表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/32

乙女ゲームな異世界で破滅フラグを折っていいですか? 食堂のおばちゃん、異世界で悪役令嬢と探偵始めます

 私は学生食堂のおばちゃん。職場ではベテランで、学生たちからも慕われていた。名前はタビサ。三十七歳。独身で実家暮らし。剣と魔法の国の都で、貴族のご子息や令嬢が集まる学園の食堂が職場だ。給料もよく何の不満もなかった、ある日。


「うん?」


 皿洗いの仕事をしている時、急に悟った。この世界は乙女ゲームの世界なのだと。


 いわゆる異世界転生してしまったらしいが、前の世界の「私」は死んだ記憶はない。そもそもどんな人間だったかも分からないが、乙女ゲームの設定、絵、キャラクター、シナリオが洪水のように頭へ流れていた。


 ゲーム名前は「異世界カフェで探偵始めました〜容疑者全員から告白されて困ってます〜」だ。乙女ゲームだが、コージーミステリ要素のある作品で、ヒロインは容疑者全員から求愛されながら謎解きも進行していく。ちょっと変わった乙女ゲームだった。


 確かゲーム製作者の一人がアメリカのミステリマニアで、ネット小説でも異世舞台のコージーミステリを書いていたとか。その後、アメリカ人が書いた異世界舞台のコージーミステリが受賞し、日本でも翻訳され、この製作者がブチギレ。「私だって異世界コージーミステリ書いていたのにー。別にパクリじゃないけど、この設定が独創的とか言われて腹立つわー」と怒り狂いながらこの乙女ゲームが出来た経緯があるらしいが……。


 そんな背景を思い出しつつ、私はこの先の事を考えたら、笑えない。


「私、殺されるじゃん!」


 ゲーム序盤、殺人事件が発生するが、その被害者は私だった。確か犯人は悪役令嬢。食堂のおばちゃんである私が、悪役令嬢がヒロインのいじめ工作している場面を偶然見つけ、口論の末、殺されたというシナリオだった。


 ヒロインにこの犯罪も暴かれ、断罪され、ざまぁ展開になるのだが、殺された私については誰も覚えていない。ゲーム内では名前も間違えられていた。


「ああ、どうしよう。私、ゲーム最初で死ぬじゃん。破滅フラグ立ってるー」


 とにかく殺人事件を防ぐのが第一だ。私はまず、悪役令嬢・ローゼと仲良くなり、破滅フラグを折ることに決めた。


 確かローゼは貴族の娘だが、両親に無視され、愛されてない設定だった。きっと愛に飢えていたから殺人事件なんて起こしたのに違いない。


「ローゼ、一緒に食事をしましょう」


 仕事が終わると、悪役令嬢のローゼを誘い、街に出向き、よく食事に行くようになった。庶民向けのカフェでパスタ、スープ、牛丼などを食べた。日本人が制作者なので、中世ナンチャッテヨーロッパ異世界でも庶民の店には日本食もある。


「ふん、私はこんな庶民向けの調理なんて食べないわ」


 最初はローゼも私と食事する事に嫌がっていた。金髪縦ロール、鋭い顔という悪役令嬢風のルックスも怖かったが、ちゃんと話してみると、中身は普通の子。


 貴族社会の重圧や、結婚相手を探さなければいけない事などを愚痴る姿は、同情してしまうぐらいだった。破滅フラグとか関係なく、ローゼと友達になりたいと思う。


「そんな悩むんじゃないよ。悩んだら、いつでも食堂のおばちゃんに相談しな」

「ありがとう、タビサ。話していたら、スッキリしてきたわ」


 こうしてローゼと親しくなり、仲良くなってきた。これだったら破滅フラグも折れてきただろうと安心していたが、ローゼの家が没落。


 殺人事件は起きなかったが、この辺りは乙女ゲームのシナリオ通りらしい。修道院に行くのは嫌だと泣いていたローゼだが、食堂で雇う事に決めた。万年人手不足だった食堂ではあっさり許可が出て、ローゼと一緒に働く事の決まり、私も張り切って彼女に指導していた。


「玉ねぎを切る時は、コツがあってね」

「タビサ、玉ねぎって泣けるよ。切るだけでこんな難しいの?」


 最初はローゼも慣れない仕事に戸惑っていたが、慣れてくると、笑顔で働いていた。今では私ともすっかり親しくなり、一緒に通勤しているぐらいだったが……。


 今朝、ローゼと一緒に出勤し、更衣室で着替えようと扉を開けた時。


「いやああああ!」

「きゃあ、なにこれ!」


 私もローゼも悲鳴をあげていた。そこには死体があったから。しかも学園長の死体で、何者かに胸を刺されて血を流していた。


 第一発見者の私とローゼは、白警団達に長時間の取り調べを受けていた。明らかに白警団達は私達を疑っていた。


「こ、これは破滅フラグね……」

「タビサ、こうなったら犯人を探しましょう!」


 ローゼはやる気いっぱい。若いエネルギーに圧倒されそうになるが、確かにこのままではいけない。


「う、うん。この破滅フラグは折らないとね!」


 私はローゼに同意し、犯人を探し初めていた。


 不安もあったが、大丈夫だろう。ローゼという相棒もいる。学園長殺人事件はシナリオとは全く違う展開だが、この世界の設定やキャラクターもよく知ってるのは有利なはずだ。


 この破滅フラグも必ず折ってやる。私はそう心に決めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ