なんてつけてるんです?」


 ボディランゲージで聞いてみたが、これは伝わらなかった。


「まあ、いいか」


 俺は屋台近くの簡易テーブルと椅子がある広場へ向かった。ここでは異世界人達が屋台で買ったものを食べているらしい。


 広場の前方では、アイドルのようなエルフに集団が歌や踊りを捧げていて賑やかなだ。歌詞は全く分からないが、エルフ達は涙ながらに踊っていて、熱が入っていた。


 よくも悪くも宗教じみた雰囲気があった。もしかしたら、エルフ達は自然の恵みに感謝して、踊りを捧げているのだろうか?


 ふと、周りで食事をしている異世界人も熱心に祈りを捧げ、感謝してから食事を始めていた。日本、いや、現代人には滅多に見ない光景だった。


「ああ、そうか」


 この羽根つきのパイの謎も解けた。見た目はグロテスクだったが、羽根を飾る事で、自然の味を食べている事を伝えているのか。そうする事で、より感謝の気持ちを湧き上がらせているのかもしれない。


「なるほど、そういう意味か」


 単なる飾りでもなかったようだ。意味がわかれば納得できる。どんな食べ物でも、その地域の文化や想いが宿っているのだろう。


 俺は羽根の飾りを避け、パイを食べてみた。正直なところ、味は美味しくはない。薄味で、もう少し出汁、塩、醤油などを足したくなる。


 しかし、飾りの羽根を目にやると、これも自然の恵みを頂いている事がわかる。味ではない何かが胸に押し寄せ、きゅんとする。哀愁というものかもしれない。


 思えばスーパーの肉、魚は加工されたものを買っていた。そこから自然の恵みを頂いている事を想像するのは、難しいかもしれない。


 一方、このパイは、誰かの命を頂いている事がよく分かる。製品を食べているのではない。自然の恵みを頂いているのだ。俺は感謝の気持ちでいっぱいになり、この飾りの羽根を涙目で見つめていた。


 こんな食文化のある異世界に敬意も感じる。現代知識でチートなんてとても出来ない。これは素晴らしい異文化ではないか。


 さあ、帰ったら異世界の珍しいグルメについて文章を書こうではないか。


「ご馳走さま。とても美味しかったです」


 感謝の気持ちでいっぱだ。誰とでもなくお礼を呟くと、すぐに日本の帰り、この異世界のグルメレポを書き上げた。


 ネットにアップすると、意外にも好評で、異世界の珍グルメの謎を解き明かしてくださいというコメントも多く届いた。


 それも面白そうだ。


 一見、違う文化のグルメだが、どんな背景や事情があるのかと想像すると楽しくなってきた。


 グルメは味だけじゃない。自分の常識や世界を壊してくれる異文化って面白いではないか。自分だけが正しいなんて思っていたら、きっと視野が狭くなり、楽しくない。


「よし、異世界の変な料理の謎を解くぞー!」


 俺はワクワクしながら、再び異世界へ旅立って行った。

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